プロ野球選手との淡い恋22
病院に御礼へ向かうと、誰にも訪問を告げていなかったにも関わらず、多くの職員や看護師がやって来た。
洋菓子の箱を渡すと、「御礼は受け取れないんです」と一度は断られた。
しかし婦長の「これだけのお菓子を光田さんにお返ししても、ご迷惑をお掛けしてしまうでしょう。ありがたく、お気持ちを頂きましょう」
と言う鶴の一声でみんなは沸きたった。箱を開ければツヤツヤのチョコレート菓子が姿を表し、みんなが箱を開けて美味しそうに食べ始め、そこら中で小さなティーパーティーが始まっていた。
光田はその間もそよを探していた。
しかし、一番会いたかったそよの姿はどこを見回してもなかった。
あれから一度も、そよからは連絡が来ることはなかった。
今日は一抹の望みをかけてこの場所に来た。
けれど、そよの姿はどこにもなかった。
「院長が経過を伺いたいと申しております。こちらへどうぞ」
案内してくれた看護師の顔に覚えがあった。
自分の入院した階の担当をしていた鳥取だった。
案内の道すがら、光田はいきなりそよのことは聞けなくて、「一緒の階だった、稲村さんはまだいらっしゃいますか?」
と尋ねた。
すると鳥取は意味ありげに微笑んだが、光田に見られたことに気づき軽く咳払いをした。
「稲村さんは退院されました。お元気でしたよ」
その笑みが何を意味していたのか分からなかったが、光田はそうですか。と答えた。
院長室に通されると、院長は当たり障りのない話をし、今後の活躍は我が病院にとっても誇りであると述べた。
ようやく解放されて病院を出ようとした時、光田は、思い切って出口まで送ってくれた鳥取に再び尋ねた。
「あの、入院中お世話になった佐野さんはお元気ですか?」
すると鳥取は、少し間を置いて小さな声で答えた。
「佐野さんは辞められましたよ」
「やめた?どうしてですか?」
「それ以上は」
そう言って、鳥取は口をつぐんだ。
鳥取の様子から理由は知っているのだろう。
しかし、教えることが出来ないのだ。
駐車場に戻り車に乗った光田は、しばらくぼんやり空を眺めた。
心が締めつけられるようだった。
もう二度と会えたいのだ。
すっかり忘れていた遠い昔に感じたものと似ている。
あぁ、失恋か。
光田は日が沈むまで、ただ空の、さらに遠くを見つめていた。




