閑話.地蔵峠の激闘はアバンチュールに大爆発 後編
現場は・・・地蔵峠の一角は大混乱だ。
叫び声とか爆発音が聞こえる。
大混乱・・・それは間違いない。
ただ理由は良く分からない。
理由は良く分からないが、見ていたものをそのまま話すとすれば女子高の魔女たちはリーダーの由良がイライラするとかいう理由で隣の男子校に襲撃を仕掛けた。
第5高校男子校応援団の連中はそれを迎え撃った。
今回は珍しく第5高の策が功を奏し・・・策というのは先回りして兵隊を土中に隠すという意味不明なものだったがとにかく魔女たちを挟み撃ちにしたのだった。
戦闘は優勢であった第5高校はそのまま勝利するかと思われたが第5高校リーダーである神取と瀬川の2人が何故か出てきてマジックアイテムを爆発させるぞとハンマーを構えて第4高校リーダーである城嶋由良を脅したのだ。
そこに石像が降ってきたのだ・・・マジックアイテム・・・コンフュージョン爆弾を狙ったとしか思えないが・・・マジックアイテムは爆発して周りに混乱を引き起こす強力なガスを大量に撒き散らしたのだ。
第5高校の秘密裏に用意したマジックアイテムは確かに強力だった・・・竜族召喚士すら幻覚に陥れたからだ・・・味方も巻き込む秘密兵器・・・なぜあのタイミングで出したのか・・・?
現場はそう、大混乱だ。
同士討ちをしたり幻覚と戦ったり気絶するものも大勢いた。
機密性の高い魔装鎧ならガス攻撃は無効のはずなのだが・・・全員が“混乱状態”に陥っていた。
・・・あれ?一人だけ無事だ・・・爆発の中心にいたのに・・・。
ガスマスクを被った身長150センチのボーズ頭・・・なぜか学ランを着ている。
右手の人差し指で天を指して叫んだ・・・。
「ぅおおおおお!天から降ったか地から湧いたかスパイシー仮面アオキング!!!参!!上ぉぉおおお!!!」
おや?周りにいた第5高校生徒からガスマスクをちゃっかり奪って装着している・・・。
第6高校最悪最低チーム“Z班”の寵児・・・これが・・・青木くんだ!
っていうか名乗ってどうする?聞いている人はいないみたいだけど・・・。
ガスマスクを持ってきているのに装着する許可が出ていなかったのだろう・・・第5高校生徒も全員錯乱している。
―――暗い一室で声が響いている。
一人の男が話している。
身長は160センチくらいで少し体形は太っている。
彼は自信に満ちた声で話している、周りにも数名いるがほとんど声は発していない。
まるで会話を模した演説である・・・彼はいつもこの手法を使う。
「うん、非常に面白い見世物だね。そうは思わないか・・・諸君」
「劣悪な行為と言わざるを得ない、この戦いの向こうに未来はない。まあたかが子供の、高校生同士の小競り合いだが格調性が低く、優雅さにも全く欠けている。戦略性は零点だね」
「うん?同盟している第4高校を助けるだって?ハハハ。面白い冗談だ。穂村恵美はどうなっている?」
「我々の崇高な志を理解できるものは少ない。全く世界は汚れているのだ。そう思わないか?」
「脈々と人から人へ受け継がれる文明など脆いものだ、世界は失うものの方が多い。非効率的なのだよ・・・」
「来るべき未来へ辿り着くものは極少数でいいのだ。我々は世界を必要としていない」
「まあこの4高と5高の戦闘において我々の同士になれるものはいないだろうね。そうは思わないか?ハハハ。いるとすれば飛び込んできた男くらいだね、自身を石化するとは興味深い能力だ・・・」
観測者はここにもいる・・・僕と同じように降魔の地を眺める者だ。
名前は海老名雲鎌という。
ここは第2高校の会議室の一つだ。
第2高校の最大勢力である“五色曼荼羅”の部長にして最も僕が気にしている男である。
暗い一室にモニターがいくつもあり彼とその従順な部下はそれを眺めている。第2高校にいながら各高校のチェックを怠っていない。
海老名雲鎌は表立って行動はしない、大抵は命令を受けた誰かがさらに人を使って暗躍している。そして密やかに情報を収集する・・そういう意味では僕と似てはいる。
