第一章 第二話 俺のアレが立った
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
俺は早朝ランニングをしていた。
俺が『記念追放』の世界のアスランになったのは夢、目が覚めたら元の天王嶺緒に戻っている。
そう思っていたのだが、目が覚めても俺の身体はアスランのままになっていた。
くそう、このままでは俺は確実にざまぁをされる。どうにかして回避する方法を考えなければ。
今は基礎体力を付けることしか方法が見つからなかったので、ランニングや筋トレ、素振りなどをするしかない。
だって、アスランはSランク冒険者だけど、スキル無しクソザコっていう設定何だよ!
これまでアスランの戦闘には、キーファが大きく関わっている。アスランが技を出しているときは、キーファが代わりに技を使って、アスランが使っているように見せかけていた。
原作ではそのように描かれてある。もし、その設定が本当であれば、俺は技も魔法も使えない称号だけの男だ。
「お疲れ、アスラン。はい、タオル」
「ありがとう。カリン」
宿屋の前に辿り着くと、俺の帰りを待っていたカリンがタオルを渡してくれた。
くそう。本当にカリンはいい子じゃないか。自分は一歩引いて男を引き立ててくれるような大和撫子。気配りができて料理も上手で、美人で身の回りのことも率先してやってくれる。
現実世界では失われつつあるタイプの女の子だ。
この子がざまぁのあとにキーファのメインヒロインになるんだよなぁ。くそう。そう思うと悔しいぜ。どうにかして最初のざまぁを回避しないと。
「お兄様戻ってきたんだ」
宿屋の扉が開かれてセリアが外にやってきた。
彼女はアスランのことをお兄様と呼んでいるが、血の繋がった妹ではない。えーと、確か彼女が沢山の魔物に囲まれているところをアスランが助けて、それ以来兄として慕っているんだったよな。
多分、それもキーファによる援護の結果なのだろう。
カリンが離れたあともしばらくはアスランと行動していたが、ある事件をきっかけに彼女はパーティーから離脱して、最終的にはアスラン一人で孤独に陥る。
そのざまぁもいずれ回避する方法を考えないといけないな。
まぁ、その前にこれから起きるざまぁを回避する方法を考えないと。
「あ、そう言えば、ギルドマスターがアスランを探していましたよ。何でもSランクとしての最初の依頼をお願いしたいらしいですの」
カリンの言葉を聞いて、俺は額に手を置く。
ギルドマスターがアスランを呼んでいた? 何だか嫌な予感がするな。
「分かった。ギルドに行こう」
多分俺の考えすぎだろう。さすがにキーファを追放した翌日から、最初にダブルざまぁがやってくるとは思えない。
不安が拭えないまま、俺はカリンとセリアを引き連れてギルドに向かった。
「お、アスラン、来てくれたか」
ギルドの扉を開けて中に入ると、一人の男が声をかけてきた。
俺を呼んでいると言うことは、この男がギルドマスターか。原作では呼称だけで、容姿は描かれていなかったからな。
見た目はだいたいの読者がイメージしていそうな感じの男だな。髭を生やして屈強な身体つきをしている。
「俺に何のようだ?」
「ああ、お前をSランクの冒険者と見込んで頼みがある。ここから南西に三キロメートル離れたダンジョンに住むスライムを倒してほしいのだ」
彼の言葉を聞いた瞬間、俺は固まってしまった。
最初のダブルざまぁが来てしまったああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!
おい、おい、マジかよ。最初のざまぁってこんなに早かったか?
