4月4日
4月3日はすぐに終わってしまい、退屈に過ごしていた。自分の個室でダラダラと過ごしていた俺は、大きなあくびをする。
そして、4月4日は日曜日なのだが、話し合いで「不要不急な外出は控える」などと2020年ほどに流行った新型コロナウイルスの対策と似たようなことをし始めたが為に俺は部屋に引きこもる一方だった。
日曜日だと言うのにも関わらず、いや日曜日だからこそこれほどまでに体たらくに生活していた。
***
村田智恵───私は焦っていた。
現在の時刻は4月4日の午後10時30分。まだ、部屋の外に出れてない。
4月2日の午後5時から、部屋の外に出れていないので丸2日は部屋の中に閉じこもっている。
「もうすぐ今日が終わっちゃう!なのに...扉の番号もわからない!」
私は、スマホとにらめっこをする。充電がこれほどまでに3度ほど切れそうになったので今は4度目の充電をしている最中だ。充電中にスマホを使うと負荷がかかるなんて聞くが、今はそんなことを考えている暇はない。
以下の文字を入れ替えてできる文の答えが部屋の鍵の解除ナンバーである。
i h u d r a r y w s h i t b n y o e
hint1:GGAGCBGGAGDC
hint2:ユーノウン・マザーグース
答え _ _ _ _
2つのヒントを公開されても、私は答えにたどり着かなかった。「ユーノウン」は「私が知ってる」と訳していいのだろうか。どちらにせよ「マザーグース」の意味がわからないので意味がない。ヒント1の暗号なんか、求める答えより難しそうだ。
「うーん...どうすればいいんだろう...」
私は、マスコット先生の「死ね」というド直球過ぎる言葉に心が大きく揺れ動かされていた。
課題が解けなければ、やっていないと同じだ。だから、私は殺されてしまうのかもしれない。
「出れない...出れないよ...どうすれば...」
私は、焦っていた。もうこのまま一生外に出れないまま死んでしまうんじゃないか、と。
「どうすればいいのよ...」
何もわからなかった。助けてほしかった。紬。梨央。美緒。栄。助けて。
助けを求めても、扉は開かない。だから、頑張って開けなければならない。
「どうすればいいの...どうすれば...」
これほどまでに焦りを感じたことがあるのは、いつぶりだろうか。高校1年生の頃、彼氏の犯罪がバレ私のせいにされた時だろうか。
心臓がバクンバクンとなっている。高校2年生の時に1度留年してしまい、焦りもある中確実に「帝国大学」に行けるとわかっていたからと言って、ここに応募したのも間違いだったのかもしれない。
「どうしよう...どうしよう...」
私は、一度留年していた。皆は17歳だけど、私一人だけ18歳なのだ。
「私は頭が悪いんだよ...だから、やっぱりデスゲームなんて無理だよ...」
思い出すのは、私を裏切った彼氏の罵倒。
{お前なんか、生まれてこなければよかった!お前さえいなければ俺の人生は狂わなかった!お前が、ヘボやるから!死ね!死んじまえ!お前なんか、死んでしまえ!}
彼氏が、警察に連れて行かれる時に言われた罵倒。そうだ、私なんか生まれてこなければ───
「誕生...日?」
直感的。あまりに直感的だった。この鍵の答えは、誕生日なんじゃないか。そう本能的に直感的に理解できた。
私は『0725』と入力する。すると、鍵が開く音がした。
「やった...どうして、最初に試さなかったんだろう...」
頭が悪い私は、考えなしに適当な数字を入れればよかった。だけど、そんなこともしなかった。
本当に私は愚かだ。
そう思った刹那、私のスマホは振動する。そして、画面を見て気付いた。
「───嘘」
私の課題は、今始まったばかりなのだと。私は急いで時計を見る。時刻は午後11時13分だった。
「もう、1時間もない!」
私に与えられた宿題。それは───
「同性の同棲者と3時間以上同じ部屋にいろ。もしくは、異性とハグをしろ。なお、このメッセージを見せた場合のみ課題達成にはならない」だった。
「3時間って...無理じゃない!」
残る選択肢は、「異性とハグをしろ」だった。
「でも...私とハグをしてくれる人なんて...いないよ...」
智恵ゲンナリとした。
「でも、諦める訳にはいかない...よね...」
私は外に出る。外は、もう闇の中だった。23時だし、当然だろう。
「───ハグしてもらわないと...」
私達チームFの寮に近いのは、チームDとチームEだった。チームDには岩田時尚・橘川陽斗・津田信夫・森宮皇斗が、チームEには宇佐見蒼・中村康太・西村誠・渡邊裕翔がいる。
「───でも」
私は、走り出した。ハグをする程度ならば、1分あれば余裕でできる。
───でも、23時59分に達成するのと23時15分に達成するのとでは安心の度合いが違う。
それに、求めた人物に早く会いたかった。
私は、チームCのチャイムを鳴らす。
「はーい...」
出てきたのは、純介だった。
「純介!栄を呼んできて!」
「さ、栄を?わ、わかった!」
純介は家の中に戻り、栄を呼んできた。
「どうしたの?智恵」
「あ...あの...栄!」
私は、栄の顔を見る。自分の顔が赤くなっていくのを感じる。
「私に手伝って!」
そう言って、私は栄に抱きついた。男らしい胴体が、私の体にあたる。
「え、え、な、何?」
栄は戸惑っている。私は、栄の胸に顔を埋めてからこう答えた。
「課題...だから...」
栄は、私の頭に手を置いた。その手は、とても温かかった。
流石に閑話は挟みません。
それにしても、過去に何があったんだ...智恵。





