プロ野球選手との淡い恋87
「今日は仕事が早く終わります。その後、お邪魔してもいいですか?」
そよからのメールを確認するなり、光田はすぐ返信する。
「もちろんです。いつでもお待ちしてます」
「ご飯を作ってみようと思うのですが、よいでしょうか?」
光田は思わず固まる。
夕飯?
そよの手作り夕飯が食べられる?
「ぜひお願いします」
光田は拝むような気持ちで返信する。
「期待しないでくださいね」
かわいい返信に「かしこまりました」のスタンプを送る。
なんだろ、これ。
どこからともなく溢れてくれる幸せな気持ち。
無意識にニヤついてしまうが、トレーナーの戸波の視線に気づいて小さく咳払いをして、携帯をカバンに放り込んだ。
すっかり、トレーニングの休憩だったのを忘れてしまった。
光田はもう一度、まるで探るように戸波を見た。
戸波はまるで何も見なかった様子で、パソコンになにかを打ち込んでいた。
何人かのプロ選手を手掛ける戸波は、いつも時間が開くとパソコンに向かう。
ニヤけたことに気づいていないようだと、光田は胸を撫で下ろした。
「よし、やるか」
照れ臭さを隠すように声をあげた。
戸波も柴村も、光田に新しい彼女が出来たことは気づいていた。
何だか楽しそうだし、休憩になると携帯を真っ先に確認しに行く。
菜々と交際していた頃の何かに切羽詰まるような、苛立ちはどこにもない。
気持ちがゆったりしていることが伝わる。
病院から退院した辺りから、どうも様子が違うと思っていたから、相手は病院の看護師さんじゃないかと推測していた。
どちらにしても、光田のモチベーションは格段に上がっている。
戸波たちにとっても喜ばしいことだった。
はやる気持ちを抑えて自主練を終えた。
もうすぐ訪れるクリスマスを前に街は賑やかだ。
冷たい風の中を家に戻る途中、光田は花屋で小さな花束を買い家に向かった。
マンションに戻るなりキーをかざして、すぐ自室に戻ることは出来たが、光田はインターホンを鳴らした。
そよも画面で光田の姿を確認する。
「俺です」
「お帰りなさい」
キーが解除された。
エレベーターに乗りながら、そよの「お帰りなさい」が頭の中で何度も繰り返される。
その度に、光田は溢れる笑顔を抑えことが必死だった。




