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勇魔決戦 その⑦

 

 ──佐倉美沙は、秋元梨花の親友だ。

 一時は拓人が理由で殴り合いの大喧嘩をしたけど、雨降って地固まる。2人は一層仲を深めるようになった。

 同じ寮だった睦月奈緒が第4ゲームで死に、それが理由で引きこもってしまった橋本遥が第5ゲームの裏で死亡したことも大きいだろう。


 奈緒が死んで完全に閉じこもってしまった遥をどうするかで、2人は話し合った。

 2人になってからは、梨花の恋人になった拓人がいる時以外は一緒にいることも多くなった。

 もっとも、美沙と拓人はお互いに気まずさがあったのか過度に仲良くすることは無かったけれど。


 ──佐倉美沙は、秋元梨花の親友だ。

 だから、美沙は知っている。

 最愛の恋人である拓人が殺されて、その実行を鈴華に指示したのが茉裕であること。

 そして、これまで何度も茉裕に復讐しようとしても失敗に終わっていたこと。


 きっと、デスゲーム参加者で一番茉裕に恨みを持っているのは梨花だ。

 だからこそ、茉裕の復讐を止めてはならない。自分が理由で、復讐をまた失敗にさせちゃならない。だから──


「行って」


 梨花と健吾に届かないような声を口にして、土魔法で作り出した地面を茉裕の方へと伸ばす。

 目の前には、3対の羽の生えた大きな口の怪物──〈喰い改める権能(ガブリエル)〉が迫ってきていた。これに齧り付かれたら、死を免れることはできないだろう。

 それでも、彼女は親友の復讐の実行を優先して「なーがーいー!」

「──ッ!」


 何の脈絡も無く子供のようにそう口にする茉裕に、思わず健吾と梨花の2人は何か強力な魔法の詠唱ではないかと危惧して喉を震わせた。


「──あ、ごめん。びっくりさせちゃった?ただ、なんか回想とかが入りそうだなぁって思ってさ。私はアンタ達2人を殺さないといけないのに」

「回想?どういうことだ」

「いや、だって美沙が死んだでしょ?だから普通なら馬鹿みたいな過去回想が入ってお涙ちょうだいになるかなぁって」

「そんな漫画みたいな」

「あるかもしれないじゃん、漫画みたいなこと。私も漫画好きだから、たまに靫蔓先輩みたいな妄想するんだ。この世界が漫画や小説・ドラマだったならな~って」


 どこか恍惚とした表情で妖艶な笑みを浮かべながら幻想を語る茉裕に、健吾と梨花は眉をひそめる。

 第3回デスゲーム生徒会メンバーだった靫蔓は、自分を「漫画の登場人物」と本気で信じていて、「漫画のコマ枠を掴む」などと言って何もない所にぶら下がるようにして浮いていたが、彼女もそんなことを信じているのだろうか。もしかしたら、魔法で空中に立っている今もコマ枠の上に立っているとおどけるのかもしれない。


「いやいや、靫蔓先輩みたいなことはしないよ?二番煎じは面白くないしさ。するならもっと規格外なことをしないと」

「規格外なこと?どういうことだ」

 茉裕の発言に、健吾が剣を構えたままいつでも殺しに動ける。そう言っているような形だった。


「いやぁ、ね?漫画とか三人称視点小説って語り手とか地の文ってのがいるじゃん?私も一応オタクのはしくれだから、もしそれが実際にいるとしたら──とか考えるわけですよ」

