4月 君と言い訳
暦なんて無視して書いていきます(笑)
愛してる。
なんて恥ずかしくて言えない私は、
好きを星の数ほどあなたに送る。
「行くぞ。」
晩御飯の後片付けも終わり、リビングのソファーに座りながらダラダラとTVを見ていると、タクさんが声を掛けてきた。
「どこに?」
ジャケットを羽織り、リビングの扉の前で立つタクさんに問いかける。
「桜そろそろ見頃だろ?」
TVの横に置かれたカレンダーを見て日付を確認する。今日は4月もそろそろ下旬、4月19日。近所の公園にある桜を思い出す。
「そっか…そろそろだね。」
TVを消して立ち上がる。
「ほら、行くぞ。」
玄関へ向かいだすタクさんの後を追いかけた。
タクさんのマンションから歩いて五分ぐらいの公園には遅咲きの桜がある。ライトアップもされていて週末になると花見客でいつも賑わっている。しかし今日は平日の夜だけあって誰も居なかった。
道路から少し入り、遊歩道に設置されたベンチにふたりで並んで満開となった桜を眺める。
静寂の中、ライトで照らし出された満開の桜は、淡い光を放ちながら闇夜に浮かび上がっていた。その姿はどこか妖艶で思わずため息が出るほど綺麗だった。
春といってもまだ夜は肌寒い。寒さを言い訳にして、こっそりタクさんとの距離を縮める。ほんの少しだけタクさんとの距離を開けたのはここが外だから。だけど、すばやく右から伸ばされた手でその距離はなくなった。しっかりと腰に回されたタクさんの腕が温かい。
いつもは、恥ずかしくって指先を握って歩くのが精一杯。
だけど、今日は特別。
「好き。」
ほうと夜桜に見入るタクさんの横顔に投げかける。
「うん。」
桜を見つめたままタクさんは答える。こちらを見て欲しくってもう一度。
「好き。」
「ありがとう。」
やっとこちらを向いたタクさんはいつもと変わらない。
悔しい。いつもそうだ。私がどんなに好きって言ってもタクさんは言ってくれない。男の人に好きかと聞いてはいけないって、どこかの雑誌で読んだからタクさんには聞かない。それでも言って欲しい時だってある。溢れそうな涙を我慢してもう一度。
「好き。」
今日の私は、おかしい。いつもならこんなに何度も言わない。きっと桜のせいだ。桜があんなに綺麗だから。
困り顔のタクさんはそっと私を抱き寄せた。
「好きだけ?」
タクさんの優しい声が耳元で響く。そっと離れて見つめあう。
「愛してる。」
普段は恥ずかしくって言えない言葉。もうタクさんの気持ちなんでとうでもいい。ただ私の気持ちを言葉で伝えたい。我慢していたものが、溢れ出す。
「泣き虫だなぁ。」
呆れたタクさんの指が優しく私の涙をぬぐう。
「愛してる。」
ご褒美だと言わんばかりに、タクさんはずっと欲しかった言葉をくれた。
止まりかけていた涙がまた流れ出す。
タクさんの手が私の頬に添えられ、唇にキスが落ちてきた。驚きで、涙は止まっていた。
タクさんの目は夜桜のように淡く輝き綺麗だった。
今日は特別。
桜を言い訳にして私達は愛を確かめ合った。
ヤマもオチもないただただ甘いだけのお話でした。三月が何だか暗かったので…。ここまで読んで頂きありがとうございました。続きはまた近いうちに。