プロ野球選手との淡い恋21
光田の復帰戦が決まった。
監督から4番でのスタメン起用を早々に指示された。
球団は光田の復帰情報を密かにスポーツ誌に流し、そして予定通り新聞やテレビへ流れ伝わった。
その日のチケットは当初売れ残りがあったが、光田復帰の情報にすぐ完売した。
それ以降も同様でプラチナチケット化し、光田の人気が改めて世間に知られた。
光田は自分が贔屓にしている洋菓子店へ向かった。
店主は光田が予約していたお気に入りのチョコレートでパイ生地とスポンジケーキをコーティングした菓子を3ケース手渡した。
「いつもありがとうございます」
「こちらこそ、お忙しい中ありがとうございました」
「どちらかへ差入れですか?」
「はい。怪我でお世話になった病院の皆さんへお礼をかねて」
店主は嬉しそうに笑った。
「そうですか。皆さんに気に入って頂けたら嬉しいです」
「その心配はいりません。僕の大好物ですから」
光田は店主に「それじゃ、失礼します」と頭を下げると、大きな箱を抱えて出て行った。
洋菓子店の店主は光田の後ろ姿に微笑んだ。
初めに光田がこの店に来た時、彼は高校生だった。
坊主の愛らしい男の子がたまに、同じチョコレート菓子を一つ買いに来る。
店員たちの間では話題になっていた。
ある日、少年は二つ菓子を買った。
珍しいなと思っていると、少年はこちらの気持ちに気づいたようで、
「母が明日、こちらに来るんです。だから、食べさせてあげたくて」
と、恥ずかしそうに笑った。
話を聞けば、彼はこの近くの甲子園常連高に通うため、親元を離れて寮生活をしているということだった。
初めてこの街に来た時、甘い物が大好きな母がこの店のチョコレート菓子を買い、その美味しさに感動したと言う。
「何かしんどいことがある時、自分を元気づける為に食べるんです。本当にこのお菓子は僕を元気にしてくれるんです」
そう言って笑った笑顔が、今でも忘れられなかった。
少年は甲子園で活躍し、その後はプロ野球でも目を見張る活躍をした。
スター選手になっても、相変わらず通ってくれる気さくな青年だった。
ただここ数年、店主は光田に重苦しい何かを背負っているような小さな変化を感じていた。
プロの重圧なのかもしれない。
それでも、なんだか気がかりだった。
だから、今日会った光田がなんだかすっきりとした表情で、それが高校生だった彼の笑顔と重なって見えた。




