4月3日 その⑦
本日は投稿が遅れた分、長くなっています。
───長くなったから、投稿が遅れました。
康太の言葉。それは、「犯人はまだ見つけられていない」と言うことだった。
「推理の材料はかなり手に入った」とも言っていたが、これは彼なりの皆への気遣いであろう。
つまりは、まだ犯人は見つかりそうにない。それどころか、皆からヒントを得たとしても、それを証明する人がいないので推理はまだ1歩も進んでいないのだ。
前進も後退もしていない今、もっとも無駄な時間を過ごしたとも言えるだろう。
「うーん...健吾から見たら誰が怪しいんだ?」
「皆怪しく感じるよ...と言ったら聞いてもらった意味がないね。推理ではなく、時間的にもアリバイ的にも殺せそうな人は数人いるんだよね...殺して死体を並べるようじゃ時間がかかるし...昨晩の10時くらいに、結城奏汰君と杉田雷人が見たって証言してたよ。あ、2人と平塚さんは同室だね」
「そう...なのか...」
昨晩の10時に見たということは、犯行が行われたのは午前5時以降だと言うことだ。
いや、2人が共犯だと言う可能性もあるだろう。
「って、こうやって疑ってるから犯人を絞れないのか...」
そして、思い出す。昨日の4時頃に白髪の人物が外を歩いていたことに。
「そうだ!昨日17時前に、白髪の人がA棟に向かって歩いていってたよ!」
思い出したように、俺は立ち上がりそう声を出す。
「本当か?」
康太が俺の声に若干驚きつつもその言葉の真偽を確認する。
「あぁ、そしてこのクラスの白髪は細田歌穂だけ!彼女は部屋に入らずに外でずっと待機をしてたってことだ!」
「部屋に入らないと言うことは...課題を捨てたっててことか?」
「いや、殺しが終わった後入れば問題はない...でしょ?」
俺は自らの持論をツラツラと語っていく。
「こういう事か?細田歌穂さんは17時前に校内に侵入。そして、21時前に平塚ここあさんを殺害し家に戻る。もしくは、翌日───今日の5時以降まで学校に潜入し、平塚ここあさんが来るのを待っていたということか?」
「あぁ、最初見た時は生徒会室に行くためだと思ったよ。でも、生徒会室への集合は17時だった!課題を解かなかった場合{死ね}とマスコット先生はメッセージで言っていたけど部屋に入らなければ{死ね}と言っていた訳じゃない!当たり前だ、だって生徒会のメンバーは集合をかけられているのだから!そうでなければ、生徒会メンバーは確実に死んでしまうからな!これも、クエスチョンジェンガと同じで穴なんだ!課題さえ行えば死なない!」
「正確には、課題と禁止行為を犯さなければ...だけどな」
目の前に座る健吾が、そう付け加える。
「細田歌穂さん、それで実のところはどうなの?」
康太がそう細田歌穂に問う。ここまで、俺の意見を黙って聞いていた彼女。
「あぁ...ごめんなさい、神様。アタシが...アタシが平塚ここあさんを殺してしまいました...」
細田歌穂は、胸の前で手を合わせて椅子の上から崩れ落ち、膝立ちになる。そして、目を閉じて神に祈るかのようなポーズを取る。
「アタシが全て悪かったんです...」
俺の推理が見事的中した。そう思った時だった。
「───なんて言うとでも思った?残念、全て不正解よ、池本栄君!」
「───は?」
細田歌穂はその白髪を揺らしながら立ち上がった。
「静かに聞いていれば、人のことを生徒会だの殺人犯だのイカサマ師だの言いやがってよ!」
細田歌穂は、俺に近付き首元を掴む。その美貌が、俺の目と鼻の先まで近付いた。160cmも無さそうな彼女に、首元を掴まれる176cmの俺。
「まぁ、いいわ。全てはアタシの証言を聞けば覆るから」
そう言うと、俺の首を引き寄せて彼女の顔が俺の耳元までやってくる。そして、こう呟いた。
「アタシを犯人仕立て上げるなんていい度胸ね。あなたの悲鳴を今度聞かせてね」
俺にだけ聞こえる声でそう呟いた。そして、自分の席に戻っていく。
「まず、アタシが何故学校に戻ったのか。その理由はコレよ」