「──まさかッ!」


 彼女が何を言わんとしているのか思い当たる節があったのか、健吾が顔を青くする。

 すぐに梨花も健吾と同じ考えに至ったのか、「もしかして」と喘ぐように息をしながら口にする。


「──そう。そのまさかでもしかして。私ね、今、地の文を操ってるの。もし現実(これ)が、漫画や小説(フィクション)なら──って前提だけどね」


 有り得ない。

 平凡な人生を歩んできた人であれば、茉裕の発言をそう一蹴するだろう。

 だけど、健吾と梨花の2人は非現実を経験しすぎたが故に否定できなくなっている。


 もし地の文が茉裕の意に介すような忖度をするようになっていたら、健吾達が勝利を掴むのは不可能だ。

 絶対に勝てない八百長試合がこれまで行われており、その渦中で美沙は死亡した。


「──じゃあ」

「諦めんな!これは漫画でも小説でもない!現実だ!語り手も読者もいない!地の文なんて存在しない!茉裕が行っているのはハッタリだ!」


 健吾は叫ぶような声でそう口にする。梨花を鼓舞しているようだが、何よりそれは自己暗示のようなものだったのだろう。


「美沙が作ってくれた千載一遇のチャンスを茉裕の嘘とも本当もわからない戯言で無駄にすんのかよ!」

「──しない。けど、足場が」

「大丈夫。まだ、足には美沙が付けてくれた風魔法がある。これなら、いつもよりも跳べる」

「──わかった」


 後ろからは、美沙を食い荒らして梨花と健吾の命を狙う〈喰い改める権能(ガブリエル)〉の羽ばたく音が聞こえている。

 復讐は梨花が。その援護を健吾が。


「──じゃ、拓人の仇は頼んだ。美沙の仇は俺に任せろ」

「わかった」


 2人は目を見合わせることも無く言葉だけでそう口にして、健吾は大きく後ろへと跳ぶ。

 下からは、土魔法でできた道に沿うように〈喰い改める権能(ガブリエル)〉が迫ってきている。

 残念だが、〈喰い改める権能(ガブリエル)〉を斬ろうが、死ぬことは無い。だって、〈喰い改める権能(ガブリエル)〉は魔法だから。〈邪竜天睛(じゃりゅうてんせい)〉は構築している物質が雷であったが故に霧消したが、〈喰い改める権能(ガブリエル)〉は健吾が今出せる最大値のダメージを与えようと消えない。

 美沙を喰らった怪物魔法は、健吾の命までを貪り──爆裂。


「──ッ!」

 健吾が剣を振るうよりも先に、〈喰い改める権能(ガブリエル)〉の内部から大きな爆発音を響かせる。


「──美沙がッ!」

 健吾が短くそう口にする。

 人の最期は油断せず見届けなさい──などと美沙が意趣返しに言ったような爆発は、〈喰い改める権能(ガブリエル)〉の体の多くを傷付ける。


「──〈絶断〉ッ!」

 言葉にならない声で、健吾は落下しながら横一文字に剣を振るう。

 超威力のその攻撃は、〈喰い改める権能(ガブリエル)〉の口をバッサリと斬り、内部からの爆発でできた傷を大きく開く。


 ──〈喰い改める権能(ガブリエル)〉は健吾が今出せる最大値のダメージを与えようと消えない。

 先程はそう説明したが、美沙が内部から魔法で爆発を引き起こしたことで話は変わった。


 〈喰い改める権能(ガブリエル)〉を消滅させるに相応しいダメージが当たり、〈喰い改める権能(ガブリエル)〉は腹の中に蓄えた美沙と共に消滅する。


「──ありがとう」

 健吾は目を瞑り、〈喰い改める権能(ガブリエル)〉の腹の中から援護してくれた美沙にそう口にする。


 そんな感謝の言葉と同時、梨花も茉裕に向かって動き出す。

 茉裕までの距離はあるけれど、健吾は跳べると言ってくれた。だから、跳べる跳べる跳べる跳べ──。


「バーカ。動くに決まってるじゃん。普通に」

 そう口にして、茉裕は後ろにスライド移動して梨花の特攻を回避する。梨花は復讐を完遂できずにそのまま落下していき──、


「──もう一度だ。〈泥土〉」

 〈喰い改める権能(ガブリエル)〉を消滅させた後の健吾が、梨花の足元に魔法杖がなくても使えるCランク魔法〈泥土〉で足場を作る。


 ──美沙の作ってくれたチャンスを潰えさせない。

 その思いが、語り手を操って慢心を手に入れた茉裕への架け橋を作る。


「まず。〈炎天の(ドラゴニュート)──」

「させない──わよッ!」


 魔法を放とうとする茉裕の手から魔法杖を奪い取り、梨花はそれを空中で切り刻む。

 そして、足場を失った梨花と、魔法杖を失った茉裕の2人は落下して行く。


「──後は着地を」

「させないわよ。ただじゃ死んであげないよ」

 そう口にして、茉裕を捨てて逃げようとする梨花のことを茉裕は掴む。


「──梨花、軌道を!」

「逸らさせませぇん」

 茉裕のウザったい声が聴こえると同時、梨花と茉裕の2人は第四層──今は半壊して第一層へと続く穴に吸い込まれるようにして落ちていく。


「──梨花!」

「健吾ー!ありがとう!茉裕は任せて!」

 梨花のそんな声が聴こえて来て、健吾は一人穴ぼこだらけの第五層に残される。


 ──勇魔決戦の第一章は、『魔帝』である園田茉裕が頼みの綱である魔法杖を失い、梨花と一緒に第一層に落下する形で幕を閉じた。

地の文じゃありません、花浅葱です。

茉裕戦(勇魔決戦)はこれで20%くらいです。

長いので、次回で続きへの足掛かりを作った後で、別の戦闘を書こうと思っています。

次は茉裕vs誰になるか予想してみてね。

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雨城蝶尾様が作ってくださいました。
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― 新着の感想 ―
喰い改める権能でガブリエル。 このルビセンスは秀逸ですね。 後、茉裕は能力もさることながら、 口が非常に達者ですよね。 嘘を本当に思わせる天才的な嘘つきですな。
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