・・・だが決定的に違う・・・彼は恐怖によって人を縛り操る男だ。
この男を調べるために近くまで来ているのだ。地蔵峠の戦争は余計な出し物だ・・・要は海老名雲鎌が見ていたものを僕も見ていたのだ。。
「あのバカ王子にはしかし呆れるね。妹君が現れただけであの体たらく・・・如月葵だったか・・・纐纈守人を倒したとかいう」
「いやいや、纐纈なんて大したことはない・・・ああいやそういう意味ではない。一対一で戦えば負けるだろう・・・だがそういう未来が訪れることはないのだ。彼は戦わずして私に敗れるだろう」
「西園寺桔梗?ハハハ・・・世界を知らなさすぎる・・・あの女は人も世界も読めてはいない・・・いずれ消す必要があるだろうが今ではない・・・城嶋由良をぶつけても面白いだろうね」
「第4高校には生贄がたくさんいる・・・今は仲良くしておかなくてはな、ハハハ」
「おやこっちのモニターでは・・・あの慌てふためいている我が校のバカ王子は集団で。今は何をなさっているのかな?」
「ほう・・・兄上さまを呼び出して私刑中と・・・ハハハ。怖くて怖くて仕方ないのだな・・・小物もここまでだと利用しがいがない」
「いやいやそうではない・・・王家の者という意味では、この海老名雲鎌はたとえばこの兄上の方が怖いね、ハハハ」
「理由?理由かい?彼の両親は彼の前で非業の死をとげている。さらにあらゆる意味で西園寺グループにすべてを奪われ軟禁されている、また弟王子に搾取され続け蹂躙され殺される運命だ・・・なのに何故か彼はこの降魔の地に住んでいる・・・自分なら逃げだしているよ・・・ほら、見たまえ・・・彼は髪で顔を隠しているよね?何かを隠しているのさ・・・」
「そうそう。妙だと思うだろう?彼は何かを隠している、もちろん顔じゃない。恐らくは大きな闇を隠している。それはこの海老名雲鎌に匹敵する闇かもしれない、ハハハ」
「私刑がすんだら兄王子を丁重に第6高校に送って差し上げろ・・・恩を売っておくのだ、同士たちよ」
「ハハハ。竜王家の子孫・・・降魔の地にいる3名・・・神明帝、如月葵、神明全・・・気を付けるべきはまさしく神明全王子であると予想するがね・・・あるいは手を組めるかもしれない・・・君は彼の知能指数をしらないだろう・・・もちろん私も詳しくは知らない、だが第一高校のエミリーより上だと推測するね。こないだの模試の結果を見なかったのかい?・・・ああそう1位はエミリーだったね、彼は3位だったが偏った点の取り方だよ・・・目を開いて物事を見るのだ諸君・・・本質をとらえるのだ・・・特異な能力者なのは間違いないだろう。危険だよ彼は・・・TMPAなんて意味をなさないのさ」
会話をしているかのような彼独特の演説は続く。
実際イエス以外の返事は周囲からはない。
取り巻きは心酔しあるいは畏怖し、あるいは仕方ないと言い聞かせているようだ。
「この六つの高校で我々にとって誰が危険か?前回も聞いたよね?皆の意見をまとめてくれたかい?」
「ハハハ。なるほどなるほど・・・君たちの意見は1位が西園寺桔梗、2位が不知火玲麻、3位が神取秀武、4位が城嶋由良、5位が権藤那由多先生か。各高校から一人ずつ選んだわけだね。そして教員から一人か・・・権藤先生が入っているのは悪くないね。サマナーズハイに所属しているA級サマナーだからね」
「だが、センスが良くないね。この海老名雲鎌はこう予想するよ。君たちと同じように順位付けしてみよう。1位は第6高校の神明全、さっき理由は述べたよね。2位は第4高校生徒会長の蜂野薫子さ・・・いやいや優秀だよ彼女は。第4高校生徒は教員もだね。1500人全員を悪魔の生贄として生涯を終わってもらう・・・そのためには董子は邪魔だね。それで親友の穂村恵美の登場さ、彼女をまず落とし堕とすというわけさ。ふらふらしているものを堕落させるのはわけはない。そして董子も引きずり落としてやろう、奈落の底までね。どうだい?楽しみだろう?」
