第一章 第一話 俺、アスランになっている!
あれ? ここはどこだ? 俺は仕事帰りに、スマホでネット小説を読んでいたはずだが?
俺、天王嶺緒三十一歳は、気が付いたら知らない場所にいた。
おい、なんだよ。そんなにジロジロと見るなよ。
俺は現在、多くの人の注目を集めているらしく、いたるところから視線を感じていた。
それにしても、コスプレイヤーたちか? まるで異世界ファンタジーに登場してくるような冒険者の格好をしているじゃないか。
そうなると、ここは撮影スタジオなのだろうか? 冒険者ギルドのような雰囲気の内装になっている。
「お兄様! いいですわ! そのままキーファなんて蹴り殺してあげるべきです」
「セリアちゃん、さすがに殺してしまうのはやりすぎになりますわよ。アスランが犯罪者になってしまいますもの」
このセリフは『Sランク昇進を記念して追放された俺は、隠していたスキルで無双する』の第一話のセリフじゃないか。一言一句間違えないでセリフを言えるなんて、相当なファンだな。俺と気が合うかもしれない。
俺は乗せていたものから足を退かして踵を返し、後方を見る。
そこには、藍色の長い髪に赤いカチューシャを嵌めている女の子と、赤いツインテールの髪を蝶の髪留めでまとめている幼児体型の女の子がいた。
彼女たちもコスプレイヤーみたいだな。キャラに合わせて、それぞれの体型に会ったキャラを選択している。ネット小説なので挿絵はないが、俺の想像しているキャラと全く同じだった。
おいおい、こんなに俺の想像と同じ衣装を作成するなんて、本当に気が合いそうだ。まずは声をかけてお近づきにならないとな。
「あ、あのう」
「どうしたの? お兄様?」
お、お兄様! まさかの初対面で俺、お兄様って呼ばれているのだけど! これっていったいどういう神展開なのですか!
「お、お兄様、お兄様、お兄様」
「大丈夫ですの? アスラン? 感情的にキーファを痛めつけて、少し体調を崩してしまったのでしょうか?」
メインヒロインであるカリン・ヒルトンのコスプレをしている女の子が、青紫色の瞳で心配そうに俺を見る。
「え? アスラン?」
カリンのコスプレをしている女性の瞳に、対面している俺の姿が映った。
短髪黒目であるのは日本人の特徴だ。だけど俺の髪型はツーブロックではないし、こんなにイケメンではなかった。
もしかして……これって。
俺は首を左右に振った。するとテーブルの上に置かれてある鏡に、カリンの瞳に映った男性と同じ容姿が写っていた。
「俺、アスラン・ディヴィスになっているううううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
「ハァ、ハァ、ハァ」
足元から、息を切らす男の声が聞こえてきた。俺は足元を見ると、白銀の短髪の髪に赤い瞳の男が床に倒れていた。
この男、もしかしてキーファ・ライネスか。てことは、これって第一話の始まりのシーンじゃないかあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
心の中で叫ぶ。すると、床に寝転がっていたキーファが素早く立ち上がると、逃げるようにギルドから出て行った。
「ふん、お兄様の機嫌を損ねた罰です。いい気味です」
「でも、ちょっとやり過ぎじゃないかしら? もう少し穏便にできたかもしれないのに」
後方から、本物のカリンとセリアの声が聞こえるが、今の俺はそれどころじゃなかった。
おいおいおい! これってどう言うことなんだよ! どうして気が付いたら『記念追放』のアスランになっているんだよ! これて夢だよな。そうに違いない。だってこんなこと現実的に考えてあり得ない。
俺は自分の頬を抓る。
「くそう。痛いじゃないか」
この痛みからしてこれは夢ではない。つまり、俺は本当に『記念追放』のざまぁサイドの登場人物である、アスランになってしまったと言うことだ。
本当に訳が分かんない。どうして俺は、よりにもよってざまぁされる側になっているんだよ!
とにかく、このままでは確実に俺はざまぁされることになる。アスランの身に起きるざまぁはエグイ。読者の立場ならざまぁを楽しんでいたが、本人となっている今は恐怖でしかない。どうにかしてざまぁを回避しないと、俺が辿る未来は破滅だ。
「アスラン、アスラン!」
「お兄様! お兄様!」
カリンとセリアの声が聞こえ、俺は我に返った。
「やっと気づきましたわね」
「もう! キーファを追放したんだから。早くご飯を食べに行こうよ! 私お腹が空いちゃった」
ご飯? ああ、そうか。ネット小説では一文しか書かれてなかったけど、ご飯を食べに行くことになっていたな。
ご飯か。今の俺は食欲がないって。それに、この世界の料理って俺、食べられるのか?
