プロ野球選手との淡い恋69
光田はスーツを着たまま、玄関に寝込んでいた。
目が覚めるなり、起き上がると周りを見回す。
自分の腕にあったはずの温もりが消えていた。
「そよちゃん?」
そよの姿がどこにもない。
飛び起き、走り出す。
部屋中を見回すが、居間にもお手洗いにもお風呂場にもどこにもいない。
慌てて携帯を見るとLINEが届いていた。
「おはようございます。会社に行ってきます。眠っていたから起こしませんでした。ごめんなさい」
安心して、光田はその場にへたり込むように座り込んだ。
姿が見えないだけで、母を探す幼児のような自分に笑いそうになった。
秘書室では、事前に会長夫人が美しい毛筆でしたためたお礼状を来客すべてに封書で出す。
国見室長や片平、同じ部の渡部祐介も筆の腕前が素晴らしく、封書に名前と住所を記載していく。
そよはせっせと切手を貼る係だった。
そよは室長から大きな紙袋二つにもなった封書を、郵便局へ持ち込む役を頼まれた。
「佐野さんは手紙を出したら、そのまま帰宅していいからね」
けれど、片平と渡部は何やら手帳を出して話し合っている。
「これから仕事なんですか?」
そよが尋ねると、片平は頷いた。
「急に広報の仕事が入ったの。私は帰るけど、稲村部長が出席されるから、渡部くんにお願いすることになったの」
幹部の都合によって、日程が変わることもある。
秘書室とは大変な仕事だとそよは思った。
お礼状を出し終わった後、昼食を終えた渡部は稲村部長を迎えに役員室を訪れた。
稲村部長、広報部長の雨宮、専任弁護士の生田を迎えに行き、用意していた車でイナケンの広告宣伝の全般を扱う報博堂ビルへ向かった。
報博堂の担当者である勝谷と部下が数人、玄関先まで迎えに来ていた。
「稲村部長、お待ちしておりました。先方はすでに来ております」
稲村部長は小さく頷く。
ビルに入ると重要な来客であるイナケンの為に、報博堂の社員が頭を下げて道を開ける。
開いていたエレベーターで最上階にある会議室に向かった。




