勇魔決戦 その⑲
園田茉裕は本気で焦っている。
彼女は体質のこともあったし、それが人に暴かれることなんてなかった人生を歩んできたからデスゲームに参加する前は余裕を持て余していた。
デスゲームに参加して体質のことが露呈し、生徒会であることが判明した時もここまで焦ることは無かった。
特殊体質が解明された時はこれ以上手駒を増やせないことを覚悟したし、生徒会であることが周知された時は開き直って悪女として立ち回ることを選び、他の生徒会メンバーを上手く隠しつつここまでやってこれていた。
どちらも、彼女にとって少なからず衝撃を走らせたことは違いないが、全ては想定内だったので焦りは少なかった。
第8ゲームが始まってすぐに単独行動を選択し、エットゥ大山脈を登って『魔帝』の元へ向かって〈常識外れの小さな世界〉を見せられた時は「ウザいな」と思うばかりで焦りはしなかった。
王国戦争が始まって梨花に魔法杖を壊された時も、〈鋼鉄の巨人〉に遥か上空へ吹き飛ばされた時も、焦りはしたけど解決策は思いついた。
──だが、今置かれている状況は彼女にとっても想定外のことだったし、解決策が出てくるわけでもなかった。
今、茉裕が敵対しているのは、3人の男女──いや、その内の2人はまだ動いていないから実質1人と言っていい。
森宮皇斗──『森羅最強』の二つ名は、応龍を単独で殺した実力は伊達じゃなかった。
正直、舐めていた。『龍種最強』と謳われる応龍だとはいえ、ゲームであれば大半のルートでは討伐されるのだ。
だから、応龍を殺したところでそう騒ぐほどのものじゃない──そうやって高を括っていたら失敗した。
〈千射観音〉の猛攻を凌ぐために〈常識外れの小さな世界〉を使って幻覚を見せたけど、その幻覚である程度消耗させるつもりだった。
それこそ「皇斗と愛香のどちらかは殺せたらいいな」などと考えてすらいた。
でも、現実は違った。皇斗の圧勝。
──いや、考えなかったわけではない。
第8ゲームをマスコット大先生から告げられた際、茉裕が真っ先に危惧したのは皇斗の強化だった。
ただでさえ強い皇斗に、剣や魔法なんて使わせたら鬼に金棒ではないか──そう考えたのだ。
結局は、茉裕自身も百鬼夜行も強化されるからという理由で納得させてしまったが、想定通り皇斗は強化され過ぎた。
──否。
この第8ゲームで、皇斗は実力を伸ばしたわけではない。
あくまで剣や魔法・弓と手数を増やしただけで、幻覚の茉裕を殺したのは皇斗の体術だった。
第8ゲーム以前からも使用可能だった体術が皇斗の最大の武器だったのだから、鬼に金棒──だなんて考える必要はなかった。だって、鬼は金棒でもあったのだから。
茉裕も茉裕以外の生徒会も、現実世界では皇斗を倒すことができない。
ならば、魔法が存在している第8ゲームで勝利するのが皇斗討伐の最適解だ。
「──しょうがない。幻覚の私を倒したことだし、本気を見せてあげないとね」
茉裕は内心焦りながらも、それをひた隠しにしながらそう口にする。そして、大した作戦も無く大量に魔法を放つ。
──出し惜しみはできない。ありったけを。
「〈炎天の暴竜〉!〈森羅万象を崩壊する重力〉!〈大胆不敵な雷神の罠〉!〈豪炎の実刑〉!〈邪竜天睛〉!〈喰い改める権能〉!」
茉裕は使えるだけのSランク魔法を全て使う。それにより、MPがゴッソリと無くなる感覚を覚えるけれど、そんな不快感など気にしていられない。
「──急いで次を」
持ち合わせのMP回復用ポーションは2本しかない。
というのも、最初の街プージョンを出てからポーションを購入する場所が無かったのだ。
最初は5本ずつあったHP及びMP回復用ポーションも、エットゥ大山脈を越えるのに半分以上を使ってしまった。
彼女は、その2本をいっきに口の中に注いでもしもの時に対処する。
ここで魔法を放ち尽くして──というのも馬鹿らしいから、ここは一先ず様子見だ。
「──妾があの龍を討ってやろうではないか。気持ちの悪い蝶は皇斗、貴様にお似合いだ」
「──龍は任せた」
そう口にすると、皇斗は魔法の嵐の中に飛び込んでいった。
炎の大渦がうねり、より強くなった重力に押しつぶされそうになる中で、炎と雷の雨を避ける。
「──〈喰い改める権能〉。それがお前の名だな」
大きな翼が生えた巨大な口に、果敢に挑む皇斗。
〈炎天の暴竜〉が猛威を振るい、皇斗を飲み込もうとしているのを軽々と回避し、〈喰い改める権能〉の前に迫り──
「──〈絶断〉」
一閃。
空間そのものが斬られたかと錯覚するほど強力な一閃は、軽々と〈喰い改める権能〉を両断する。
〈喰い改める権能〉は魔法だから死なない──いつかそう語ったが、MPの耐久値を皇斗の一閃は上回った。それだけの理由で、〈喰い改める権能〉は霧消する。
「──〈邪竜天睛〉、討ち取ったり!」
皇斗の斜め後ろで、愛香のそんな声が聴こえて来る。茉裕の目に2人の活躍はどう映っているだろうか。
そんなことを勘が絵ながら、執拗に皇斗のことを狙ってくる〈炎天の暴竜〉を回避する──。
「──ッ!」
その時、回避した〈炎天の暴竜〉の中から出てきたのは2本目の〈炎天の暴竜〉。
枝分かれしたかのように生えてきたそれは、回避したばかりの皇斗の身を焦がす。
「──な」
茉裕の不意打ちに一本取られた、皇斗は灼熱の炎の中でそう思うのだった。





