プロ野球選手との淡い恋②
病棟の手すりをアルコールで消毒する。
右手を終えると、次は左側の手すりを丁寧に拭っていく。
個室病室が並ぶ前を進んでいくと、一番奥にある特別室の扉が開き、年配の男性がこちらに手招きをした。
特別室は今朝から話題になっている、あの野球選手がいる部屋だ。
朝から驚くほど花などが届き、とにかく出入りが多かった。
そよはその男性の方へ寄った。
「すまないが、見舞品が多くて。多めにゴミが出てしまったから、処分を頼めませんか」
「はい。いま参ります」
そよは大きなゴミ袋を持ってくると、特別室のドアを叩いた。
「失礼します。ゴミの処分に参りました」
「どうぞ」
返事が聞こえたので入室する。
戸を開けると他の部屋より倍の間取りをされたホテルのような空間が現れる。
気持ちの良い白い壁の部屋に、大きな窓から木漏れ日が穏やかに差し込み心地よい。
さよにとっては見慣れた病室なのに、なぜかいつもより明るい感じがした。
それは、そこら中の花瓶にささった真新しい花束の数々のせいもあるだろう。
まるで、花畑に迷い込んだようだった。
「こっちだよ」
先程の年配の男性が声をかけた。
彼はベッドの脇に立ち、リボンや紙包などを差し出している。
足下のゴミ箱からは見舞品を梱包していたビニールなどで一杯になっていた。
「さっきも片付けて頂いたのですが、たくさん頂いてね。これをお願いします」
そよは手渡された美しく解けたリボンやキラキラした包み紙にも見入ってしまった。
すると、傍から先程とは違う声がした。
「お手間をおかけします」
そよはその声の方を見ると、ベッドにいる身体のやたら大きな男性に目をやった。
微笑みこちらを見上げた姿がステキで、そよは思わず見入ってしまい、それから慌てて「とんでもありません」と答えたが声が震えた。
そよはゴミを一杯に抱えて、失礼しましたと部屋を出てきた。
部屋を出てそよが思ったことは、すごいプロ野球選手はやはりオーラが違うなと言う感動だった。
みんなが夢中になり、憧れる人はやはり違う。
なんだかご利益を頂いたようで、そよはありがたい気持ちになり、危うく特別室に手を合わせてしまいそうになった。