第三章 第九話 魔剣の処分 後編
俺はミレニアの運転する馬車の助手席に座り、目的地にたどり着くのを待つ。
「アスラン様、あそこの洞窟でいいのですよね?」
「そうだ。そのまま真っ直ぐに進んでくれ」
今向かっているのは殆ど人が出入りしない洞窟だ。そこなら、この魔剣に擬態しているこいつを処分しても、周辺に危害が及ぶことはない。
洞窟の前に着くと、ミレニアが手綱を引っ張って馬を止める。
「アスラン様、到着しました」
「ありがとう」
彼女に礼を言うと、馬車から降りて洞窟の奥を見た。
「洞窟の中は暗いな」
原作の方では光を放つクリスタルがあった。そのお陰で灯りを必要とはしなかったが、まさかここで食い違いが出てくるとは予想外だったな。
「アスラン様、これをどうぞ」
ファイヤーボールを使って明るく照らそうかと考えていると、ミレニアが何かを差し出した。
「これは松明か?」
「必要になるかと思い、事前に準備をしておりました」
さすが万能メイドだ。用意周到だな。
「ありがとう。助かった」
ミレニアに礼を言うと、彼女はやわらかい笑みを浮かべる。
松明を使い、周辺を明るく照らすと、俺たちは洞窟の中に入って行く。
体感で五分くらい歩いただろうか。
洞窟は行き止まりになっており、先に進むことができない。
「行き止まりのようですね?」
「ああ、だけど問題ない。ここで始めるつもりだったからな」
俺は持ってきた三つの剣を鞘から抜くと、地面に投げ捨てる。
しばらく様子を見ると、地面に捨てた剣から触手のようなものが現れた。
「アスラン様、これはいったい?」
「ミレニアは見るのが初めてだったな。こいつは寄生型のミミックだ」
「剣に擬態しているミミックは初めて見ました」
剣は独りでに立ち上がると、触手を俺に放つ。
「誰が寄生されるかよ! サモンウエポン!」
脳内で想像して得物を得ると、俺は迫り来る触手を斬る。
『キエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ』
ミミックは耳を劈くような悲鳴を上げた。
洞窟の中だから余計に響く。
すると、仲間の悲鳴を聞いて目覚めたのか、残りの二本も独りでに立ち上がり、俺に向けて触手を放つ。
「だから寄生なんかされるかよ!」
先程と同様に敵の触手を斬り、寄生されるのを回避する。
やつらは寄生することで宿主を操り、肉体を滅びへと導く。
やつの触手に肉体が刺されると、神経を伝って脳に侵入される。
運動神経の抑制を外すことで、限界に近い力を発揮するが、最終的には肉体が耐えきることが出来ずに滅びてしまう。
原作の方ではアスランがミミックに寄生され、御前試合に勝って行くが、決勝でキーファと戦う最中に身を滅ぼすことになった。
絶対にあの触手に触れる訳にはいかない。
「アスラン様! 危い!」
考え事をしていた俺は、ミレニアの声が聞こえ、我に帰った。
ミミックの触手が壁を突き抜けて俺の前に来ていた。
おいおい、そんなのありかよ。
「アスラン様!」
ミレニアが俺の名を叫ぶ声が聞こえた瞬間、俺はメイドに押し倒された。
起き上がると、俺の目に映った光景は、ミミックの触手に身体を刺されたミレニアの姿だった。
「あっあっあ」
「ミレニア!」
俺の身代わりとなって、ミレニアがミミックの触手の餌食になってしまった。
「アスラン……様」
メイドは俺の名を呼ぶとその場に倒れた。
「おい、ミレニア! しっかりしろ!」
彼女に駆け寄り、メイドを抱き起こす。そして何度も声をかけるが、ミレニアは返事をすることはなかった。
まずい。このままではミレニアがミミックに支配されてしまう。だけど強引に触手を引き抜くわけにはいかない。
強引に引き抜けば、彼女は死んでしまう。何か方法を考えなければ。
思考を巡らせていると、ミレニアは目を覚ました。その瞬間、彼女から背筋が寒くなるほどの殺気を放たれ、俺は後方に跳躍して距離を空ける。
「完全に支配されてしまったか。こいつは少しだけまずいな」
瞬きをした瞬間、ミレニアは一瞬にして間合いを詰めた。そして俺の首を狙おうと、ミミックが擬態した剣を振る。
ギリギリ剣の軌道が見えた俺は、体勢を低くして攻撃を躱すとメイドに足払いをかけた。
俺の足が当たると、彼女は体勢を崩してその場に倒れる。
今の内に距離を空けないと。
後方に跳躍してミレニアから離れると、俺は戦略を考え直した。
あの瞬発力は、ミミックが脳のリミッターを外している証拠だ。このままでは体に負担がかかって、彼女の肉体がもたなくなる。
そうなる前に、あの魔物を彼女から切り離す。
ミレニアは生まれたたての子鹿のように、足をガクガクとさせながら立ち上がった。
まだミミックがミレニアの体に慣れていない。攻撃するなら今だ。
寄生型のミミックに体を乗っ取られた場合、寄生された人物にダメージを与えること。それが助けることのできる唯一の方法だ。
神経を通して脳を支配していると言うことは、逆に宿主の痛みが神経を通して魔物に伝わる。
彼女を助けるには、ミレニア自身を倒さないといけない。
仲間を傷つけるようなことはしたくはないがもう、この手を使うしかない。
俺は頭の中でイメージを膨らませる。
「ショック!」
体内の神経を活性化させることで、心臓に戻る血液量が減少したミレニアの身体は意識を失い、その場に倒れた。
宿主が倒れたことで、ミミックはミレニアの肉体から離れた。そして新たな寄生先である俺の身体を貫こうと、触手を伸ばす。
「お前たちは許さない。この一発で終わらせる!」
俺は次の魔法を頭の中でイメージする。
物質の固有振動数と同じ周波数の音を浴びせることにより、対象を破壊することを可能にする魔法だ。
ミミックと同じ周波数の音を出して振動を加え続けたことで、やつの肉体が疲労破壊を起こす。
「ゼイレゾナンス・バイブレーション」
『『『キエエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェ!』』』
ミミックの肉体を構成している魔剣は、振動を加え続けられたことによりヒビが入った。
そしてそのヒビは全体に広がり、最後は粉々に砕け散る。
「これで魔剣の処分は完了したな」
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