「3位はそうだね。1高の女性だ。西園寺桔梗・・・でもなく才女エミリーでもなく・・・更科麗羅だね。情報処理能力が高く我々“五色曼荼羅”に介入してくる確率が高い・・・厄介だね。そして4位はうわさの竜王家姫君の如月葵だね、年齢を考えれば異常な能力だ、この先も成長するならだが問題はその存在そのものにあるのさ。意味が分からないかい?まあいい・・・5位は同じく第3高校1年の緑川尊さ・・・知らないって?・・・素性を隠していた如月葵にいち早く取り入った男だ、もちろん彼は気付いているさ。竜王家最強の如月葵が今後は台風の目になることをね。例えば彼女を時期竜王にすれば自分が召喚士の世界でナンバー2になれるだろう。抜け目ないね・ちなみに彼のお父上は公安のお偉いさんのようだ・・・自分の見解は以上だが・・・まあ、しいて6位を言うなら西園寺グループ4女の西園寺桔梗だろうかね。だが彼女を束縛するものは多い、義務感、多くの生徒、召喚士の未来、3人いる姉上たち、政界、財界とかね。背負うものが多くて彼女は動けないのさ・・・。しいて7位を上げれば現時点で秋元未来だね。彼女のことも知らないだろう・・・彼女も第3高校1年生だが如月葵に取り入っている女生徒だね。彼女は我らが同志ゲヘナの一員だ、スパイというわけだが・・・如月葵がまだ利用価値があるのに秋元に殺されるのはまずいのさ」
「ハハハ。如月葵の大争奪戦というわけだよ。竜王にするか。殺して勲章にするか・・・我々にとってもキーになるだろう。呼び出した魔王をその命を持って異次元に封印してもらうという役目のね」
「つまり我々は・・・神明全か如月葵の両方・・・もしくは最低限、如月葵を仲間にする必要がある。神明全は難しいなら如月葵を先に落とす、その時に緑川尊が邪魔になるだろう。如月葵は生きてさえいればいいのだがね・・・つまりさ、残りの3人・・・蜂野董子、更科麗羅、緑川尊には早めに消滅してもらう必要がある、目端が利きすぎるのも時には悪だからね。ハハハ―――」
暗がりで妙に説得力のある、カリスマ性のある演説は続いている。
それにしても秋元未来はゲヘナなのか・・・新しい情報だ、葵に伝えておくか・・・。
さてどうしたものかな、この海老名くんは・・・。
「―――とにかくこの古文書を解読するのが先決だろう・・・封印されし魔物と利害は一致するだろう、魔王の福音第13章の3・・・歌う悪魔・・・魔王・混沌之歌姫をこの世に召喚する・・・それには処女の生贄が大勢いる・・・そして死んだ者をさらに捧げて4000年もダラダラ続いている聖魔対戦などというくだらないものを根底から破壊する。それほどの破滅をこの世にもたらすのだ・・・大いなる粛清という奴だ、困難だが私ならやり遂げられるだろう。人類には死に絶えてもらう」
「いやいや大丈夫だ・・・安心したまえ・・・君たちは救われるさ。この海老名雲鎌によって・・・多分ね。ハハハ」
「秩序は一度崩壊し作り直す必要がある・・・もし予想外に生き残った残念な能力の人間がいれば魔族のエサにするか奴隷にすればいい・・・とにかく召喚士以外は家畜と一緒である。そして多くの召喚士と敵対するだろう・・・つまり大多数の召喚士も残す必要はないだろう。妨げになるものは躊躇せずに消していかねばならない・・・これは自然の法則なのさ。ハハハ。人も召喚士も増え過ぎたのさ」
「ああ、そうだな諸君。なんなら今から選んでおけばいい・・・誰を奴隷に家畜にするかをな・・・ハハハ」
それにしても・・・なるほど現在進行形で私刑されている僕のことも観察中だったか。まあ僕もそちらを観察中なのだが。
どちらが観測者として上か・・・いずれ勝負する時がくるかもしれない。
この降魔の地で無害を装っている僕を唯一危険と言っている・・・桔梗よりある意味邪魔かもしれないな。
まあ桔梗には葵をぶつけよう。
この男は僕が何とかしないと。
しかし予想通以上に危険だな・・・海老名雲鎌・・・この距離なら心も少し読める・・・本気だ、彼は。本音で喋っているわけではないが・・・強大な信念がある・・・戦闘能力は低いが底知れない男だ。
確かに個人のTMPAなんて関係ないのかもしれない。
ゴス!
ゴッ!
ゴッ!
