勇魔決戦 その⑱
「まさか、こんなにあっさり死ぬとは。拍子抜けだな」
地に墜ちた茉裕を遠くから見下しつつ、愛香がそんなことを口にする。
茉裕が皇斗の魔法と弓矢にあっけなく敗北した現在から、少し時間は遡り──。
***
龍種の一体である三苗との戦いが行われた城内都市パットゥの第五層に集まっていたのは、3人の勇者。
1人はドラコル王国最強の槍使いで、1人はドラコル王国最強弓使い。そして、残る一人はただの魔法使い。
「──皇斗。どうしてここに駆けて来た?三苗であればもう妾が倒してしまったぞ」
皇斗が応龍を単独で討伐してこの部屋に駆けつけた時には、愛香が致命傷を負って転がり蓮也が突っ立っている光景が広がっていた。
落ち着きを無くしている蓮也に、まずは愛香に回復魔法をかけるように指示してから状況を説明させたのは、今から数分前の話だ。
「余も三苗を倒すのが目的でここに駆けつけたわけではない。できる限り多くの人と合流できればいい──そう考えていた」
先程から城内都市パットゥは何度も激しい振動に襲われており、半壊までしている。
それはきっと、各地で戦闘が行われている証左である──皇斗はそう考えていたし、実際各地で戦闘が行われ、決着が付いていた。
「──では、まず2人と合流できたということか」
「そういうことだ」
残りの勇者一行は17人。効率よく全員と合流できにはどう動けばいいか──そう考えていると、皇斗の視線が天井へと向けられる。
「──ど、どうしたの?」
蓮也がおずおずそう訊ねると、皇斗はいつもよりも一層低い声でこう口にする。
「──茉裕がいる」
「──!」
皇斗の言葉に、思わず息を漏らして変な鳴き声なようなものを漏らす蓮也。
その一方で、愛香は目を細めて皇斗を疑うような目で見る。
「──茉裕がいる。それは本当か?」
「本当だ。2ポンド賭けてもいい」
皇斗はそう口にした後に、天井に向けて炎魔法を放つ。
──そして案の定、茉裕が出て来て皇斗の一方的な魔法と弓でボコボコにされて冒頭に戻る。
流石の茉裕でも、皇斗には及ばなかったらしい。
「──いや、そんなことはない」
「何?まだ茉裕が生きているといいたいのか?」
愛香は、自分の発言を否定されて眉をひそめて皇斗を一瞥する。そして、視線を茉裕の方に戻した。
最初にはなった炎魔法の影響は無いが、無数の矢に穿たれて出血も多い。これで死んでいないと言い切るには勇気がいるが──、
「──〈聖デリアの怨み〉」
「──ッ!」
茉裕が口をパクパクと動かして魔法を詠唱すると同時、皇斗の体に無数の穴が開き、後方に落下──いや、吹き飛んでいく。
「──反撃か!」
咄嗟に弓矢を魔法杖に持ち替えて、無数にある傷口を塞ぐために回復魔法を唱える。そして、壁を蹴るようにして反動を殺した後、床で綺麗に受け身を取ってノーダメージで乗り切る。
「自分が受けた攻撃を、そのままの方法で返す──と言った感じか」
体に無数の小さな穴ができたのは〈千射観音〉によるもので、壁の方へと吹き飛ばされたのが背中kらの落下によるもの──そう考えれば、先程茉裕が行使した〈聖デリアの怨み〉が、自分の負ったダメージを相手にも返す魔法だと考えていいだろう。
「──2つ訂正だ。疑って悪かった。そして、此奴はネズミではなくゴキブリの方が近かったらしい」
「人をゴキブリ扱いだなんて、失礼しちゃうわね」
愛香の軽口に反応を見せるのは、圧倒的に不利な立場にいる茉裕であった。彼女は痛めた背中を擦りながらゆっくりと立ち上がり、体に刺さった矢を抜いて行く。
「回復魔法ってただウザいだけだよね。倒した──って思っても、相手がそれ使っちゃえば回復されちゃうんだから。これまでの努力はなんだったんだーって。〈超回復〉」
癒えていく。
茉裕の回復魔法により、皇斗に付けられた傷がきれいさっぱり無くなっていく。
「──はい、残念。皇斗君が不意打ちで私のことを殺そうとしても失敗に終わりました。次は何を見せてくれるの?応龍を殺した剣技を見せてくれるのかな?それとも華麗な弓捌き?それとも、『魔帝』の私と魔法で勝負をする?」
茉裕が煽るようにそう口にすると、愛香や蓮也よりももっと奥にいたはずの皇斗が一瞬にして茉裕の目の前にせってくる。
「──んな」
「そんなに言うのなら見せてやろう。だが、武器は使わない」
ゲームの世界なのだから何らかの武器を使ってくるだろう──勝手な先入観でそう思っていた茉裕は油断していた。
茉裕は現在魔法の力ばかりに頼っているけれど、思えば彼女も皇斗も現実の世界を生きる者達。
この世界に来る前は剣や魔法なんかに頼らず、拳を頼りにしていたはずだ。
「──かは」
皇斗に首を絞められた茉裕は、息を吸うことができない。このままでは、意識が落ち、落ち落ち落ち落ち──、
「──〈凍てつく氷の……死化粧〉」
最後の力を振り絞る──と言わんばかりに、健吾達を苦しめたSランクの氷魔法を使用する。
息を吸うだけで肺を裂くその氷魔法は、溶かそうと炎魔法を使うと爆発する初見殺し魔法なのだが──、
「──〈殲滅の風〉」
そんな初見殺しすらも皇斗には見破られたのか、暴風が吹き荒れて彼女の最後の抵抗も虚しく終わる。
「これで終わりだ、園田茉裕」
そう口にした皇斗の手で、茉裕の首はあらぬ方向へと折れる。
そして、茉裕が死亡したと同時──
──世界が割れた。
「──ッ!」
「〈常識外れの小さな世界〉。皇斗のこれまでの行動は全て幻覚だよ」
皇斗の腕の中に首の折れた茉裕の姿はなく、代わりに上空から彼女の忌々しい声がする。
これは、一度茉裕も先代『魔帝』を倒すときに引っかかった大魔法──〈常識外れの小さな世界〉。
「───先程のは全て私の作り出した幻覚。『魔帝』がこれほど弱いわけがないじゃないですか」
そう口にする茉裕は、妖艶な笑みを浮かべた。
「───どうやら一筋縄じゃ行かないようだな」
「よいよい、妾も退屈していたところだ。死にたくなるほど殺してやる」
そう口にして、皇斗は剣を、愛香は槍を握る。
───勇魔決戦の第三幕が今、開始する。





