勇魔決戦 その⑥
第一層から第四層までが半壊した城内都市パットゥの最上層──第五層にて、『魔帝』園田茉裕と、勇者一行の3人の勝負は佳境を迎えようとしていた。
茉裕の狙いは、勇者一行である第5回デスゲーム参加者を1人でも多く殺すこと。
だから、茉裕の目にゲーム内のNPCである『剣聖』は入り込まないし、殺す価値も無いと思っている。
一方で、健吾と梨花・美沙の狙いは、茉裕を殺すこと。
これまで生徒会メンバーとして散々悪事を働いてきた茉裕を殺すのは、彼らにとってデスゲームを生き延びるのに必要不可欠な道だった。
茉裕は悪であるが故に、健吾達は正義であるが故に、お互いを殺すことを認められている。
それ故、勇者と『魔帝』による勇魔決戦は、他の戦闘では滅多に見れない白熱したものとなり──、
「──〈始まりと終わりの生命〉!」
美沙が魔法を行使すると同時、健吾と梨花の2人が立つ足場に1つの芽が出る。
その芽は、2人を乗せてあっという間に大きくなり葉を生い茂らせた大木へと変化する。
「すげぇな、魔法で木も生やせるのか……」
これがあれば砂漠化も解決できそうだ──などと健吾は心の中で思いつつ、梨花と一緒に葉っぱの中に身を隠しながら茉裕の隙を伺っている。
〈始まりと終わりの生命〉のおかげで茉裕との距離も縮まり、美沙と協力して隙を突ければ3秒もかからず辿り着くことが出来そうだった。
「──高さを稼ぐには最適解だけど、焦っちゃったかな?〈始まりと終わりの生命〉はMPを多く使うし、それに火魔法にも弱い」
「──まずい!」
健吾がそう口にして、隣にいた梨花の手を握ってそのまま空中へとダイブする。
それと同時、茉裕の口から〈崩壊する獄炎〉という詠唱が聴こえて、先程まで2人が乗っていた巨木が燃え始めた。
「──美沙!」
「すぐ作る!」
そう口にして、燃える幹から土魔法で連結する形で、即興の足場を生成した美沙。
2人はなんとかそれに着地して、すぐに高く跳んで茉裕の元へ戻ることを画策する。
「高さは稼げたけど、やっぱ茉裕に辿り着くのは一筋縄じゃいかないわね」
高く跳びながら、梨花は隣にいる健吾にそう声をかける。健吾は、茉裕の方を見据えながら「そうだな」とだけ答えた。
健吾の目に映ったのは、魔法杖を天高く掲げた茉裕の姿で──
「──〈大胆不敵な雷神の罠〉!」
「──マジか!」
健吾と梨花の頭上から降り注いでくる数多もの雷。そして、2人の足元には業火の落とし穴ができていた。
下は大火事、上は雷。風呂になり得ない〈大胆不敵な雷神の罠〉を回避するため、2人は足場の出来上がってない空中に体を投げだすしかない。
「美沙!」
「わかってる!」
美沙は、雷を避けながら落下する2人の足元に足場を作る。2人が強く踏み込んでジャンプすると、その足場は反動によって魔法でできた大穴の方へと落ちていく。
「──健吾、雷が!」
「任せとけッ!〈流星斬り〉!」
健吾は剣を振るって、降ってくる雷の軌道を逸らす。そして、2人は美沙が付くった足場に乗って更に上空へと上がる。
その雷を最後に、空から降り注ぐ稲妻は打ち止めになる。チラリと足元を見ると、第四層での戦闘が理由で開いた第一層まで直通の穴ぼこしか残っていなかった。
──MP不足が理由で〈大胆不敵な雷神の罠〉の効果が切れたようだ。
「──どうやら大技ばかり使ってたから、茉裕のMPは尽き気味みたいだ」
隣の梨花にそう伝える健吾。
茉裕がMP不足を起こすのも不思議じゃない。
だって、Sランクの魔法を何発も連発しているのだ。
第四層で戦闘を行っていた『鋼鉄の魔女』アイアン・メイデンでさえ、何年もの修業の末に自分だけの効率的なMPの使い方を見つけたのだ。魔法使いを始めてまだ一週間と満たない茉裕が、最小限のMPで最大限の魔法を放つことなどできないのだ。
「──休む暇を与えるなってわけね」
「そういうことだ!」
2人は足場を移動しながら顔を見合わせて頷くと、そのまま作り上げられる足場に乗りながら移動を続ける。
「──美沙!MPは大丈夫?」
「うん、大丈夫!2人をちゃんとアシストできるよ!」
美沙はそう口にして、茉裕へと続く足場を作り出すことでMPが足りていることを示している。
──と、その時茉裕が恍惚とした笑みを浮かべる。
首筋を舐められるような不快感を覚えた健吾の頭の中に、突如として流れ込んでくるのは嫌な予感。
MP不足だと思わせるのが茉裕の作戦だとしたら──
「梨花!止まれ!」
健吾がそう口にすると同時、茉裕の口角の上がった口がゆっくりと動く。
「〈喰い改める権能〉」
茉裕の詠唱により生み出されるのは、3対の羽を持った大きな口。それが、健吾と梨花の方へと急降下してきて──
「──〈絶断〉ッ!」
健吾がそう叫びながら剣を振るう。
──が、その剣は茉裕の産んだ怪物〈喰い改める権能〉には届くことは無い。
「避けたッ!?」
「──いや、違う!あの怪物は美沙の方に向かっている!」
健吾の全身全霊を回避し、〈喰い改める権能〉は美沙の方へと猛スピードで飛んでいく。
「──マズい!」
咄嗟に動き出そうとする2人であったが、2人の立つ地面が茉裕の方へと伸びていく。
──ミサのことはいいから、茉裕を倒して。
2人の乗る地面が動くことをそう解釈するのは、独善的だろうか。
ここから飛び降りれば、これ以降茉裕に近付くことはできないだろう。茉裕の討伐を最優先にするのであれば、ここから降りるのは圧倒的に悪手だった。
「──美沙、ごめん」
遥か後方で、人のひしゃげる音がする。
「──健吾、手伝って」
静かに、怒りのこもった声で梨花がそう口にする。土魔法が茉裕の方へ伸びるのを辞めた時、梨花はこう続ける。
「アタシに恋人と親友の仇を取らせて」
健吾はそれを聴き、ただ頷くことしかできなかった。
──美沙の伸ばした地面は、茉裕と同じ高さまで達していた。
梨花と茉裕は、この時初めて対等な高さで睨みあったのだった。





