第二章 第八話 次のざまぁフラグが成立したけど、やっぱり内容が変わっている。
「もう朝か」
窓から降り注ぐ太陽光を浴び、俺は目を覚ます。
首を右に向けると、そこには婚約者であるカリンが気持ち良さそうに寝息を立てていた。
そして今度は左を見ると、兄だと慕っている義妹のセリアが眠っている。
最初の頃は緊張してまともに寝られなかったけど、今ではもうすっかり熟睡できる様になったな。
慣れとは本当に恐ろしいものだ。
二人を起こさない様に気をつけながら起き上がり、ベッドから出る。
「さて、今日はとてもいい天気だし、特に変なイベントは起きないだろう。今日は一日スローライフでもしていようかな」
両手を上げて伸びをしたところで、扉がノックされた。
まだ朝の早い時間帯のはずなのに、いったい誰だ? 宿屋の女将さんか?
「今開けます」
そっと扉を開けると、そこにはアスランがいた。いや、性格にはアスランを老けさせた容姿の男だ。
この男、まさか。
「久しぶりだなアスラン。お前の活躍は王都にまで届いている。父親として鼻が高い」
やっぱりアスランの父親だったか。うん? 待てよ。アスランの父親が訪れるってことは、次のざまぁフラグが成立したってことじゃないのか!
原作の方では確か、三百体の魔物との戦いの際に、セリアの魔力が暴走して大爆発を起こす。周辺の地形を大きく変えてしまった罪で犯罪者扱いになったアスランは、逃亡の際に捕まってしまう。その時に父親が現れて、腐った根性を叩き直されるという筋書きだった。
いったいこれからどんな展開になるんだ。物語を参考にすると、アスランの腐った根性を叩き直されることになるのだが。
「どうした? 久しぶりに父親の顔を見て驚いているのか?」
アスランの父親はジッと俺を見る。
とにかく考えても仕方がない。ここは相手の出方を伺うとするか。えーと確かアスランは父親のことを親父と呼んでいたな。
「親父、何しに来たんだ」
「アスラン、二人きりのときはダディと呼んでいたじゃないか。ダディと呼んでくれないのか?」
アスラン! お前そんな裏設定があったのかよ! 俺はいやだぞ! そんな幼稚な言い方は絶対にしたくない。
「親父、俺はもう子どもじゃないんだ。俺には婚約者がいる」
「何だと! そんな話全然聞いていないぞ! 相手はどこの誰なんだ!」
やっぱり知らなかったのか。でも朝っぱらからそんなに大きな声を出さないでほしい。
「うーん、あれ? アスランその方はもしかして」
「ベッドに女性が! しかもあの子は男爵様のご令嬢じゃないか。もしかして彼女がアスランの婚約者なのか?」
「ああ、そうだが」
カリンが婚約者であることを告げると、アスランの父親は顔を引き攣らせる。
「負けた。俺がどんなに貴族の女性を口説いても靡いてくれなかったというのに、息子はお嬢様と婚約関係にあるなんて」
おい、どんなところで勝負をしているんだよ。
「ふうぁー。よく眠れました。あ、お兄様そちらの方は?」
「ベッドにもう一人! しかも未成熟な裸ではないか。おいアスラン! お前まさか!」
アスランの父親はすごい剣幕で俺を睨みつけた。
あーあ、これは確実に勘違いをしているな。なるほど、そんな感じで根性を叩き直されると言うわけか。
「お前をそんな男のクズに育てた覚えはないぞ!」
俺だってお前に育てられた覚えはない。いや、アスランは一応育てられているのだよな。本当にややこしいぜ。
「こいつで目を覚まさせてやる」
アスランの父親は俺の顔面に向けて拳を放つ。
原作ではここで顔面を思いっきり殴られてヘイトを解消するところなんだろうけど、そうはいかない。
俺は彼の拳を受け止める。
「親父、ここでは女将に迷惑をかける。外で話さないか」
「くっ、確かにお前の言うとおりだ。今すぐ表にでるぞ」
「アスラン!」
「お兄様!」
「大丈夫だ。色々と誤解しているようだから。冷静にさせてくる」
カリンとセリアを部屋に残し、俺はアスランの父親を連れて外に出た。
「さて、それじゃあ始めようか。親父」
「お前に騎士道とはどういうものなのか、一からその身体に叩き込んでやる」
アスランの父親は腰に帯刀させていた剣を抜いた。
彼のパンチを受け止めて分かった。アスランの父親は俺よりも弱い。まぁ、息子だから手加減していたのかもしれないけど、この勝負で見極めさせてもらうか。
「親父、先手をやるよ。好きに打ち込んでくれ」
「ふん、最近名を馳せているから少々調子に乗っているようだな。だが、まだ俺はお前が乗り越えるべき壁であることを教えてやる!」
言葉を吐き捨てながら、アスランの父親は勢いよく俺に突っ込んでくる。
確か年齢は四十代だったよな。でも王家騎士団の騎士団長を務めているだけあって、年齢を感じさせないほどの身のこなしだ。
だけど、それでも今の俺には到底敵わないだろう。
瞬時に頭の中でイメージを膨らませる。
敵の攻撃を受けた際に生じる慣性力と粘性力によって、元の位置に留まろうとする力を利用する。一時的に体内の水分が硬化することで肉体に強度を与えるイメージ。
「エンハンスドボディー!」
剣を振り下ろされる寸前で肉体強化の呪文を唱え、腕をクロスして彼の一撃を受け止める。
「アスランが魔法を使っただと!」
「刃ではなく、刀身で殴ってくるとは優しいですね。だけど今の俺ではそんなことでは倒せませんよ」
「確かにその様だな」
アスランの父親は後方に跳躍する。
「では、今度は本当に殺しにかかるつもりで行く。ビルドアップ!」
どうやら肉体強化の呪文を使ったようだな。俺のエンハンスドボディーよりも弱い。
「本気で行くぞ! このスピードとパワーについて来られるか!」
声を上げながら、アスランの父親は俺との距離を縮める。魔法の効果もあって、さっきよりも早い。だけど姿を捉えることはできる。
剣の軌道に合わせて腕を前に出して受け止め、再び彼の攻撃をガードした。
「またしても俺の攻撃を防がれただと!」
「今度はこっちが反撃と行かせてもらう。スピードスター!」
足の筋肉の収縮速度を早めて素早く動くイメージを膨らませながら、魔法を発動させる。
一瞬にして男の背後に回った俺は、彼の背中にタックルをかました。
「グハッ!」
俺の攻撃を受けたアスランの父親は吹き飛ばされて木に激突した。
瞬時に彼の前に移動して、俺は拳をアスランの父親の喉元に突き付けた。
「これで俺の勝ちだ」
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