プロ野球選手との淡い恋53
イナケンの本社ビルの最上階にある会長室には、情報管理室の高橋室長からの報告がなされていた。
イナケンのホームページに、プロ野球選手の光田と女優内田菜々の間に割り込んだ女がいる。と言う書き込みや、非難、倫理観を問う書き込みが増えたと言う話だ。
内容は情報管理室で見つけ次第削除し、会社HPやSNSには掲載されていないが、今後の対応について会長に検討願いたいとの話だった。
佐野そよの採用が会長の特別案件であることは、幹部は全員承知している。
承知の上で、高橋室長がこの話を相談に来たのだから、よほど問合せが多いことが分かる。
しかし、大きな肘付き椅子に座り話を聞いていた稲村は、面倒くさそうに言った。
「光田もその女優も独身だろう?不倫でもあるまいし、勝手に言わせとけばいいだろう。何が倫理観だ。モテるんだろうから、仕方なかろう。わしも若い頃はそうだった。わしが好きだと、女も男も子どもまで寄ってくるほどモテた」
どこか懐かしむように、稲村は頷いた。
「しかし、会長」
「何だ?」
稲村は口を挟んできた、そよの部署の部長である入間をじろりと睨んだ。
入間の脇にじんわりと汗がにじむ。
「申し上げます。先日、女優の何とかが佐野さんを訪ねてきたようで」
「何?訪ねて来た?」
「はい。それを会社のエントランスで多くの社員が目撃しまして。その話題で社内も騒然としています」
「女優なら、変装くらいしてきたんじゃないのかね?」
「それが、サングラスもマスクも全部外して、佐野さんと話し込んでいたようで。女優がいると、それはそれは大騒ぎになりまして」
稲村はため息をつきながら、光田と菜々の記事が載った週刊誌を投げた。
「確信犯か。週刊誌の発売日前に、わざとか。しょうもない女だ。それにしても、野球小僧は何をしてる?女を一人も守れないとは情けない」
「確信犯とは?」
入間の問いに稲村はうんざりした調子でため息をついた。
「わざわざ、女優が顔をさらしてやってくる。変だろ。騒ぎを起こすために来た。翌日には、光田が自分と二股をかけた一般人と別れたと記事がでる。つまり、全て知った上で、一般人をそよちゃんと特定させる為に来たんだよ」
「なるほど!さすが、会長!」
入間のゴマスリに、稲村は眉をひそめた。
それにしても、面白い。
病院から始まった縁だが、こんなに楽しめるとは思いもしなかった。
稲村はニヤニヤ笑いそうになるを必死にこらえた。
暫く考えていた稲村は「そうだ」と大きな声をあげた。
「どうなさいましたか?」
秘書室長の工藤が稲村の近くに駆け寄る。
「工藤、すぐに人事の谷を呼べ」
「谷人事部長は、福岡に出張されてます」
「なら、伝えなさい。佐野そよを明日から秘書課に配属させる」
稲村の声が会長室に響き渡った。




