プロ野球選手との淡い恋94
新幹線に乗り福島へ向かった。
稲村部長は至って穏やかでビジネスライクな人だと、そよは思う。
グランクラスに乗り込んだ稲村部長を確認すると、秘書課の渡部とそよは指定席に戻った。
渡部は何やら資料を確認していた。
けれど、そよは昨日の甘い余韻が気だるく身体にまとわりついて、眠い。
昨日、光田は約束通り日が変わる前に送り届けてくれた。
けれど、送る為に家を出る前、光田はそよのシャツのボタンを再び外す。
肩が露わになった。
「悠也さん、もう帰らないと」
「分かってる」
光田はそう言いながら、そよの白い鎖骨に顔を近づける。
近づいた唇が、いつもならシャツに隠れて見えない部分を強く吸いあげる。
小さな甘いしびれの後、離れたくちびるの跡を残すようにうっすらと赤い花が咲いていた。
その跡を確認すると、光田はその薄い跡が気に入らなくて、もう一度口づけた。
ついた跡に驚いたそよだったが、あまりに光田が丁寧に、肌に深く刻むから、黙って見つめていた。
その姿が、何だか神々しくみえて、そのせいか自分の身体も大切な物に思えた。
そよも思わず、光田の柔らかい髪に口づけると、くすぐったそうに首をすくめて笑った。
「痛かった?」
鎖骨の少し下についた赤い跡を撫でながら、光田はそよを見上げる。
キレイな顔が間近で、まるで怒られた子どものような表情を浮かべる。
そよは首を振る。
指先で光田がつけた跡をうっとりと眺めながら、ゆっくりとなぞった。
その仕草が再び光田の思いに火をつけそうになったが、どうにかそよを押し倒すことを堪えた。
「佐野さん、到着5分前に声を掛けに行くのが稲村部長からの指示です。寝過ごすといけないからと。珍しいんですけどね」
渡部は面倒くさそうに呟いた。
「珍しいんですか?」
「はい。佐野さんは会長付きだから知らないかもしれませんが、部長は移動中寝ることないし。朝も強いのに、声を掛けにこいなんて珍しいんです。しかも、佐野さんが声を掛けに行くようにと」
「私ですか?」
「そう。ご指名。気をつけてくださいね」
「気をつける、ですか」
そよが不思議そうに聞くと、渡部は黙り込んだ。




