プロ野球選手との淡い恋41
撮影現場に移動中の車の中で、ネットの掲示板から転用されたカキコミに、内田菜々は舌打ちをした。
このままでは、いよいよ本当に、光田は自分の元を去っていくかもしれない。
菜々は腹の中から湧き上がる苛立たしさがどうにも収まらず、目の前の助手席シートの背を蹴り上げた。
ドンと大きな音を立てたが、運転していたマネージャーの江原は黙ったままだった。
誰も事務所の稼ぎ頭である内田菜々に物を言えるものはいなかった。
そもそも、言ったところでヘソを曲げられ、仕事に穴を開けられてはたまらない。
菜々の気分でクビにした者、恐れをなして逃げた者。
菜々のマネージャーと聞き、募集をかければ人はたくさん集まったが、半年もつ者はいなかった。
現在のマネージャーである江原は前職、あまりの残業や上司と同僚に耐えきれず、体調を崩して会社を辞めた。
菜々のワガママと気分屋は凄まじかったが、前職に比べればまだマシだったから、何とかこなしていた。
菜々は暫くネットを検索していくと、光田の彼女を検証するサイトを見つけた。
見ていけば、菜々のことも書かれている。
そして現在、交際している女は一般人でイナケンの社員?という記載があった。
菜々は再び、前の座席を蹴り上げながら唸り声をあげた。
もう少しでスマホを投げるところだった。
内田菜々の美しい顔は怒りに震えていた。
一般人のくせに、悠也と付き合うなんてありえない。
いったい、どれだけ美人で、どんな方法で悠也を誘惑したのか。
考えるだけで腹立たしい。
菜々は光田の球団のホームページを開く。
Twitterや様々なSNSに対応している。
菜々は別のアカウントを複数持っていた。
その別アカでコメントする。
「光田選手は女優さんと交際しているのに、別の方と交際していることを知りました。こんなことでは、チームに悪影響があると思いますし、内田菜々さんが可哀想で、光田選手が信じられません」
菜々は次々に投稿した。
それからマネージャーの江原にも、似た内容を投稿するように指示した。
「ついでに、善良な市民を装って、イナケンって会社にも電話して、浮気女が勤めてるけど、倫理観がおかしいって電話しといて」
菜々の指示に江原は黙って頷いた。
ちょうど、女性誌のインタビューの仕事。
これは好都合とばかりに、内田菜々の恋愛観を語った。
「こう見えて、一途なんです。その人が他を見ても、じっと待ったりしてしまうんです。バカみたいですよね」
菜々は寂しそうな笑顔を浮かべた。
雑誌の記事は思った通り、儚く美しい内田菜々の姿があった。
世間は光田と別れたことは知らない。光田に浮気されて可哀想な菜々。
そんなイメージにピッタリで、菜々は高笑いが止まらなかった。




