従軍記者の日記 61
伊藤の部下達は素早く本部からテーブルを持ち出し、並べていく様を見つめていた。懲罰兵達も感心する手際で瞬く間に支給の受付が設営され、伊藤達が被服の支給を開始した。それを感心した顔で眺めてしまうクリス。パトロール部隊に同行していたハワードも戻ってきて軍服を支給されている兵士達をカメラに収める。伊藤もそれそ咎めることもしない。
「支給を受けたものはしばらく整列していろ、剥奪前の階級を申告してもらう!」
伊藤の言葉に目を輝かす懲罰兵達。
「伊藤中尉、全員参戦すると思いますか?」
先ほどからたまっていた質問をクリスはぶつけてみた。
「それは無いでしょう」
その言葉に先ほど伊藤に石を投げた将校が近づいてきた。
「いえ!我等の意思は決まりました。この戦いを貫徹……」
男の言葉に思わず嵯峨の顔を見る。
「そう言うのが隊長が嫌いな精神論なんだよ」
伊藤は低い声でその将校をたしなめる。
「一時の高揚感で正義を振りかざすのは止めておいた方が良い。結果はつまらないぞ」
そう言う姿は政治将校とは思えない。クリスはそう見ていた。
「ああ、そうだった。君の姓名と階級を聞いていなかったな」
「イ・ソンボン少尉です。医師として参戦していました」
「お医者さんですか。うちはそっちの人材足りなくてね。小学校の跡地が野戦病院にする予定ですから、たぶんそちらの勤務になるでしょう」
そう言うと伊藤は再び書類に目を通し始めた。イはそれが少しばかり不満だというようにその場から懲罰兵がたむろしているところへと去った。
「そう言えばシャムは……」
伊藤がそう言ったのでクリスは周りを見渡した。懲罰兵の群れの中、一際小さい黒い帽子がちらちらと見える。クリスはそのままシャムのほうへと歩いていった。
シャムと熊太郎は懲罰兵達に囲まれていた。
「嬢ちゃん。あんたもここの隊員なのかね」
「そうだよ!私は騎士だからみんなを守らないといけないの」
「偉いんだなあ、嬢ちゃんは」
そう言われて照れているシャム。熊太郎は頭を撫でられながら甘い声で鳴いている。
「シャムちゃん。また友達が増えたな」
クリスの言葉に嬉しそうに頷くシャムがそこにいた。