#00.
義姉であるエリーゼが死んだのは、降り注ぐ雪が身震いするほど冷たい冬だった。
かつては王太子妃として誰もから羨望のまなざしを向けられていた姉だったが、葬儀に参列したのは両親と義妹であるルシラ、そして8歳になった弟のイリオスだけだった。
やつれ果てた両親。死の意味をようやく理解できる歳である幼い弟。
一体どうしてこうなってしまったのだろう。
1年前までは、エルカルド侯爵家は笑顔の絶えない幸せな家庭だった。貴族にしては珍しく、笑い声が途絶えない幸せな家庭だったのだ。
(ヴァンサン・ド・フェルキリオン。カミラ・ロシュア)
姉を欺き、裏切った発情した糞野郎ども。
(あの二人だけじゃない)
姉を欺いた者は数えきれないほどいる。いいえ、この国そのものが姉を追い詰めたのだ。
エリーゼの墓碑を見つめながら、ルシラは両目を閉じた。まぶたの裏に、死ぬ直前の、しおれた花のようなエリーゼの姿が鮮明に浮かび上がった。
生きて護ってあげられなかったのだから、死んでからでも姉を護ってみせるというルシラの言葉に、エリーゼは彼女の手を強く握りしめて言った。
「ルシラ。一緒に死ぬ覚悟があるなら、私の代わりに復讐をしてくれる?私をこんな風にした彼らを、惨めに破滅させて」
「復讐……?」
「そうよ。私、本当は許せなかった。でも、私の持っていたものは全部あいつらに奪われてしまったから。残ったものと言えば、壊れたこの身体だけだから……復讐できなかったの」
「お姉ちゃん……」
死にゆくエリーゼには、もう復讐の手立てすらない。その事実があまりにも胸を痛めつけた。
「ルーシー。あなたならできるでしょう?あなたにこんなお願いをしてごめんなさい。どんなに時間がかかっても構わないから」
私の代わりに、彼らを断罪して。
曇り空からひとひら、ふたひら。
雪の結晶が舞い落ちてきた。
閉じていた目を開けたルシラは、墓碑を撫でおろしながら言った。
「心配しないで、お姉ちゃん。お姉ちゃんの最後の願いは、私が必ず叶えてあげるから」
復讐のためなら、私、なんだってできるんだから。




