プロ野球選手との淡い恋63
ようやく帰国の途に着く。
光田に連絡が出来ると、国見から貴重品を受け取ろうとしたが、「パーティーの準備が先です」とジェット機内で同乗していたヘアスタイリストに頭をいじられ始めた。
「私も参加するんですか?」
「当たり前でしょ。会長や幹部の皆さんはジェットが着いたらすぐに国帝ホテルの創業パーティーに参加されます。秘書課も同席は当然の話でしょ」
国見がさらりと言いのける。
髪とメイクを終えると、ヘアメイクは稲村のセットに移って行った。
鏡で見てみると、やはりプロが手掛けただけあり、別人のような仕上がりになっていた。
自分でもびっくりして、さすがプロの仕事は違うと感心してしまった。
ジェットが離陸し、手配されていたタクシーでホテルに向かう。
国帝ホテルでは他の秘書課の課員や総務課、営業部が総出で会長一行を出迎えた。
秘書課の次長である片平美奈がそよに近づく。
「急いで下さい。こちらに着替えて。こっちです」
更衣室に連れられ、衣装ケースが手渡された。
紺のシックなドレスが現れる。
私がドレスを着るの?
そよは疑問が湧いた。
「佐野さん、早く!」
片平の声にそんな疑問は吹っ飛び、慌てて着替えた。
このギリギリのタイムスケジュールは、稲村がそよに時間を与えない為に組んだものだが、もちろん、知るよしもなかった。
言われるままにそよは片平の後をついていく。
広くてシャンデリア輝くロビーには会長や稲村部長、取締役級の幹部が集まっていた。
会長はドレスのそよを見るなり、「そよちゃんによく似合っておる。わしの見立てた通りだ」と快活に笑った。
「さ、参りましょう」
国見の号令に合わせて、大きな観音扉が開いた。
扉が開くなり、スポットライトが照り、目が眩んだ。
「大丈夫ですか?」
稲村部長が声をかけ、立ち尽くしたそよの腕をとった。
「さ、行きましょう」
言われるままにスポットライトの光に向かって歩いていく。
暫くして目が慣れると、そこは、今まで参列した結婚式場の数倍はあるどこまでも広いホールだった。
無数のシャンデリア、立食式のパーティーか華やかなテーブルの数々。
沢山のドレスコードに合わせたスーツやドレスの人たちがひしめき、劣らぬ数のウェイターがあちこちこち歩き回っていた。
そして、自分は端の方とは言え、会長らとともにステージに立っていることに気がついた。
後ろを向くと「イナケン創業50年パーティー」と大きく書かれている。
よく見れば、国見や片平など他の秘書課の人たちは登壇せず、脇で見守っている。
間違えたと思い慌てて降壇しようとしたそよだったが、稲村部長は何も無い顔をして、掴んでいたそよの腕を離さなかった。




