勇魔決戦 その⑧
落ちていく。
半壊した城内都市パットゥを、隕石のようにして落ちていく。
「──残念ね。地の文も語り手も存在しなかったみたい。いや、存在したとして一度たりともお前のことを好きだと思わなかったようね」
梨花は第一層の荒れた地面に落下しながら、剣を持たぬ方の腕で捕まえている茉裕にそんな声をかける。
早く殺さなければ。
魔法杖の破壊は完了したけど、悪女である茉裕が何をしでかすかなんて梨花には想像もつかない。
梨花の想像を超える行動を取られて、折角親友が作ってくれたチャンスを無駄にすることなんかできないから、落下死を待たずに空中で首を斬る必要があった。
「やれやれ、私もここまでか。仕方なく観念してここで死んであげる」
「──だなんて言うと思った?って言うつもりなの?」
「あら、お見通し。恥ずかしいな」
先を読まれていたとわかると、茉裕は舌をチロリと可愛らしく出しながら梨花の束縛から離れる。
「──ッ!逃げ──」
「私の武器、魔法杖だけじゃないんだよね」
そう口にして、茉裕がインベントリから出すのは、一目見ただけで多くの命を奪り獲ったことが瞭然な細い鎌だった。その禍々しいオーラを放つ鎌を向けられ、梨花は思わず唾を飲む。
「──茉裕、アンタは一体その鎌で何人を殺して来たの?」
「んー、別に人はそんな。魔獣は大量に殺したけどね。あ、『魔帝』とその弟子は大体この鎌でトドメを刺したかな。でも確か、1人だけ『魔帝』の弟子がいるらしいんだけど、その子はもう冒険者として自立してるからいなくてさ~」
「──こっちはアンタの殺した人の自慢を聴きたいわけじゃないの」
「じゃあ、攻めて来ればいいじゃん」
「──ッ」
茉裕に武器である鎌を持たせてしまった以上、梨花は迂闊に攻めることができない。
梨花だって、第8ゲームを通じて多少は戦闘方法を身に着けたのだ。
第6ゲームでの鈴華との戦いや、このゲームが始まった時のように愚かにも武器を振り回して特攻することは無い。
「そっちから来ないなら、私から行くよ。〈殺鯨の理〉」
「──ッ!」
縦横無尽に鎌を振り回す茉裕の攻撃を避けるため、梨花も一心不乱に剣を振るう。
リーチが長く刃が曲がっている鎌は、梨花の持つ剣よりもトリッキーな動きをする。しかも、梨花にとって鎌使いを相手にするのはこれが最初だ。その独特な刃の動きに、空中で翻弄される。
「厄介ね。でも──」
落下し始めて早くも15秒が立っている。地球であれば落下にするにつれ加速度的に落ちるスピードが上がるはずだが、ここはゲームの世界。あくまで一定のスピードで落ち続けるようだった。
地面までの残りを確認して、自分が安全に着地するまでに必要な行動にかかる時間を逆算する。
そして、間に合うことを確認して──
「──〈変容する魂の片鱗〉!」
振られた鎌を弾き、袈裟切りと逆袈裟切りを流れるように行うこの技で、茉裕の体に✕印を刻むことを狙う。
──が、鎌を弾くと同時に茉裕がそれに持って行かれるようにして体を横に流したので、肝心の攻撃が当たらなかった。
「空中戦、しずらいわね……」
着地されたら得意の逃げ足で逃げられてしまう可能性がある以上、空中で倒したい気持ちはあるけれどそれは至難の業だった。
梨花が茉裕の方を注視していると、彼女が鎌を伸ばしてくる。
「──〈包囲磁針〉!」
「──ッ!」
茉裕の鎌を回避したはずだったのに、彼女は鎌に引っ掛けられるようにして引き付けられる。
梨花にとっては嬉しい再接近であり、茉裕に剣が届く範囲に戻ることができた。
きっと、昔の梨花なら後先考えずに茉裕の首目掛けて剣を振っていただろう。
だけど、先程も言ったように梨花だって第8ゲームを通じて少なからず経験を積んで成長した。
だから、わざと油断を誘う行為はカウンターを狙っているということで──。
「──ここは一旦、防御!」
「よくわかってるじゃん。〈点対傷〉」
梨花の側頭部にぶつかり、頭蓋を揺らすのは茉裕の持つ鎌の持ちて。茉裕は、刃を直接持って超近距離でも攻撃できるような技を使ったのだ。
「──させないッ!」
梨花は、茉裕の首に向けて振らなかった剣を使って首を狙って迫り来る鎌の刃を抑え込む。
耳元で金属がぶつかり合う甲高い音が鳴り、視界の半分を火花が覆った。
押し合いなら、梨花の方が有利だ。このまま押し切れば、隙が出来て茉裕の首を斬れる。
それは茉裕もわかっているだろう。空中での押し合いに、少し表情を歪めている。
恋人と親友を殺した相手が困っている。何ていい気味だろうか。
そんなことを思っていると茉裕がニヤリと笑い、先程とは逆──要するに、梨花を遠ざけるように鎌を動かす。
鎌の持ちてを背中に通された梨花は、そのまま、大振りで投げられて茉裕とは関係のない方向に飛ばされながら落ちていく。
「──逃がさないッ!」
梨花はそう吠えるけれども、茉裕との距離は遠ざかっていくばかりだ。
茉裕のカウンターを喰らってでも攻撃をするべきだったか──そんな後悔が頭を過るけれども過ぎた過去は変えられない。
絶対に茉裕を殺す。その覚悟を胸に、梨花は着地の準備を進める。
──その一方で、茉裕は命を狙ってくる梨花を遠ざけたことで一瞬の安らぎの時間となる。
「魔法杖を壊されちゃった、誰かから奪わないと」
魔法杖を壊された事実に後に出てくる発想が「強奪」であることが彼女が悪女であることを端的に表しているが、彼女が悪に染まりきっていることなどとうの昔からわかっていたことだ。
彼女は、鎌を駆使して地面に降り立つと、遠くに見えるのは3人の人影。
1人は地面に倒れており、残る2人はそれを見下ろすようにして立っている。
茉裕が目を細めてそこにいる人物を確認すると──
「──純介と紬。倒れているのはNPCか」
そう口にして、美沙を殺した時と同じような妖艶な笑みを浮かべて3人の方へ歩いて行ったのだった。
──茉裕の戦いは、手を変え品を変え、人を変えて次の段階へと進んでいく。
前話での予告通り、次からは茉裕以外の戦闘に行きます!
『無敗列伝』とか書きたい。おもしれー男なので。





