プロ野球選手との淡い恋80
参加賞を手渡した時の谷岡は、料理をしていた時の軽口は消え失せ、なんだかやたら行儀よく、不思議だった。
そよは携帯を見てみる。
LINEも着信もない。
忙しいのだから、当たり前だ。
けれど、あの時の視線は何か言いたげだった。
何を言いたかったのかは分からないが、色々と思うと、気持ちは落ちてしまう。
球場にいると、光田の背番号のユニフォームを着た人たちが大勢いる。
自分より素敵な女の子たちが、光田に手を振る。
光田が現れれば周りが響めき、歓喜の声が広がる。
電話で話す光田はあんなに近いのに、この場所では天と地ほど遠い。
座席に座っていると、今までガラガラだった観客席に人がどんどん戻り始める。
時計を見れば2時になり、公式セレモニーが始まる頃だった。
新入団選手の紹介、退団選手の挨拶と続く。
チームの選手が一列に並ぶ。
キャプテンである光田は一歩前に出て、スタンドマイクの前に立った。
「今年はファンの皆さんと一緒に日本シリーズまで行き、戦えたことを嬉しく思います。僕自身は、怪我で途中離脱となりましたが、チームメイトのみんな、球団の皆さん、そしてたくさんのファンの皆様のおかげで、ここに戻ることが出来ました。本当にありがとうございました。来年は、この御恩を胸に日本一を目指して頑張って参ります。これからも、応援を宜しくお願い致します」
光田が頭を下げると、会場は地鳴りのような拍手が湧いた。
そよはその光景をじっと見つめていた。
帰り道、人並みに流されてそよはぼんやり歩いていた。
光田のことは大切で、大好きで。
だけど、あまりに見える世界が違いすぎて。
心のどこかでいつも、光田にそっぽを向かれてしまいそうで、怖くなる。
代わりなんていくらでもいる人だから。
もっと、普通の人を好きになったら、こんな怖さを抱かないのだろうか。
そんなことを考えていたら、いつの間にか家にたどり着いていた。
そよは部屋に入ると何もする気が起きなくて、夕方だったけれど、ベッドに倒れ込む。
いつの間にか眠りについていた。
ドアのノックの音に目が覚めた。
慌てて時計を見れば、まだ午後7時だ。
気のせいかと思ったが、またトントンとノックの音がした。
荷物の配達だろうか。
そよは「どちら様ですか?」と扉越しに尋ねた。
「そよちゃん、開けて」
「悠也さん?」
そよは慌てて扉を開けた。




