#270 声優オーディション
僕と留美さんはなんとあのリリカルエンジェルの主人公役の声優オーディションを受けることになってしまった!
そしてさらにその様子はニコチューブにて世界に配信されるという⋯⋯。
なので今日の僕と留美さんはヴィアラッテア本社へとやって来ていた。
「⋯⋯なんか緊張するね」
「そうね。 でも自然体でいきましょう」
隣の留美さんは見た感じ緊張してない様子だった。
留美さんはバスケ選手として大事な試合でシュート決めたりとかで大舞台に慣れているからだろうか?
「おー! 来ましたね二人とも!」
そう僕らを出迎えたのはメアリーさんだった。
「メアリーさん、おはようございます」
「よろしくお願いします」
「今日の二人のマネージャーは私です! ウサーコは社長なので!」
どうやら木下さんは重役席で審査員側らしいのかな?
「ウサーコって呼んで木下さん怒らないのですか?」
我ながらどうでもいい質問をする⋯⋯緊張しているからだろうか?
「嫌がってますよウサーコは! でもツンデレって奴です! 嫌よ嫌よも好きのうちという日本の文化です!」
⋯⋯絶対に違うやつだコレ。
たぶんぜんぜん言う事きかないので諦めてるんだろうな木下さんは⋯⋯。
そして僕と留美さんは2人だけの控室に案内される。
「2人の正体はシークレットですからここで待機です!」
「メアリーさん。 どういう収録方式なんですか?」
そう留美さんが聞く。
「オーディションには2人を含めて10人くらいの声優さんがエントリーしてます」
多いな⋯⋯。
「それでそれぞれ個別に規定の台本を読んで審査します」
なるほど⋯⋯じゃあ他の声優と鉢合わせは無いのかな?
「全員名前は公開せずに声だけを聞いてもらってリスナーの投票で決めるみたいですね」
なるほどなあ⋯⋯でも有名な声優だと匿名はあんまり意味ないかも?
僕みたいなダメ絶対音感という声優の声を聞き分ける特技の持ち主はアニメファンには大勢いるし。
そうなるとこの匿名というのは僕や留美さんみたいな声優のキャリアの無い新人のためなんだろうか?
「それじゃあしばらく待機です! 出番が来たら呼びに来ます!」
そうメアリーさんが行こうとしたら。
「あの! 台本とか先に見せてもらえないのですか?」
そう留美さんが質問する。
そうだよな、練習するに越した事ないし。
「えーとですね、今回のオークションでは素の演技が重視されるみたいです」
「素の演技?」
「ゴテゴテの演技じゃない、役者とキャラのマッチを重視する方針みたいで⋯⋯ぶっつけ本番なのです!」
「そうなんだ⋯⋯」
なんだこのオークションは?
こういうの普通なのかな?
「ふふふ、リリカルエンジェルでは声優の個性がキャラに反映されていくのが伝統ですからね。 つまり現時点ではキャラクター設定はあんまり決まっていないのですよ!」
そうなのか!? それじゃあ事前対策の練習なんてやりようが無いな⋯⋯。
「詳しいですねメアリーさんは⋯⋯」
「イエス! こう見えてシリーズ初代からすべて見ている超古参ファンなのでーす!」
⋯⋯リリカルエンジェルって20年くらい続いているよな?
それに木下さんの学生時代の先輩だったらしいしメアリーさんの年齢って?
「ヘイアリス! ⋯⋯乙女の年齢を詮索ダメ絶対NGですよ!」
「⋯⋯何のことかなあ」
心が読めるんだろうか、この人は?
「じゃあ私はこれで!」
そうメアリーさんは行ってしまった。
これで残されたのは僕と留美さんだけである。
「⋯⋯とにかく頑張ろうね留美さん」
「そうねアリスケ君」
そして僕たちはそのまま無言で椅子に座り続けた⋯⋯。
か⋯⋯会話がない。
でも何話せば良いんだろうか?