頭の中で整理ができない状況の中、俺は彼女たちに腕を引っ張られて料理を食べに向かった。
体感で一時間半くらいだっただろうか。食事を終えた俺たちは、店から出る。
正直、料理はどうにか食べられた。物語の設定上、西洋の食べ物が主流であり、食材もトマトならトミト、レタスならレダスと、食材を聞いただけでなんの食べ物なのか分かる。
まぁ、食事に関しては問題ないだろう。無理やり食べてお腹は膨れたし、早く休みたい。
そう言えば、俺ってどこで寝泊まりしているんだ? 原作ではそんな描写はなかったはずだぞ。
「カリン」
「はい。なんでしょうか? アスラン」
「すまない。キーファを叩きのめして頭に血が上った影響で、記憶の一部が吹っ飛んだようだ。俺ってどこで寝泊まりしていたんだっけ?」
「まぁ、それは大変! 他には記憶を失っていませんよね? わたくしとの関係はもちろん覚えていますよね!」
どこで寝泊まりをしているのかを尋ねると、カリンが心配そうに俺を見つめる。
目尻には涙が溜まっており、今にも泣き出しそうだ。
「だ、大丈夫だ。カリン、婚約者であるお前を忘れるわけがないだろう」
俺の言葉に、カリンは目尻に溜まった涙を拭い、顔を綻ばせた。
そう、カリンはアスランの婚約者だ。だけど最初のざまぁでカリンを危険に晒し、アスランの代わりにキーファが助ける。それにより、ご都合主義にも彼女はチョロインとなって、追放サイドから主人公サイドのメインヒロインとなってしまう。
その結果婚約破棄となり、アスランは精神的大ダメージを負わされることになる。
「お兄様が宿屋以外の記憶はバッチリなようで私は安心しました。とにかく宿屋に向かいましょう」
なるほど、どうやら宿屋に泊まっているようだな。原作には載っていない裏設定だからマジで焦った。まぁ、普通に考えればそれが一番可能性として大きいか。
俺は二人から宿に案内してもらい、アスランが泊まっている部屋に辿り着く。
ふぅ、とにかく色々とありすぎて疲れた。今日は早く休んで寝よう。
早く眠りたかった俺は、カリンとセリアが部屋を出て行くのを待つ。しかし、一向に出て行く感じがしない。
「なぁ、二人はいつまでこの部屋に居るつもりなんだ」
「え! アスラン!」
「私たち三人で、この部屋を借りていることを忘れているの!」
なんだってえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
マジかよ! アスラン、おまえ彼女たちと同じ宿に泊まっていたのかよ! そんな設定、原作にはなかったぞ!
俺は額に手を置く。
なんてことだ。こんな美少女たちと一緒に寝泊まりをするなんて。俺は女の子と一緒の部屋で寝るなんて、幼少期以来なかったぞ。
そんなことを考えていると、突然二人は今着ている服を脱ぎ出した。カリンの方は寝巻きに着替えているようなのだが、セリアに関しては完全に裸になっている。
少しだけ膨らんでいる胸も、乳首も、そしてあそこも丸見えだった。
「セリア! どうして裸になっている! 早く服を来なさい!」
反射的に俺は声を上げていた。
「え? 何を言っているのですか? お兄様? 私は寝るときは裸で寝るタイプじゃないですか?」
何だってええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
おい、作者! これはいったいどう言うことだよ! そんな設定、原作にはなかったぞ!
いくら追放サイドでも、女の子の裸は読者ニーズがあるじゃないか! 何渋って描写をしなかった!
次々と起きる裏設定のせいで、俺の頭の中はパニックになる。このどうしていいのかわからないあやふやな感情を作者にぶつけた。
「それじゃあアスラン」
「お兄様」
「「一緒に寝ましょう」」
俺は二人に押し倒され、美少女二人に挟まれる。
片方は婚約者のカリン、その反対には全裸の幼児体型の女の子。両手に花の状態だ。
俺、こんなので本当に寝られるのか?
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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