プロ野球選手との淡い恋52
球団の西村から連絡があった。
自宅マンションの駐車場で菜々と喧嘩をしている写真が撮られ、明日の週刊誌に載ると言う。
喧嘩が撮られたなら、光田にとっては好都合だった。
世間に広がる誤解を解くのにちょうどいい。
その前に、週刊誌に載ることは、そよには伝えなくてはならない。
光田が電話したその夜は、菜々が会社を訪れた日だった。
しかし、そよは、そのことを伝えることは出来なかった。
「そよちゃん?」
光田の声に、我に帰る。
「じつは、そよちゃんに伝えないといけないことがあるんだ」
声が重い。
菜々の顔が浮かび、そよの心がぎゅっと縮んだ。
「この間、うちに来てくれた日、来客があったでしょ。相手は女優の内田菜々なんだ」
光田の口から、初めて内田菜々の名前を聞かされた。
「昔、付き合ってた。マネージャーさんと一緒だったんだけど、話が長くなって。ちゃんと話さなくてごめん」
「謝らないで下さい。」
「それで、その時に話をしてたところを週刊誌に撮られた。それが明日載るんだ。でも、何もないんだ。信じてくれる?」
悲しみを含んだ光田の言葉に、そよは笑顔で返す。
「もちろん、信じてます」
「ありがとう。安心した」
いつもの穏やかな声。
けれど、そよの耳には光田が言った「菜々」と言う名前がまとわりつく。
二人の近さを感じさせて、どこか寂しい気持ちになった。
「菜々さんは、悠也さんに会いたかったんですね」
光田は少し間をおいてから言った。
「菜々とは、もう終わった話だよ。僕は、そよちゃんが好きなんだ」
そよは「はい」と返すのが精一杯だった。
そんなそよに、光田はどこか距離を感じた。
週刊誌に他の女と載るなんて、理由はどうであれ、思うところがあるに違いない。
ましてや、彼女は慣れていない。
光田は急に怖くなった。
だから、「はい」としか答えなかったそよに願うような気持ちで言った。
「そよちゃんは、僕がすき?」
そよは画面越しでも、みるみる顔が赤らむのが見えた。
やっぱり、かわいい。
「僕はそよちゃんが大好き。そよちゃんは?」
そよは耳まで赤くして、けれど光田をじっと見て言った。
「私も悠也さんが大好きです」
そよの言葉が聞けて、光田はようやく安心した。
そして、今すぐに抱きしめたい衝動にかられたが、明日は平日でそよは仕事だから会いに行くことを我慢するのが精一杯だった。
翌日、球団の西村から電話がかかってきた。
光田が受けると開口一番「ごめん!」と謝られた。
「どうしたんですか?」
「週刊誌から事前の連絡では、ケンカをしてたって記事だったんだけど、掲載文にはお前と菜々が復縁したことになってる」
「え?」
「関係者って誰だか分からない奴が、まるで事実みたいに復縁を語ってる。写真も、菜々と密着してる感じで、表情が分からないものと差し替えられてる」
話を聞くなり、光田は低い声で言った。
「西村さん。俺、菜々とはもう関係ないことを公にしたいんです。どうしたらいいですか?」
光田のいつにない様子に、西村は思わず息をのんだ。




