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恋人以上夫婦未満  作者: ヒロタ
本編
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4/15

5月 君と挑戦状

本当にたくさんのお気に入り登録ありがとうございます!!

 新年度の慌ただしさも落ち着き、新入社員の取扱いにも慣れ始めた5月中旬の昼休み。ストレス発散に早起きして作ったお弁当を広げる。お弁当組の私は、電話番も兼ねていつも自分の机で食べていた。いただきますと手を合わせてから食べ始める。


 クリーニングに出した冬物をそろそろ取りに行かないと。

 シャンプーも買わないと。

 洗濯もたまってるな。

 昨日タクさんの古くなった靴下をまとめて捨てたから買いたさないと。

 

 昼休みに考えるのは仕事の事ではなく、いつも家の事だった。別にタクさんから強制された訳ではない。あれこれしている内に、自然と主婦業が身についてしまった。あぁ、どこか遠くに行きたい。今すぐやめる事だって出来るのに、ずるずると続けているのはもう生活の一部になっているからだ。


「桐嶋さんている?」

名前を呼ばれたので、食べる手を止め顔をあげる。

「桐島は私ですが。」

 立ち上がり、扉の方へ歩を進める。

「話があるの。来てくれる?」

 そう言って扉の前で立ちはだかっているのはスーツをピシッと着こなした女性だった。緩めに巻かれた髪からは、きつめの香水が漂ってきて思わず顔をしかめたくなった。有無を言わせないその雰囲気に笑いが漏れる。

「ごめん。電話番お願いね。」

 扉近くの席に座っている後輩に一声かける。

「はい。あの…大丈夫ですか?」

 心配顔の後輩に笑顔で頷き、先に出ていったお姉様の後を追った。案の定と言うか、定番の階段に連れてこられた。


「話って何ですか?」

 私が呼び出されることなんてたったひとつだが念のため聞いてみる。頭からつま先まで見られる。この品定めも何度目か…。

「係長と付き合ってるってほんと?」

 にんまり笑った彼女が聞いてきた。ほらやっぱり。新年度も始まって2ヶ月、新入社員や支社から本社への転勤組も新しい生活に慣れる頃だ。そうすると、決まってみんな周りを見渡し恋人候補を探し始める。そして、例にも漏れず必ずタクさんは候補に上がるらしい。確かに、30歳独身役職付その上身なりも良いとなれば目につきやすい。だが大半の人は他の人から私の存在を教えられて候補からはずすが、たまにいるのが目の前のような人。しかし…


「係長?」

 タクさんとの事かと思ったが、タクさんは確か主任だったはず。

「とぼけないで、海外事業部の長原係長よ。」

 海外事業部の長原ならタクさんだ。そう言えば、この春から昇進したと言ってたような気がする。家では仕事の話しはしない。タクさんが何をしているのか知らないし、タクさんも私が何をしているのか知らないだろう。

「あぁ…まぁ。」

 じゃぁ今年はこの人で6組目だ。今年で4年目ともなれば大体わかってくる。こうして私を呼び出し真意を聞いてくるのは2タイプ。

 何人かでまとめて来るのは新入社員の女の子達。タクさんが気になると言った女の子とその友達。その光景には毎回女子中学生かとツッコミたくなる。だが、今年はひとりで来た強者も居た。その子達には、年上と先輩の威厳をフル活用して適当に受け流す。

 厄介なのがこっちのタイプ。支社からの転勤組だ。年上のお姉様達なので気を使う。本社に転勤してきただけあってスーツを着こなし自信に道溢れている。

 そして、必ず初めに私を上から下まで品定めする。勝ったと思ったとたん容赦ない。

「何その返事?どうせあなたが勝手に恋人面しているんでしょ。係長が何も言わないから勝手に係長の家に住んでるって噂よ。」

 予想通りで、おもわず笑いを噛み殺す。

「…。」

 これまでに黙っているのが一番だと学んだので黙って下を向く。

「お弁当だってあなたのことだから頼まれてもいないのに勝手に作ってるんでしょ?それになに今日のお弁当、係長がかわいそうよ。」

 勝手に作った覚えはない。付き合う前からひとり分を作っていたから、私からすればタクさんのはついでに作ってるだけ。今日のお弁当は特別仕様でいつもは普通だ。あなたは私の何を知っているの?そう、反論しそうになってもぐっと堪える。

「何とか言いなさいよ。」

 お姉様は何も言わない私に苛立ち始めた。あと少しだ。

「とにかく、あなたと係長は釣り合わないのよ。あきらめなさい。」

 少しの沈黙の後、痺れを切らしたお姉様は言いたいことだけ良い放つと廊下へと消えていった。

「釣り合わないか…。」

 静かになった踊り場に私の声がよく響いた。


 自席に戻ると上司の山本主任が私の弁当を覗いていた。

「なんですか?」

 主任に近づく。

「桐嶋。お前やっぱりいい性格してるよな。」

 ニヤニヤと悪そうな笑みを浮かべながらこちらを見てきた。

「なんですか、いきなり。」

 何だかきみが悪い。

「さっき長原の所寄ってきた。」

 主任はタクさんと同期で、よくふたりで飲みに行っている。今日も誘いに寄っていたのだろう。

 そう言って、主任はもう一度私のお弁当に視線を落とした。

 今日のお弁当は以前からやってみたかったキャラ弁だ。ご飯はパンダくん。メインのハンバーグの周りには星にくり抜いたチーズを散りばめ、プチトマトとうずらの卵とチーズで作ったきのこも添えた。我ながら可愛く出来たと思う。

