第二章 第九話 御前試合への招待
「これで俺の勝ちだ」
俺は拳を父親の喉元に突きつけ、勝利宣言をした。
「確かに、今の状況ではお前の勝ちのように見えるが、まだまだだな。油断は死を意味すると教えたはずだぞ」
「何!」
アスランの父親の言葉に一瞬驚いてしまった俺は、気づくと地面に倒れていた。
足払いか。確かに勝利を確信して油断をしていた。彼の目がまだ諦めていなかったことに気付くべきだったな。
「今度はこちらの番だ!」
父親は倒れている俺に向けて剣を振り下ろす。
そう簡単にはやられないっての!
横に転がりながら敵の一撃を躱す。そして素早く立ち上がって彼と対峙した。
彼は騎士団長として、そしてアスランの父親としてのプライドがある。きっと簡単には負けを認めないだろう。
彼を認めさせるには同じ土俵に立って勝つしか方法はないだろうな。そうなってくると、俺も剣で勝負するしかない。
子供の頃は剣道をしていたから剣を扱うことができるし、西洋の剣術も知識としては持っている。大丈夫だ。例え剣の勝負であったとしても負けることはない。
頭の中で西洋の剣をイメージする。
「サモンウエポン」
魔法を使って剣を生み出し、俺はそれを握ると構えた。
剣と姿勢をまっすぐにし、左足を前に出して肩幅を開き、膝をリラックスさせる。
そして裏刃も使えるように肘を張った。
「フォム・ダッハか。まさか剣術嫌いのお前が剣術の構えを取るとは予想外だったな」
「こうでもしないと、親父は負けを認めてくれないだろう。騎士団長ともあろうお方が、剣で負ければ敗北を認めざるを得ないからな」
「ふん、威勢だけはいい。なら、後悔だけはするなよ! この愚息が!」
アスランの父親は左足を前に出して切っ先を俺に向け、右の頬の横で雄牛の角の如く構た。
オクスの構えか。だけど構さえ分かってしまえば、いくらでも対処することはできる。
「俺の剣術と戦場での経験を簡単に超えられるとは思うな!」
親父は地を蹴って走り、俺との距離を詰めてくる。
十字鍔のキヨンを自分の顔より前に出して顔面を守り、右手の親指は下に向けて腕はクロスにしている。
この構えからいかにも突きによる攻撃がくるかと思うが、それは姿勢からそう思わせるためのフェイク。本当の攻撃は水平斬りのツヴェルヒハウだ。
俺は後方に跳躍する。すると読み通りに彼は剣を横に振った。
「何! 俺の攻撃が読まれた!」
「何をそんなに驚いているんだよ。剣の構えを知っていれば、次にどのような攻撃が来るのか容易に想像ができる」
「くっ、腐っても俺の息子なだけはあるな。ならこれならどうだ」
また体勢を変えたな。今度は左足を下げて右足を前に出している。腕を左に下ろして切っ先を正面下に下げた構えだ。
この構えは確か愚者の意味を持つアルバーだな。一見ノーガードの様に見えるが、切っ先は地面に降ろして剣を垂直に立て、左手は柄頭のポンメルの上に重ねている。
右手を軸に左手でポンメルを押し下げることで、梃子の応用で剣先を持ち上げるよりも早く上を向かせることができる。
もちろん、この構えからの反撃方法は存在している。成功できるかどうかは俺の実力次第だ。
「どうした親父、構たのなら攻撃してこいよ。もしかして年のせいで忘れたか? なら、俺がやり方を教えてあげようか?」
「吐かせ!」
アスランの父親は構えを維持したまま突っ込んできた。
剣術が嫌で格闘や魔法に逃げた息子が、簡単に自分の攻撃を避けているんだ。頭に血が昇って挑発には乗りやすいと思ったが、予想以上に上手くいってくれた。
さて、カウンターといくとするか。シャッテルハウを使わせてもらう。
親父はアルバーの技である突き上げをしてきた。
俺はその攻撃を横に逃げつつ、振り下ろす剣は相手の両腕で作った三角形の中を狙う。
振り下ろしたときに手首を下げて肘は上に上げて張った。
「グアッ!」
咄嗟に刃の横にして刀身の方で殴る。
痛みにより手が痺れて感覚をなくしたようだ。アスランの父親の手から剣が滑り落ちる。
その瞬間を逃さなかった俺は、素早く地面に落ちた剣を拾い、二つの剣をクロスして彼の首筋に添える。
「さぁ、今度こそ負けを認めてくれるよな。ダディ?」
「ああ、どうやら俺の完敗のようだ。まさかカウンター技を知っているとは思わなかった。だけどまだ甘いな。本物の騎士であれば、例え相手が肉親であっても腕を切り落としていた」
「悪いが俺がなりたいのは騎士ではなく冒険者だ。俺は自由に生きて魔物を倒し、女の子にモテて最終的にはハーレムを作る。これがファンタジーの醍醐味だ」
俺の言葉を聞いた親父は苦笑した。
「途中からお前の言っていることがわからなかったが、女の子にモテたいと言うのは同じ男として十分理解できる。俺が騎士団長になったのもモテることが目的だったからな」
マジかよ。血は争えないな。まぁ、さっきのセリフはアスランの意思ではなく、俺の意思なんだけどな。
「この俺を倒したんだ。本当であれば俺は騎士団長を辞めてお前に譲るべきなんだが、騎士になるつもりはないのだよな」
「当たり前だろう。二度同じことを言わせるなよ」
俺は彼の首筋から剣を離す。そして親父の剣を返した。
「アスラン」
「お兄様!」
勝負に決着が付くと、宿屋からカリンとセリアが出てきた。
そうだ。親父の誤解を解かないといけないな。
「親父は何か勘違いをしているかもしれないが、セリアはこう見えても十六歳だ。来年は成人するぞ」
「何だと! 俺はてっきり、お前がロリコンに目覚めて犯罪を犯してしまったと思ったぞ」
あー、やっぱりそんな風に思っていたのか。
「言っておくが俺はロリコンではない。セリアとは縁があって、同じパーティーを組んでいるだけだ。彼女が裸だったのは、色々とあるんだ。そこは察してほしい」
「分かった。勘違いをした俺も悪いし、ここは深く考えない様にしておこう」
さて、これで一応ざまぁは回避したことになるのかな? アスランの父親からボコボコにされなかったんだ。ざまぁは回避できたと思っていいだろう。
「そうだ。お前にこれを渡そうと思っていたんだ」
親父は懐から封筒を取り出すと俺に渡した。
封筒にはこの国の押印が押されてある。
「お前に王様から御前試合の招待状を届けるように言われたんだ」
彼の言葉を聞いた俺は苦笑いを浮かべる。
もう次のざまぁへのお誘いが来たのか。
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