5-2. サンキュー
この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません。
「イナガキ君はこれから次の仕事?」
「この後もバイトだな。犬の散歩の」
あのワイドショーを見た後でよく犬の散歩なんかできるな。とサトウは少し驚くも、彼ら帝国人は生きるために仕事を選り好みしていられない。
Eランクのイナガキも基本的な扱いはサトウ同様下級国民。多少優遇されるとはいえ世知辛いのだ。
「僕はもう帰って晩飯かな。やることもないしね」
「おう。まぁ別に不味くないなら何よりだ。その虫の死骸の塊」
イナガキと分かれたサトウは裏道を進む。
しばらく歩けば住まいの木造二階建てアパートだ。
ワンがオウズマートの従業員の住まいにと用意したアパートだが、ここ最近はサトウしか出入りしていない。皆どこへ行ったのだろうか。
サトウに本を貸している、ゴ。彼もこのアパートの住人であるが、現在は人体実験のバイトへの参加により失踪中である。
アパートの一階エントランスに下りた防犯用シャッターの鍵を開けて建物内に入る。
このシャッターは本日の賎民調教犬チ・ワーワ脱走事件のせいで下りているわけではない。
下級国民の居住施設ということで、下級国民狩りの対策のためワンが用意した防犯なのだ。
階段を登り、アパートの二階にあるサトウの自室。「204号室」を目指す。
古すぎる木造の廊下は、サトウが歩く度にギイギイと音をたてるだけでなく数センチ沈んだ。
サトウは「204号室」の鍵を開け帰宅すると、ちゃぶ台の上にサンキューを転がす。
ふと昨晩、蝉で童貞を捨てかどうかで思い悩んでいたことを思い出した。
「結局のところ僕って、蝉で童貞を捨てたのか?」
何となく自問自答してみる。しかし、その自問自答に特にゴールがあるわけでもなく。馬鹿らしくなったのでサンキューを食すことにした。
一口。二口。ところでこれは美味しいんだろうか、不味いんだろうかと考える。
「いや、ちょっと待って!これ虫の死骸の塊なの?これ!いつも食べてるこれが?」
別れ際にイナガキに言われた言葉を思い出し、今ごろ驚く。
帝都ではFランクの下級国民はサンキューのみ食べることを許されている。Eランク以上の階級から通常の食事が許可されるのだ。
ちなみに地方の下級国民は農地で育てた野菜の廃棄部分と、腹が減ればその辺の雑草や虫を食べる。
サトウは帝都にやってきた一四年間。地元にいるよりはマシなものを食べられていると思っていた。
「それなのに虫の死骸の塊だったって、ちょっとショックだなぁ」
以前ワンからサンキューを受け取る際に裸のまま手渡しではなく、パッケージに入った状態で渡されたことがあるのを思い出したサトウ。
そこに何か書いてあるかもしれない。今でもどこかに取っておいてあるはずだ。
パッケージを見つけたものの見慣れぬ文字が羅列されていた。
帝国語しか読み書きできないサトウは、明日ワンに訊けば良いかと、サンキューを平らげる。
サトウの見つけたパッケージ。
原材料には「UNPLEASANT INSECT PESTS」と印字されていた。
また不快害虫に怯える季節がやってきますね。今年も頼むぞフマキラー。
--
お手すきでしたら【評価】と【ブックマーク】の方、どうかお願いします。
評価は下部の星マークで行えます! ※例)☆☆☆☆☆→★★★☆☆




