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終末のダンジョン  作者: .犬
終わりの始まり。
20/35

歩み寄り

 ※ 


 何とか低階層まで上がって来たリーリスたち。ここまで来れば死ぬことは無いだろう。


 リーリスはひと息着いて背後を確認する。


 何の気配もしない。



「まさかまだ、十階層にいるとか言わないわよね。こっち向かって来てるわよね?」



 リーリスは眉間に皺を寄せて自分の手を握った。





「……君……アス君……ノアス君……ノアス君!」


「うぅ……」



 エリィがノアスの名前を呼ぶ。遠退いていた意識がじわりじわりとノアスの身体に戻って来る。



「エリィ」ノアスは重い頭を振る。「ここは」


「分からない。多分十一階層以降だと思う。下の階層に落ちちゃったみたい」


「そうか」



 ノアスは壁を使って何とか立ち上がる。落下の衝撃で肩と足を怪我してしまった様子だ。それはエリィも同じようで、額から血を流して足を引きずっている。



「ノアス君。歩こう。近づいて来てる」



 十階層から十五階層までほぼ同じ習性を持つ魔物が生息している。つまり、落下の衝撃音は間違いなく奴らの耳に届いて接近して来ているはずだ。


 幸いエリィは意識を保っていたおかげですぐにノアスも起き上がる事が出来た。もし仮に二人とも意識を失っていたら大変な事になっていただろう。


 ノアスはエリィに、エリィはノアスの肩に手をかけてゆっくりと歩き始める。

 視界が朦朧(もうろう)として二人の意識は不安定である。二人は黙々と目的地の無い道を進んでいく。


 たまに聴こえる魔物の鳴き声。いつ崩れてしまうかも判らない脆い壁と天井。それらの恐怖を背負って二人は淡々と歩く。


 何時間歩いたか分からないが、二人の足は突然止まった。



「休憩するか」


「……うん」



 ノアスの言葉に力の無い言葉でエリィが呟く。


 ノアスとエリィは小さな空洞に入り、壁に背を預けて座り込む。



「……あの、さ」エリィが膝を折って座り、「何かごめんね。こんなことになって」沈めた顔から表情は読めない。



「何で謝る」ノアスはエリィの隣に座って視線をエリィから逸らす。「……っかたよ」


「え?」


「んんん……」バツが悪そうにノアスが眉を顰めて、「助かったよ!」


「え!?」


「……もし俺一人だったら死んでた。だから、まあ、サンキューな。来てくれて」



 ノアスは薄く染まった頬を見られないように一層顔を背けた。



「う、うん」エリィは驚きの表情を浮かべて、「わたしの方こそありがとう。守ってくれて」


「別に、何もしてない」


「そんなことないよ。わたしが敵の数に圧倒されてる時にわたしの名前呼んでくれたじゃん。それに逃げる時も手握ってくれて嬉しかった」



 エリィが優しく微笑むものだからノアスは反応に困る「お前の勘違いだろ」



「ううん。そんなことないよ。しっかり守ってくれたじゃん」


「何もしてない」


「した」


「してない!」


「した!」


「……ハハハ。くだらない事で何争ってるんだか」


「ハハハ。そうだね、笑えない状況なのにね。本当、可笑しいな」



 何故。何故こんなにも落ち着いていられるのだろう。ノアスもエリィも今の自分に疑問を抱いていた。



「でも、ノアス君って何か不思議。一緒に居ると恐怖とかそう言うのがどこかに行っちゃうんだよね」


「なんだそれ。意味がわからん」


「わたしたち、どうなっちゃうのかな。これから」


「大丈夫。必ず生きて帰れる」



 エリィが不安そうな表情を浮かべたので、ついノアスは根拠のない言葉を言ってしまう。



「ノアス君がそう言うなら大丈夫だね。きっと」そう言ったエリィに笑顔が戻る。「そう言えば、ノアス君」


「ん?」


「さっきの階層主との戦いの時さ、氷のエレメンタルを感じたけど、あれってノアス君だよね?」


「……ああ」



 ノアスは濁し気味に言葉を発した。



「ノアス君って雷のエレメンタル使ってなかったっけ。聞いた話だけどエルフって一属性しか使えないんじゃない?」


「やっぱりエレメンタルの力感じ取れるんだな。まああんな派手に使ったら周りの奴らも気付くよな」ノアスはハハハと苦笑いし、「俺は、二属性のエレメンタルが使えるんだ」


「二属性? それって良くあることなの?」


「いいや。俺だけだと思う。まあ他のエルフを見たことないけど、多分俺だけ。どうして使えるのかは俺でも判らないんだ。気づいたら雷と氷が使えるようになってた」



 エリィの言うようにエレメンタルを扱うエルフは基本的に一属性しか使えない。けれどノアスは特殊な体質なのか二属性扱える。


 何故今まで氷のエレメンタルを使わなかったかというと、使う場面が無かったというのもあるが、目立つ事を嫌うノアスにとって話題になりそうな行為は控えたかったのだ。それだけじゃなく爪を隠しておけばいざと言う時隙を突けたりする武器にもなるので極力人前では使わないようにしていた。



「やっぱり凄いね。ノアス君は」


「そんなことないと思うが」


「あーあ。あんまり後悔とかしないようにしてたけど、目が見えない今が悔しいな。こんな凄い人が隣にいるのに、顔が見えないんだもん」残念そうにエリィが呟く。すると何かに気づいたのか、表情をパッと切り替え、「そう言えばさっき、リーリスに何か言おうとしてなかった?」



「あれか」ノアスは天を仰いでエリィに尋ねるべきか悩む。「他人に聞くのも変かも知れないけど、リーリスの両親って知ってるか?」次の瞬間どうなっているのか判らない状況を経験したので、聞ける時に聞くことに。



「リーリスの両親?」エリィが首を傾げる。「うーん、知ってるというか、知らないというか」


「は?」


「えっとね、リーリスの両親って行方不明なんだって」



 ――!?



 エリィの言葉を聞いて心臓が潰されそうな感覚に陥る。変な汗がばぁーッとそこら中から溢れ出る。


 リーリスの両親が行方不明?



「リーリスがダンジョンに潜った理由は行方不明の両親を探す為なんだって。だからそう考えると似てるんだよね」


「そ、そうか」



 ノアスは冷静さを失っていた。うっすらと見えた光がエリィの言葉でとても近い存在に見えた。本当に彼女はあの人たちの娘なのか。



「で、何でリーリスの両親の事が気になったの?」


「あ、ああ。実は」ノアスは過去を思い返すように口を紡いだ。「俺が欠片階層主と戦った事は知ってるな」


「うん」



 聞いては行けないノアスの過去が、まさか本人の口から聞けるなんて、エリィは息を呑む。



「その時挑んだのは俺を含めて三人だったんだ。俺以外の二人は本当に凄くてな。どこから話すべきか」



 ノアスは過去を懐かしむように口を開いた。


 自殺しそうだった自分を二人が救ってくれたこと。欠片や階層などダンジョンの仕組みを教えてくれたこと。エレメンタルの使い方を特訓してくれたこと。二人には娘が居て、その娘の話を耳にタコが出来る程聞かされたこと。


 そして欠片階層主と戦って――絶望した事。


 ノアスは一つ一つ懐かしみつつ時に楽しそうに、時に涙を浮かべて、時にとても苦しそうな表情で過去の事を紡いで行った。

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