変に話しかけて留美さんの集中力を邪魔しちゃ悪いし⋯⋯。
そう思っていたら。
「私ね⋯⋯子供の頃はアニメのキャラクターって実際に居るんだと思ってたの」
「そうなの? ⋯⋯僕はアニメキャラはそうは思わなかったけど特撮のヒーローなんかは居ると思ったなあ」
「そうなんだ? やっぱり男の子だからかなアリスケ君は?」
「かもね」
なんだか男の子扱いで嬉しい。
「でもね、ある日気づいちゃったのよね」
「何に?」
「⋯⋯このキャラとこのキャラの声が一緒だって」
「あーわかる。 僕もそれ気づいてからは探すのが好きになったなあ」
「それからしばらくして私は声優という仕事があるって知ったのよ」
「それで声優が夢に?」
「キャラクターに命を吹き込む。 それが声優のお仕事だと知って私はまるで魔法使いだと思うようになって」
「⋯⋯もしかしてルーミアのキャラ設定が魔法使いなのは?」
「⋯⋯悪い? 魔法使いに憧れているのは?」
「いや別に? 似合ってるし可愛いし」
じゃあ猫耳はどこから? とは聞きにくい僕だった。
「中学生の頃に私はどんな大人になるんだろうって考えて⋯⋯それで声優になればいろんな人生を見れるんじゃないかって思って」
「それで声優になりたくなったの?」
「うん⋯⋯変かな?」
「いいじゃん。 素敵な夢でさ! 僕なんか将来の夢なんて無かったから羨ましいくらいさ!」
「そうなの? アリスケ君には目標が無いの?」
僕には『なりたい自分』が無かった。
「⋯⋯こんな声でしょ僕。 だからさ⋯⋯世の中に出るのが怖くてさ、あのままならずっと自分の部屋から出られない大人になっていたんだと思う」
「じゃあアリスケ君はVチューバーになって良かったの?」
「僕というシンデレラを連れ出してくれた魔法使いは姉さんなんだ。 ⋯⋯本人には絶対に言わないけど」
「そっか⋯⋯アリスケ君の魔法使いは真樹奈さんなのか⋯⋯」
「いや、僕にとっての魔法使いはルーミアで! その、姉さんは美魔女かな?」
我ながらヘンテコな言い訳だった。
「ふふ⋯⋯美魔女⋯⋯。 真樹奈さんが美魔女⋯⋯」
声を殺して笑ってる留美さんが!?
どこにツボがハマったのか大ウケだった!
「まあ客観的に美人なのは間違いないし⋯⋯」
「そうね⋯⋯アリスケ君という使い魔も居るし」
「えー! 姉さんの使い魔はヤダ! ルーミアの使い魔がいい!」
「⋯⋯⋯⋯そうなんだ?」
やばい⋯⋯失言だったか!?
どうする? なにか言い訳を!?
そう僕が焦ったその時だった。
「らららこっぺぱ~ん!」
そう意味不明なメロディーを口ずさみながら入ってきた女性が居た!?
「⋯⋯あ」
入ってきた女の人が凍りついた⋯⋯。
僕と留美さんは無言で見つめる⋯⋯。
「やば⋯⋯控室を間違えた⋯⋯」
⋯⋯どうやらオーディションを受ける他の声優さんらしい。
「大変失礼しました! ごめん!」
そう手を合わせて謝る謎の女⋯⋯。
だけどその時の「ごめん!」のイントネーションに僕のダメ絶対音感が発動した!
「⋯⋯紫雲院麗華さん?」
「知ってるのアリスケ君⋯⋯この人を?」
いや知らない人だ。
でも知ってるキャラクターを演じた人だと思った。
「あはは⋯⋯出てくるのが麗華かー。 はいそうです。 紫雲院麗華を演じてました今は声優の井上莉緒です」
井上莉緒⋯⋯その名前を僕は覚えていなかった。
しかし紫雲院麗華さんは最近思い出したので知っている。
紫雲院麗華とは僕の子供の頃のヒーロー戦隊のヒロインだ。
校則戦隊セイトカイジャーのリーダー役を演じたのがこの人なのか!?
まああれから5年くらい経ってるからだいぶ雰囲気も変わった気もするが⋯⋯。
⋯⋯というか今は声優やってたんだ? ぜんぜん知らなかった。
「⋯⋯その、芹沢留美と申します」
「栗林有介です」
そう名乗る僕たちだった。
「あははゴメンゴメン! まあお互いオーディション頑張りましょうね!」
そう言い残して莉緒さんは去って行った。
「⋯⋯知ってる人? アリスケ君?」
「うん⋯⋯昔の戦隊の役者さんみたい⋯⋯」
「そう⋯⋯なんだ」
この時、留美さんの顔が引き締まった。
そうだすっかり浮かれていたけど⋯⋯オーディションを受ける声優さん達はみんな強力なライバルなんだ。
それに勝たないと留美さんは声優になれないんだ。
そんな事実を僕はしっかりと胸にしまい込むのだった。
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