プロ野球選手との淡い恋32
そよは会社勤めをすると決まった時、来て行く服に頭を悩ませた。
今まではかなりラフな私服でも、制服に着替えればよかったが、そんな訳にはいかない。
悩んだ結果、二着のリクルートスーツみたいな物を買った。
スーツ量販店のセールで、さらにニ着目は半額だったから、このお得さにそよは迷わず買った。
しかし、出社してみると、周りの洗練された様子にいたたまれなくなった。
しかし、これしかない。
だから割り切ってそのまま着ていた。
光田と会うと言うのに、同僚たちのようなオシャレな通勤着は洋服棚のどこにもない。
しかたがないか。
そよは姿見を見て落ち込みそうになったが、昨日の電話で「そよさんに会いたい」と言った光田の声に励まされた。
会社に出社するなり、そよは川島に声を掛けた。
「今日、どうしても8時には帰らないといけなくて」
すると、川島が笑った。
「大丈夫よ。今日のお店は人気があって、2時間しか席がとれないの。いつも、7時半には解散してるから、心配しないで」
「あ、そうなんですね」
そよは安心して光田に8時前には終わることをメールしようとしたが、川島は「でも、その後どこか2軒目に流れるなら自己責任で」と意味ありげに言った。
そよは光田に8時前になりそうです。とメールした。
会社が終わると、川島はすぐ近くにあるイタリアンレストランへそよを案内する。
時間は5時20分。
店に入ると、ショートヘアの大人な色香を携える女性がこちらに手を振った。
川島が「あそこよ。あの方が真里さん」と、その女性に手をふり返し、その席に向かった。
吉沢、上田もすでに着いて真里の向かいに座っていた。
そよの向かい辺りに上田が座っていた。
吉沢が肌が白くどちらかと言えば西洋風だったが、向かいの上田はがっちりした体格、四角い顔立ちと太い眉毛で対照的だった。
その上田が、赤ワインをガブ飲みしながら、黙ったままそよの方をじっと見たりする。
そよはどうして良いか分からなくて、しきりに隣の川島の方を見ていた。
そんな様子を見ていた真里が、面白そうに言った。
「ちょっと上田。少し気の利いた話でもしたら?」
吉沢も顔をしかめた。
「佐野さんが怖がってるよ。ごめんね。上田は緊張してるんだよ」
隣の川島は申し訳なさそうな視線をそよに送り、上田はこちらを見つめ、そよはただ微笑むしかなかった。
店員から「お時間です」と言われたのは8時少し前だった。
割り勘の会計を終えて店を出る。
「それじゃね」
5人は店の前の路上で別れようとした時、おもむろに上田がそよの腕を掴んだ。
「あの、もう一軒行きませんか?」
そよと川島は思わず目を合わせた。
腕を掴んだままの上田に、そよは出来るだけ優しく言った。
「ごめんなさい。もう、帰らないと」
そう言っても、上田は手を離さず「少しだけだから」と繰り返す。
見かねた真里が「上田、もう帰りなよ」と諭すが、酒のせいもあるのだろうか、手を離す気配がない。
そよの脳裏に光田の顔が浮かんだ。




