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身を粉にして働いていた六年間も、ふっと浮かんでは、意図して否定していたこと。
私はもう還れないのでは?
――私は本当に還りたいの?
多分、諦めたのは早かった。自分でも自覚してない頃に、もう諦めはついていた。どうせ、元の世界に私を待ってるひとなんていない。私はただ、約束を守ってくれなかったことに怒ったんだ。呼び出したくせに放置して構ってくれなかったことに怒った。子どもみたいに。元の世界に執着がない、それがあんまり寂しくて、それよりも私の成果を認めてほしい、そんな自分のことが恥ずかしくて、それで。
――還せない。還す方法が見つからない。すまない。いつか、いつかきっと、還してやりたい。でもいつか還せると、約束することはもうできない。すまない。すまない。
私よりもよほどショックを受けた顔で、今にも土下座をして頭を床にめりこませてしまいそうな、この国の王を見て、その苦渋に満ちた声を聞いて、私は。私は……ひどいことに、ほっと、してしまった。還せないんだったら、還りたくないだなんてこと、認めなくても、いいんだって。これ以上ない、『還らない』理由の、大義名分。だって還れないんだもの。
そんな自分の思考に、なんてひどいのだろうと、顔が歪む。それを見て、さらに深く頭を下げる王。申し訳なくなった。ああ、この国にはどうして、冷たいひとも多いけれど、誠実な、温かなひとが沢山いるのだろう。何より最初に自分のことばかり、自分のことだけ可愛い自分が、浮き彫りになって、すごく嫌。
「……頭を上げてください、王様」
--いつか、いつか還してください。待っています。それまで私は、私の役目を果たします。もっともっと、この国を豊かにしたい。それが私の役目で、今は、願いでもあるんです。待っています。私はこの国を豊かにしながら、王様が私を元の世界に還してくれる日を、待っています。
こんな言い方しかできない、自己保身ばかりの自分が、本当に、嫌で。
豊かにしたいという言葉の裏には、嘘を言って、この善い王様を苛むことへの、罪滅ぼしみたいな気持ちも混じっていた。




