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思想弾圧の激化を防げ

昭和八年(一九三三年)夏。京都帝国大学の「滝川事件」を、現代の『イノベーションの多様性理論』を用いて完封した俺は、さらに根深い問題の解決に乗り出していた。


それは、特高警察(特別高等警察)や司法省の右派官僚たちが推し進めようとしていた、治安維持法の改悪と「思想犯」への容赦ない拷問・弾圧の激化である。


史実ではこの時期、小林多喜二をはじめとする凄惨な拷問死事件が相次ぎ、人権は形骸化。


一度でも「左翼」と見なされれば精神的に完全に破壊されるまで弾圧され、国民全体が相互監視の恐怖に怯える暗黒の時代へと突入していった。


(テロは法に基づいて厳罰に処すべきだ。だが、単なる『思想』や『反戦の意見』を持つだけで、拷問して命を奪うような国にしてはならない。恐怖で縛られた国民に、自由な発想の科学技術など生み出せるはずがないんだ)


「陛下、特高警察を管轄する内務省、および司法省の強硬派が、思想犯の『再転向(思想の強制強制改変)』のため、より過激な取り締まりマニュアルを策定しております」


影から現れた榊少佐の報告に、俺は冷徹に目を細めた。


「榊、ただちに内務大臣の山本達雄そして司法省の首脳陣を御所に呼び出せ」



七月某日、吹上御所の執務室。


「陛下! 共産主義や反戦を唱える不穏分子は、帝国の国体を内側から腐らせるシロアリにございます! 奴らに人権などは不要、力によって徹底的に圧殺し、思想の『純化』を成し遂げねばなりません!」


内務省の右派官僚が、血気盛んに俺に迫ってきた。俺は玉座に深く腰掛け、現代の社会学、そして歴史の教訓に基づいた「国家の統治理論」を冷酷に突きつけた。


「シロアリだと? 愚か者が。思想の弾圧を激化させれば、表向きの『シロアリ』は消えるだろう。だが、それは地下に潜り、より凶悪なテロリストとなって破滅的な反撃を企てるだけだ。歴史を見よ。弾圧が過激化して成功した国が、世界のどこにある?」


「そ、それは……しかし、軍の規律や国民の忠誠を守るためには……」


「忠誠とは、恐怖によって強制するものではない」


俺は立ち上がり、内務大臣らを眼鏡の奥の鋭い眼光で見据えた。




「これからの日本は、圧倒的な経済の発展と、盤石な社会保障によって国民を満たす。生活が豊かで、未来に希望がある国で、誰が危険な思想に身を投じるというのだ? 思想犯が生まれる本当の原因は、彼らの頭脳ではなく、社会の貧困と、理不尽な格差だ。国がすべきは、拷問ではなく『内政による救済』である」 


俺はデスクの上のペンを取り、事前に用意していた新たな「勅令(最高命令)」の書面を叩きつけた。


「本日をもって、警察および司法機関による『肉体的・精神的拷問の完全禁止』を命じる。取り締まりはすべて公開の法廷、および客観的な証拠に基づいて行え。もし、特高警察が独断で容疑者を拷問、あるいは不審死させた場合、その指揮官と実行犯は『大逆罪』と同等の罪として、国家が総力を挙げて極刑に処す。……異論はあるか?」


「拷問の……禁止、にございますか!? それでは思想犯の取り締まりが完全に麻痺いたします!」


官僚たちが悲鳴を上げる。 


だが、そこで俺の合図により、永田鉄山中佐と東條英機中佐が率いる「近衛憲兵隊」が、執務室のドアを開けて入ってきた。




「山本内務大臣」


永田が冷徹な声で告げた。


「すでに陸軍憲兵隊、および榊少佐の防諜網により、特高警察の一部が『愛国』を隠れ蓑にして、民間の企業や学者から不当な恐喝や賄賂を受け取っていた証拠を確保しております。陛下の勅令に従わぬ不穏分子は、我ら憲兵隊が今この場で、規律の敵として拘束いたします」


東條英機もまた、生真面目な眼光を輝かせた。「軍紀も警察の規律も同じである。法を無視して暴力を振るう者は、帝国への叛逆者だ」


(これで、外堀も内堀も完全に埋まった)


天皇の絶対的な権威、そして「規律の番人」となった憲兵隊の圧倒的な物量。


これには、いかなる右派官僚も平伏し、冷や汗を流して震えるしかなかった。


「……御意。陛下の深遠なる慈悲と理性の前に、ただちに警察の取り締まり方針を全面改定いたします」




数ヶ月後、帝都東京。史実のような凄惨な特高警察の暴挙は、跡形もなく消え去った。治安維持法は「テロや暴力的な破壊工作の取り締まり」に限定され、単なる言論や思想の自由を侵す牙は完全に抜かれたのだ。


左翼と呼ばれた知識人や労働運動家たちも、拷問で殺される恐怖から解放され、むしろ俺が推し進める「最速の経済復興・労働環境の改善」によって、国家の健全な構成員へと組み込まれていった。


思想の弾圧を激化させるどころか、国家が『法と理性』を証明したことで、国民の天皇(俺)への信頼は絶対的なものとなった。


「見事な統治にございました、陛下」


御所の窓辺で、榊少佐が深く頭を下げた。


「恐怖による支配を拒絶されたことで、帝国の若い頭脳たちは、萎縮することなくあらゆる分野でその才能を開花させ始めております」


「ああ。これで本当の『自由な知性の揺り籠』が完成した」


俺は、ついに枷を完全に外された日本の未来の地図を広げた。


内憂(軍部のテロ)を完封し、外患(国際的孤立)を回避し、学問の自由と思想の健全さをも死守した大日本帝国。

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