「どうでした?」

 タクさんのお弁当も私と同じ中身に作ってある。

「嫌そうに食ってて面白かった。」

 良くやったとばかりに背中を力強く叩かれた。嫌そうだったなら成功だ。今日のキャラ弁は、昨日無断で私のアイスを食べたタクさんへの報復にと思いついた作戦だった。喧嘩したなら弁当抜きなんて面白くない。キャラ弁にした理由を話すと、今度は何度も背中を叩かれた。

「ところで今度はどこの奴だ?」

 豪快に笑っていた主任が急に真剣な目をして聞いてきた。後輩を見れば目が合った。きっと心配して私と仲のいい主任に言ってくれたのだろう。

「大丈夫ですよ。一言言ったらどっか行きました。」

 主任に全てを言うつもりはない。主任に言ったとこは、ほとんどタクさんに伝わっていることを知っている。

「そうか。お前も強くなったな。」

 泣いて主任にすがった時のことでも思い出しているのだろう。

「毎年の事ですから。」

 笑顔で答え昼ごはんを再開した。


 午後4時。作業がひと段落したので、一息入れようと立ち上がった。ミーティング用の机の前で突っ立ている後輩が目に入り近づいた。

「どうしたの?」

「これどこに返せばいいのか分からなくて。」

 そう答えた後輩の前には午前中に使用したプロジェクターが置かれていた。たしかに、まだ入社2ヶ月目の後輩には分からないだろう。

「それは2階上の倉庫…一緒に行こうか。」

 口で教えるよりも行った方が早いので、休憩がてら一緒に行くことにした。


 2階上の廊下を後輩と並んで歩き倉庫へと向かう。

「すいません。」

 すまなさそうに謝る後輩にやんわりと注意する。

「知らないんだから、当たり前でしょ。分からない時は遠慮せず誰かに聞かないと。」

「でも、皆さん忙しそうで。」

 確かにうちの課は皆定時退社を目指し、忙しなく指を動かし作業に没頭しているため声を掛けづらい部分はある。

「まぁね。でも、私達は仕事の手が止まるよりも藤井君が仕事を間違ったまま覚える事の方が困るんだから、分からないことは自分で判断せず誰かに聞きなさい。」

 少しキツイ言い方になったかもしれないが、大切なことなので言っておく。

「はい。」

 力強い返事に安心した。

「早く一人前になりたいです。」

 そうつぶやいた後輩は昔の自分を見ているようだった。

「笑わないでください。」

 すねた顔はまだまだ少年のようで可愛かった。

「ごめん。私も一年目の今頃同じような事言ってたの思い出してね。」

 はじめて会った人にも言った記憶がある。顔は覚えていないが、今の私と同じような反応をしたことは良く覚えている。私も後輩と同じように笑われた気がしたんだ。ふいに懐かしく思っていると、休憩室から出てきた人とぶつかった。

「っと。ごめんな…」

「あなたになんか私は負けないから。」

 私の言葉を遮り睨み付けていたのは、一昨日ひとりで私のところにやってきた女の子だった。それだけ言うと、私の横を通り過ぎて行った。中を覗けばタクさんが居た。彼女とタクさんの間で何かあったのだろう。タクさんはこちらに向かってきたが、私はタクさんに会釈だけして歩き出した。


 その日の夜タクさんは珍しく早く帰ってきた。

「ただいま。」

「…おかえりなさい。」

 弁当箱を流しへ持ってきた。どうやらキャラ弁には触れないらしい。いつもはその足で寝室へ向かい着替えるのだが、今日は何やら冷蔵庫を漁っている。気になったので、タクさんが寝室へ向かったのを確認してから冷蔵庫を開けるとそこにはケーキが入っていた。主任がタクさんに言ったかは知らないが私が、キャラ弁にした理由はちゃんと理解したみたいだ。嫌そうにキャラ弁を食べるタクさんを思い浮かべる。タクさんが可愛く感じ、寝室へ向かった。スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを外している途中のタクさんを後ろから抱きしめる。

 しばらくそうしていると、タクさんが私の手を外しながらくるりと回転して私を抱きしめてくれた。暖かい体温に癒される。

「ご飯食べよう。今日はタクさんの好きなロールキャベツだよ。」

 タクさんから体を離して扉へ向かう。

 タクさんがケーキを買って、私がロールキャベツを作る。これが二人の仲直りの合図。


 着替え終わったタクさんとテーブルに向かい合って座る。

「美味しい?」

 ロールキャベツを頬張るタクさんに問いかける。

「うまい。」

 タクさんの笑顔に疲れが飛んでいく。

 昔どうして私を選んだのか知りたくて、珍しく酔っ払って帰ってきたタクさんにこっそり聞いたことがある。

 -頑張っているユキから目が離せなくなった。-

 そう言って笑ったタクさんに、あの日ドキドキした。

 今日のような嬉しそうな笑顔だっていつまでも、この場所から見ていたい。

 

 負けたくない。


 仕事に家事に時々恋愛。


 大丈夫、私はまだまだ頑張れる。


 タクさんの笑顔に元気を貰った。


5月のテーマは新入社員。新しい人物を登場させてみました。次回は6月のお話です。

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