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勇魔決戦 その⑳

 

 〈炎天の(ドラゴニュート・)暴竜(バーニング)〉。

 レベル50を超えたものが使えるようになる、Sランク魔法の中では基本の「き」でありいろはの「い」である巨大な炎を生み出すその魔法に小細工が仕掛けられた。


 皇斗の身を焼くことになったその小細工とは。

 手順としては簡単で、〈炎天の(ドラゴニュート・)暴竜(バーニング)〉に〈炎天の(ドラゴニュート・)暴竜(バーニング)〉を重ねただけ。

 だが、そんな簡単な小細工はドラコル王国を生きる魔法使いでは想像もつかない──それこそ、現実からやってきた勇者一行にしか思いつかないような小細工だっただろう。


 何故なら、〈炎天の(ドラゴニュート・)暴竜(バーニング)〉はどれだけ重ねようと大して威力は変わらない。炎の密度は増えるだろうが、温度が上がるシナジーなどはあまり期待できないのだ。

 温度を上げるなら、魔法の使い手がMPをつぎ込んだ方が効率がいい。


 ──が、今回茉裕は〈炎天の(ドラゴニュート・)暴竜(バーニング)〉を重ね掛けすることで、〈炎天の(ドラゴニュート・)暴竜(バーニング)〉の中から2本目の〈炎天の(ドラゴニュート・)暴竜(バーニング)〉を飛び出させて不意打ちを行った。

 木を隠すなら森の中──というふうに、火を隠すなら焱の中と言うべきだろう。


「──皇斗!」

 灼熱に閉じ込められた天才の名を呼ぶのは、魔法杖を握るだけの蓮也であった。

 皇斗が〈喰い改める権能(ガブリエル)〉を一撃で斬り伏せて、愛香が〈邪竜天睛(じゃりゅうてんせい)〉を槍の長いリーチを生かして討ち取ってしまった以上彼に見せ場は回ってこなかったし、彼自身見せ場なんてなくたっていいと思っている。


 だが、彼は炎と雷の雨の中を駆ける。彼も、皇斗が重大な戦力であることくらいわかっていた。

 彼が戦闘不能なれば、状況はひっくり返るのは誰の目にも明らかだった。


「──皇斗は任せた」

 愛香は蓮也の方を向かずにそう口にすると、鯀討伐の際に『剣聖』から借りて以降返却していなかったスカイブーツを履いて空へ浮かぶ茉裕の方へと飛んでいく。

 蓮也に皇斗のことを任せ、愛香は茉裕の殺害に専念する。


「──良い靴持ってるじゃない。誰の趣味?」

「これは『剣聖』の持っていたものだから『剣聖』の趣味だな。大量にこの靴を持ってると聞いた時は少し引いたが、お前が魔法で飛んでいるのを見るに、魔法の使えない『剣聖』は靴でマイナスを取り返そうとしたんだろうよ」

 茉裕の軽口に応じる愛香だが、そんな雑談の間にも炎と雷の雨を避け続けている。

 皇斗を燃やした〈炎天の(ドラゴニュート・)暴竜(バーニング)〉は役目を終えたのか、いつの間にか霧消しており部屋の温度が少し下がったような感じがした。それでも炎の雨が降り注いでいるので熱いことに変わりはないが。


「──冥途の土産に教えてやったが、これ以上遺言はない感じか?」

「えぇ、ないわ。遺言なんて」

 茉裕はそう口にして、妖艶な笑みを向ける。愛香は、炎と雷の雨に打たれながらも気にせずに槍を構えて──


「だって、遺言を遺すのは今じゃないもの」

「〈神をも殺す(スクリュー)橘色の(・ドライ)──ッ!」


 愛香が、驩兜を殺した際にも使用した大技〈〈神をも殺す(スクリュー)橘色の真槍(・ドライバー)〉を放とうとしたその時、彼女の吐いていたスカイブーツが魔法で破壊される。

 そのため、彼女の攻撃は茉裕に届くことなく落下して行く。


「──これ以上遺言はない感じ?じゃあ、さようなら。〈大胆不敵な雷神の罠(トール・トリガー)〉」

 愛香は、魔法によって作り出された炎に包まれた空間に墜ちていく。炎の雨は止んだが、雷の雨はしきりに鳴っていた。


「──2人を戦闘不能に陥れたから、次は確実に殺すか」

 茉裕はそう口にして、皇斗と蓮也の方を見るが──。


「──いない」

 魔法杖を握った蓮也が焦っているような表情をしているだけで、そこに黒焦げになった皇斗の姿はない。

 どこに消え──


「この程度で余が戦闘不能になると思っていたのか?」

 皇斗のいつも通りの声が、茉裕の頭上から聴こえる。


「死ぬこと以外かすり傷──ってわけ」

「正解だ。 ──〈絶断〉」


 刹那。

 茉裕の腹に横一文字の線が浮かぶ。そこから血が噴き出て──、


「──〈蛹の死、蝶の生誕(バタフライエフェクト)〉」

 傷口から出てきたのは、新たな茉裕。まるで蛹が羽化するように、蛇が脱皮するように上っ面を剥いで出てくる。光り輝く体が、痩せた茉裕のボディラインを隠している。


「──ッ!」

 流石の皇斗でも、茉裕が脱皮するなんて荒唐無稽なことは考えなかったのか驚きが隠せていない。

 皮を脱ぎ捨てた茉裕は、光り輝く体のまま黒焦げた皇斗の方へと手を伸ばす。


「ちょうだい」

「断る」

 茉裕のおねだりに、皇斗は断固拒否の姿勢を示し、彼女のことを蹴り上げてその反動で地面の方へと落下して行く。着地地点に蓮也の姿が見えたので、彼は空を蹴って巻き込まぬように着地した。


「──装備品は変更か」

 彼女はそう口にして、手元にあった替えの装備を来たようだった。手にはメイから奪った魔法杖が残っており、脱皮した皮と衣服だけが愛香の墜ちた炎の地獄へ落下する。


「──〈スーパー・ヒール〉」

 皇斗は、自分でAランクの回復魔法を使用して火傷を少しでも癒す。

 茉裕戦でどれだけ傷付くのかわからないから回復魔法は温存していた彼だが、流石に限界だったようだった。


「──あー、回復されちゃった。やっぱ皇斗を倒すのは無理かぁ」

 皇斗が回復するのを見て、分の悪さを理解する茉裕。彼女は下唇に人差し指を当てながら、少し思案するような態度を見せる。そして──



「──〈月光に揺れる亡人の影(ドッペルゲンガー)〉」

 茉裕が生み出したのは、上背な男の影。

 黒子のような容姿をしており顔がないその人物であったが、この部屋にいる人にとっては見覚えしかないもので──


「──それじゃ、ここは任せたよ。皇斗のドッペルゲンガーさん」

 茉裕が魔法で生み出したのは、『森羅最強』森宮皇斗と瓜二つの人型だった。

Q.茉裕強すぎない?

A.皇斗と愛香が強すぎる

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
茉裕、強すぎる気もするが、 愛香と皇斗相手だからね。 というか最後のくだり――そう来たか。 最強の矛と盾のような展開だが、 オリジナルにしかない特性が勝利の鍵になりそう。
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