―――校舎の影で僕をニヤニヤしながら殴っている奴等なんて・・・小物も小物・・・ゴミだな。海老名雲鎌が小物と言いきった神明帝の腰ぎんちゃくたち・・・。
そいつらに地面に引きずり倒されて頭を踏まれて写真を撮られて笑われている。
ブレザーは切り裂かれて燃やされた。
血が出てるな、歯も折れたか。
まあ、どうでもいい・・・後で治せばいい。
魔王の福音・・・古文書か・・・調べる必要があるな。
それよりも海老名雲鎌という男・・・危険度MAXだな・・・優先順位を繰り上げるか。
―――粉塵がいたるところで立ち上る。
地蔵峠では混乱した第4高校生徒と第5高校生徒が自滅行為を繰り返していた。
効果時間も長くなかなか強力なマジックアイテムだ。
竜族召喚士ですら混乱させるとは。
「うっひゃ―――――――!!!!うひゃうひゃあぁあああ!!!」
身長150センチ、ハゲ・・・学ランを着てガスマスクを装着しているスパイシー仮面アオキングは歓喜の雄たけびを上げていた。
学生服の上半身部分はブクブクに膨れている・・・どうやら倒れている第5高生徒の財布を自分のシャツにねじ込んでいるようだ。
何人分の財布を奪っているのか分からないが・・・。
これって盗難なのでは・・・?ん?女性の下着のようなものも見えるが・・・。
今度は倒れている女生徒の胸を揉みつつ奇妙な雄たけびをアオキングは上げている。
やっぱ青木くんって振り切れてるよな・・・。
彼には借金があるのだが・・・返さなくてもいいかな・・・儲けているみたいだし。
それにしてもこれってワイセツ罪なのでは・・・?
犯罪じゃないのかな・・・まあ、いっか・・・。
「キャー!な!なにものですか!無礼な!」
気絶していた女生徒が覆いかぶさっていたアオキングを跳ね除ける・・・。
まだガスが利いているのだろう・・・ヨロヨロしている。
その女生徒は鞭の形の魔装具を影から取り出して構えた。
スパイシー仮面はうひゃうひゃ言いながら変な踊りをして挑発している?
ピシャ!!
鞭がうねりアオキングの身体に少なくない衝撃を与えている・・・。
しかし彼は無傷だ・・・さすがヒーローだ。
・・・性犯罪者ヒーローは全身を岩石化して攻撃を防いでいる。青木くんの十八番だ・・・攻撃力はゼロである。
「この城嶋由良にこんな真似をして・・・生きていられると思ったら・・・う・・・」
喋ったせいでまだ充満しているガスを吸ってしまったようだ。
ピンクツインテールがゆらゆらしている・・・幻覚と戦っているのか・・・左腕で何かを振り払って立っているのも困難なようだ。
「覚えて・・・覚えてなさいよ・・・必ず報復しま・・・す・・・からね。私の胸を・・・」
それを見てガスマスクの下でニッと笑い・・・アオキングは悪役のように城嶋由良に近づいていく。
うーん。第4高校や第5高校、そして第6高校を恐怖に陥れている城嶋由良に鉄槌が落とされる・・・それが青木くん・・・うーん。悪女なんだろうけど、少し可哀そうだな・・・こんな変態に・・・。
ゴウ!!
一陣の風・・・突風だ・・・木々がざわめき緑葉が宙に巻き上がる。
出所は・・・かなり遠くからで花屋敷華聯の部隊が到着したようだ。
風魔法で一帯に充満しているガスを散らすつもりのようだ。
ガスが危険なため花屋敷華聯は地蔵峠の手前で止まっている・・・彼女は地竜使いであり、他のメンバー数人が風魔法を発動しているようだ。
「ちっ!」
そう、カッコよく捨て台詞を残してアオキングは混乱ガスとともに去っていった。
ゆっくりと城嶋由良は倒れていった。
―――これは地蔵峠の激闘と後世に伝わっている。
第4高校と第5高校の戦闘でもっとも被害が拡大した戦となった・・・混乱ガスで同士討ちがおきたからである。
両陣営とも得るものは何もなく・・・負傷者多数・・・ついでに多くの財布と下着も行方不明となった。
呼びだされ両陣営ともに西園寺桔梗から身の毛もよだつような叱責を受けたのだという。
特に攻撃を仕掛けた城嶋由良は2時間ほど正座させられ泣かされたらしい・・・アオキングにセクハラされて財布も盗まれたのに・・・。
第4高校大将の城嶋由良はセクハラされた腹いせにさらに他校への陰湿なイジメを展開していった。特に第5高校との表立った戦闘は禁止され危険なため・・・第6高校のひ弱な生徒たちへのカツアゲが著増したのだった・・・“ジュウェリーズ”メンバーが財布を盗まれたのが引き金だろう。
そのカツアゲ現場に生徒を助けに一人で行ったのが第6高校教諭の熱血女教師である26歳独身の鳥居大雅先生である。
第6高校生徒たちを守っただけなのだが第4高校生徒に暴力をふるったことにされて懲戒免職寸前になっていったのだ。
・・・なんか・・・これってアオキングのせいなんじゃないの?