「スライム。強敵ですわね」
「でも、お兄様がいれば大丈夫よ」
それが大丈夫じゃないんだよ! このままでは俺、ダブルざまぁでカリンを失うことになる。
「ギルドマスター……悪いのだけど」
「分かりました。スライムを野放しにしておくわけにはいきません」
「私がいつものように受付しに行ってくる!」
ちょっと待ったああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
動揺してしまった俺は声が上手く出ることができずに心の中で叫ぶ。だが、当然心の声が聞こえることはなく、セリアは受付に向かった。
どうしてお前たちが決める! 原作ではアスランが引き受けることを言ってから受付していたじゃないか。
くそう。こうなったら仕方がない。ざまぁされないために、原作の知識をフルに使って回避してやる。
「カリン、俺、スライム討伐に必要なものを買って来る」
「そうですか。では、お金を渡しますね」
カリンは持っている財布から一万ギルを一枚俺に渡す。
お金の管理はカリンが行っている。なので婚約破棄をされた後は、彼女の持っている金はキーファのものとなり、アスランは一文なしとなるのだ。
このことを考えても、絶対に最初のダブルざまぁは回避しないと。
一人でギルドから出ると、あるものを買いに行った。
買い物を済ませてギルドに戻り、カリンと合流して目的地のダンジョンに向かう。
俺には戦闘能力というものは全然ない。だけど、原作の知識は膨大だ。一つ一つ気をつければどうにかなるはず。
二人と雑談をしながらダンジョンの前に着くと、俺は先ほど買った松明を用意した。
原作では、松明を忘れてセリアがファイヤーボールを代用するけど、その威力が膨大で大爆発を起こして死にかけるっていうシーンがある。プチざまぁだけど、そんなシーンを再現してたまるか。
松明に火をつけ、俺たちは中に入る。
「ここのダンジョン、明かりがあっても奥の方は分からないですね」
「お兄様、ここは私がファイヤーボールで明るく照らしましょうか?」
「それだけは止めてくれ! 逃げ道のないここでお前にファイヤーボールを使われたら、俺は死んでしまう」
俺の言っている意味がわからないのか、セリアは首を傾げた。
洞窟の中を進むと広い場所に出る。
ここか。まだスライムは出てこないが、他の魔物が出て来るからな。ここで準備してをするか。
松明を地面に突き刺し、俺は買って来たものの中から、耳栓を取り出す。そしてそれをカリンとセリアに渡した。
「耳栓ですか?」
「お兄様、これはいったい?」
「いいから付けておいてくれ。敵の攻撃を受けないために必要なことだ」
この先、原作では敵の攻撃を受けて眠らされ、気がつくとスライムの前に来ていたことになっている。
デスルーラもどきをしてもいいのだが、それでは負けてプチざまぁされている感じがして嫌だ。
少しでもざまぁを感じることはしたくはない。
「分かりました」
「はーい! 私はいい子だからお兄様の言うことを聞くね」
二人は困惑しながらも、俺のお願いを聞いて耳栓を嵌めてくれる。
よし、後は事前に書いていたこの指示書を二人に渡すだけだ。
懐から二枚の紙を取り出し、彼女たちに渡す。
紙を受け取った二人は、無言で頷く。
これで準備は整った。
「さぁ、先に進もう」
奥に向けて歩き、下の階層に下りる。すると目の前に三体の魔物が現れた。
見た目はオウムだが、尻尾が尾鰭になっている。相手を眠らせることに長けたオカリナマーメイドだ。
原作ではやつの歌声を聴いて眠らされることになっているが、耳栓のお陰でやつの歌声が聞こえない。
だけど逆に俺の声も二人には聞こえないことになる。
しかしそれでいい。そのための指示書だ。
「ウインド!」
セリアが呪文を唱えたようで、強風が洞窟内に吹き荒れる。
洞窟内の気圧が乱れ、満足に飛ぶことができない魔物は壁に激突した。
「このタイミングで合っていますよね?」
続いてカリンが弓を構えて矢を放つ。
弓から放たれた矢は、一直線に魔物に飛んでいく。
『キエエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!』
矢はオカリナマーメイドの心臓を穿ち、魔物はピクリとも動かなくなった。
「あと二体!」
続けてカリンが二本の矢を放ち、残りの魔物にトドメさしていく。
ふぅ、どうにかなったな。原作を読んでいたお陰でなんとか勝つことができた。
「もう安心だ。耳栓を取っていいぞ」
耳栓を取ると、二人は俺の行動を見て耳栓を外す。
「もういいのですか?」
「ああ、もう眠らされる脅威はいないはずだ」
「よかった! お兄様の声を聞かないで、指示書だけで判断するのは少し難しいかったもの」
よし、次は通常スライムとの戦闘だったな。
もちろん、その対策もしてある。
「あ、あそこに下につながる階段を発見したよ!」
セリアが次の階層につながる階段を見つけ、俺たちは下りていく。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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