細田歌穂は、そう言うとスマホを取り出した。
「アタシは課題をする為にこのスマホを取りに学校に戻っていったの」
「スマホを学校に忘れたのか?」
「いや、置いていったのよ。宇佐見蒼君・園田茉裕ちゃん・津田信夫君・山田稜君の4人と同じでね」
「───ッ!」
彼女は、見事に隠しきったのだ。マスコット先生にスマホを見つからず隠しきったのだ。
「池本栄君の生徒会室に向かったんじゃないかという証言。それは、正しいわ。アタシはスマホを取りに生徒会室の前までは行ったわ」
「そうなのか?」
「えぇ、そうよ。その証拠にこの録音がある」
細田歌穂は、その動画の再生を始めた。直後、そのスマホから流れてくるのは非常ベルの音。
”ジリリリリリ”
「───もしかして」
康太の点と点が繋がったような声。
「えぇ、そうよ。アタシが非常ベルのボタンを押したの。マスコット先生の気をそらすためにね」
細田歌穂は動画を進めていく。嵐のように五月蝿い俺達が温水プールにへと向かってB棟の4階を去った後。
「生徒会室内をくまなく探せよ!スマホを隠したやつは必ずいる!」
「「「はい!」」」
動画内から聞こえてくるのは、そんな音声。稜達のスマホを探しに数人の人物がやってきたのだ。
「ちゃんと、スマホを探したら撮影データはしっかりと消去しとけよ!」
「「「はい!」」」
そう言っていた。
「アタシは、設置してたのよ。スマホを。でも、課題をするのにはスマホが必要だったから取りに行ったの。栄君は、寮に戻るアタシは見てないの?」
俺はそう問われる。静かに頷いた。
「この動画は、アタシだけの秘密にしておくつもりだったけどまぁいいわ。これで疑いが晴れるのならば安いものよ」
「で、でも...まだ、犯人じゃないって決まったわけじゃ...」
再度、細田歌穂が近付いてくる。そして───
”ドゴンッ”
俺の腹にやってくるのは、一発の衝撃。腹部にある内臓が悲鳴をあげている。そんな強烈な一撃を食らう。
「───う」
俺は、細田歌穂の顔を見る。その顔は、とても幸せそうだった。
「何を───」
「何をって、課題をしたのよ。アタシの課題は{誰かを本気で殴れ}ってものよ。ほら、証拠が欲しいなら見せてあげるわ」
細田歌穂は、俺にスマホの画面を見せつける。そこには確かに「誰かを本気で殴れ。このメッセージは見せてもいい」と書いてあった。
「文句あるかしら?あなただって、クラスメートのアタシが死んだら悲しいものね。それとも平塚ここあさんみたいにアタシも殺されちゃうのかしら?」
そう煽るかのように、こちらを見ている。
「歌穂ちゃんの言ってることは...本当です...それに、ちゃんと寮にも帰ってきてました...」
そう助太刀するように述べるのは細田歌穂と同じチームの綿野沙紀だった。
「もう一発、殴ってもいいかしら?」
細田歌穂は笑顔で俺にそう問う。俺は、動けなかった。蛇に睨まれた蛙のように、石のように固まってしまった。
「2人共、議論は殴ってするもんじゃない。言葉で行うものだ。細田歌穂が犯人じゃないってことは十分にわかった。とりあえず、今日はお開きだ。もう、話し合えるような冷静な雰囲気じゃない。明日も少し頭を冷やそう。外出はあまり相応しくないから自重してくれると嬉しい」
康太はそう言って、議論を無理矢理にでも集結させた。
「しょうがないわね、栄君。この続きはまたいつかしましょう。アタシは逃げないし、逃さないから」
そう言って、細田歌穂は教室を出ていった。
「栄君、大丈夫か?」
そう手を伸ばしてくれたのは会議を取り仕切っていた康太だった。俺は、彼の手を握り立ち上がる。
「栄君が意見を言ってくれたのは嬉しいよ。君は皆のことを考えて行ってくれたんだろう?でも、決めつけはだめだ。推測の域を出ないものはもっと慎重に話さないと」
俺は、そう戒められた。これも、康太からの優しさだと捉えた。
───そして、この日───4月3日はその後何事もなく終わりを迎えた。
なお、まだ智恵の姿は一度も見ていない。





