斧×斧 その④
省略だらけの走馬灯の末、蒼は目を覚ます。
折角意識を落とすのなら、斧の下じゃなくて布団の下が良かったな──などと、軽口を叩く暇も無く、蒼の首目掛けて降り注ぐタビオスの斧を、床を転がることで回避した。
転がることで回避したものの、立ち上がろうにも足が動く素振りお見せないし、手に体を持ち上げる力も入らない。
「──全身の骨が砕けるのも、走馬灯ならよかったピョン」
全身の骨が砕ける人生なんか、誰も経験したことが無い──などと思うかもしれないが、デスゲームの参加者だけでもその先例となるような人物は数人いる。
「──随分と都合のいいタイミングで目を覚ましやがったな」
先程まで蒼が倒れていた場所に斧を振り降ろしたまま、視線だけを蒼の方へと向けるタビオス。
きっと、先程の省略だらけの走馬灯は蒼が生き延びるための仕組まれたものだったのだろう。
「僕は奇跡の子だから、このくらい余裕だピョン」
心の中では焦りもあったが、それを見せずに軽口を言う蒼。
だが、四肢の骨が折れている今の状態では、斧を振るうどころか立ち上がることさえできない。
──が、それは何もなかった場合の話だ。
「余裕ぶりやがって、お前は後逃げ惑うことしかできねぇんだよ」
蒼の斧は、タビオスの足元に転がっている。首を斬る際に邪魔だったからどかしたのだろう。
だから、蒼は現状武器を持っていない。戦うにして、取り返してからになるだろう。
「ふっふっふ、僕は空元気を振りかざすほど弱い男じゃないピョン。僕の友達に誰がいるのか知ってるピョン?」
「お前の友達だぁ?そんな性格のお前の骨を拾ってくれるような友達がいるとは思えねぇなぁ」
「『剣聖』」
蒼は、骨が折れている中で人差し指を立てて走馬灯に出てきた猛者オタクの二つ名を口にする。
「──あ?」
唐突に出てきた『剣聖』の2文字に驚き、タビオスは言葉を失う。
「僕は『剣聖』と大の仲良しだピョン。それこそ、僕の家──というか、宿に遊びに来てくれるし、この前は家にも招待されたピョン」
「──お前が、あの有名な『剣聖』と友達なのかよ?信じられねぇな」
「知らなかったピョン?僕は『剣聖』と一晩語り明かすような仲だピョンよ?まだまだだピョンねぇ」
正確には、「『剣聖』が1人で語り続ける」と言った方が正しいのだろうが、蒼はその事実を隠してタビオスに話を振りかける。
「あれ、その反応。もしかして、タビオスきゅんは『剣聖』と喋ったことないピョン?」
「──うるせぇな、『剣聖』なんかめったに会える人じゃねぇ!アレンとかメイとかは会ったことがあるようだが、俺様はねぇよ。悪かったな」
そんなことを口にするタビオス。苛立ちの中に、悔しさや悲しみといった感情が見え隠れするような気がした。
それを見た蒼は、ニッと心の中で笑みを浮かべる。『剣聖』と仲がいいアピールは、タビオスの冷静さを欠くことができる重要なポイントになる──そう、確信した。
「へぇ?じゃ、『剣聖』に会ったことないピョン?『剣聖』って、強い人には自分から会いに行くような性格だけど、タビオスきゅんのところには来なかったピョン?」
その言葉に、タビオスに対しての返事は来ない。代わりに、舌打ちが響き割ったが、蒼はそんなことを気にしない。
「──あ、そうだ!僕は『剣聖』にプレゼントを貰ってたんだ!タビオスきゅんも興味あるピョン?」
蒼は、そう口にするとインベントリから例の壺を取り出す。ニーブル帝国から取って来た宝だ──みたいな云々を色々言っていたけど、もう忘れてしまった。『剣聖』の話を全て覚えている人なんて、きっとこの世にはいないだろう。
「──お前が『剣聖』から貰ったものなんて興味ある訳ねぇだろ」
「あ、そう。タビオスきゅんは強がっちゃって仕方ないピョン。頑固な男はモテないピョンよ。あ、そもそも強面だからモテそうにないかぁ」
そう口にして、蒼は壺の蓋を開けて中を覗く。中には、光を反射して虹色に光っている少量の液体があった。
「強がってねぇ。俺はそんな壺には興味がねぇ。『剣聖』に会って話がしたいだけだ」
「へー、じゃあ『剣聖』に会えばいいピョン。『剣聖』もここに来てるピョン。僕が声をかけたから」
「──あ?」
驚きの声を口にするタビオスの前で、蒼は壺の中に入っていた液体を余すことなく口にする。
体が熱く火照り、痛みを発していた手や足・胴体が燃えるような感覚を覚える。そして──
「──お、流石は『剣聖』御用達の回復ポーションだピョン。ニーブル帝国かどっかの宝には相応しいピョン」
蒼の体は、全快する。体の調子を見ようと、手足をブラブラと動かしてみるものの違和感はない。
「君がさっき与えてくれた攻撃も、いとも簡単に全回復だピョン!まだまだ、戦える──ゴヘッ!」
そう口にして、ジャンプを試みた蒼だったが、想像以上の高さが出て、天井に頭をぶつけてしまう。
「痛ァ……なんだこれ、めっちゃ高く飛んだピョン……まさか、僕のウサギの血が覚醒して──」
──と、蒼はそんな冗談を言ってみるけれど、口では違うことがわかっていた。
そして、蒼は大体察しがついていた。
「何をして──」
「おお、足も速くなってるピョン!」
タビオスの疑問を遮るようにして動き、いつの間にか自分の斧を回収してタビオスの後ろに立っている蒼。
『──このポーションはね、傷を治すだけじゃなくて毒無効だったり、跳躍力や推進力の増強だったりと色々なバフがあるんだ』
説明の中で、『剣聖』がそんなことを話していたような気もする。具体的になんと言っていたか覚えてないが、とりあえずプラスに働くなら悪くない。
「──さ、勝負を再開しようピョン。今の僕って、負ける気がしないピョン」
タビオスに向けてそう口にする蒼。虎の威を借りる狐ならぬ『剣聖』の威を借る兎の軽口は、まだまだ留まるところを知らない。





