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終末のダンジョン  作者: .犬
終わりの始まり。
22/35

収束する運命

 ※



 雨が二人の身体に降り注ぐ。


 男は呆然と立ち尽くし、仮面の女は男の胸にしがみついて泣いている。


 そして彼女は言った。



「――この人殺し」



 ※



 朝起きてカーテンを開けると眩しい日差しが瞼に重なって太陽が出ているのだと判った。


 普段なら大きく伸びでもして、明るい気持ちなのに何故かエリィの気持ちは曇り空だった。


 一つため息を着いてからエリィは外に出た。


 八階層攻略から十日が過ぎ去った。今まで味わった事のない恐怖と不安。それから長らく忘れていた死神の影。良い意味でも悪い意味でもエリィにとって経験となり成長の糧となった。


 しかしエリィは十日前、つまり八階層攻略のある時からどうも元気がない。


 何と言うべきか。頭で本当は理解してしまった真実を否定したい、みたいな。そんな思いがエリィの頭にずっと残っていた。


 ノアスと共に十階層に向かったエリィはそこで洗礼を受け、下の階へと落とされた。それからしばらくノアスと歩き、気付くと目の前には救助隊の人たちが立っていた。


 実はその救助隊をエリィは知っていた。


 通称『エリィたそ親衛隊』


 ジョイ・ジョイを隊長としたエリィのファンたち――かなり重度でヤバイ奴らの集まり――によって形成された小ギルドと言っても過言じゃない集団だ。


 話によると地上に戻って来たリーリスは、身体を引きずるようにジョイ・ジョイの元に走り、「エリィが、エリィとノアスが危ないの!!!」扉を開けると同時にそう叫んだという。


 それによって『エリィたそ親衛隊』が即座に救助隊を編成しエリィたちを探した経緯となる。



「おかげで助かったけど……」



 しかしエリィの顔は晴れない。



「おや、エリィ。今日は少し遅かったわね」


「あ、うん。ごめんね。キスリング」



 エリィは目の前に立つ赤髪の女・キスリングにそう言った。



「最近顔が晴れないね、あんた。そろそろ話してくれるかい? これじゃあ鍛錬も身が入らないだろう」



 キスリングは背中にまで伸びる綺麗な赤髪でとても整った顔つきである。大きな瞳はとても澄んでおりその瞳は人の心すら見通すようにとても不思議な感じだ。


 年齢はエリィたちよりも上で二十後半の大人の女性である。


 そしてキスリングこそ、モグラとなったエリィを人知の到達点と呼ばれるほどに育て上げた師匠である。



「実はさ――」



 エリィは心に秘める思いをキスリングに話した。



 ※



 あの日からリーリスはエリィに会っていない。


 エリィとノアスが十階層に行き、全然帰って来なかった事を気にしたリーリスはあまり人間的に好きではないが、しかしエリィに関して凄く頼りになる人物、ジョイ・ジョイに助けの声を送った。リーリスの予感は的中しており二人はかなりのケガを負っていた。


 何とか地上に帰って来た二人をリーリスは迎えたのだが、そこで一つの異変に気付いた。それはエリィだ。


 彼女はあまり元気がなく、一言『助けてくれてありがとう』とだけリーリスに言って去ってしまった。


 それからエリィと連絡は無い。



「はぁー。何か合ったのかしら」リーリスは頬杖をついてため息を吐く。「あの二人」



 曇り顔のリーリスの表情を見ながら、「あのよ、リーリス。あれから本当にエリィたそから連絡ないのか?」ジョイ・ジョイは茶を入れてリーリスに渡す。



「ないわ。そう言ったじゃない。あ、ありがとう」



 現在リーリスはジョイ・ジョイの家に来ており淡々とエリィの事を口にしていた。



「あいつの名前なんて言ったっけ」


「ノアスのこと?」


「ああ、そうだ。あぁ? お前白狼って呼んでなかったっけか?」


「うん。八階層の攻略で色々と助けてもらってね。それで信用してもいい奴かなって思ったの」



 リーリスはお茶を一口喉に通す。



「……俺の時はかなり時間がかかったのに、ノアスと打ち解けるのは早かったんだな」


「あんたはどう見ても犯罪者予備軍じゃない」


「は、犯罪者予備軍!?」


「エリィの呼び方や圧倒的ストーカー行為。あれを見てどうやって心を許せばいいの?」


「バ、バカを言うな。俺は、俺はエリィたそを愛し、愛し続ける男であるが、決してそのようなゲス行為は断じてしない!」


「はいはい。知ってますよ。だから最近こうして口聞いてあげてるじゃない」



 リーリスは感情の無いペラペラな言葉を適当に口から漏らす。



「はい。本当に認められて嬉しい限りです。はい。ところでリーリス。変な事を聞くようだが、八階層攻略で何かノアスはしなかったか?」


「何かって、なに」


「例えば変わった行動を取ったとか、少し周りと違った事をしたとか」


「別に変わった行動はしてないと思うけど……あ、少し違ったと言えばノアスが私を守る時に氷の力を使ったのよね」


「氷?」



 ジョイ・ジョイは眉を(ひそ)める。



「そう、その戦いでノアスは雷のエレメンタルを使ってたのよね。ほら、エルフって基本的にエレメンタルを一つしか使えないって話じゃない。だから氷のエレメンタルを使った時は驚いたわ」


「二属性扱うエレメンタル……」


「なにかあるの?」


「で、あれだっけか。階層主との戦いの後どこぞのバカが下の階層に行こうとしたのをノアスが止めに行って、エリィたそが自分の意志でついて行ったって訳か」


「ええ、そうだけど」



 難しそうな表情で何かを考えるジョイ・ジョイ。



「チッ。あああああ! 無自覚なのかよ。くそ。何てたちが悪いんだ。いくら何でも同情しちまうよ。糞ッタレが!」



 ジョイ・ジョイが髪を掻きむしってうな垂れた。



「ちょっと、さっきから何ブツブツ言ってるの?」



 ジョイ・ジョイが深いため息を付くと、これまでに無い真剣な表情で、「いいか、リーリス。ノアス――白狼とはもう関わるな」

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