実現(Ⅰ) 教
※学年主任視点の物語です。
この高校はホントに帝国主義を貫いていた。
授業中は誰もしゃべらない。
俺が頼んだことは欠かさずにやる。
これこそ、上下関係の鉄則。
このはっきりとした上下関係が将来の社会で役に立つのだ。
だが・・・
悲しいことにこの素晴らしき「帝国主義」は年々弱体化していると親友である教活主任からきいた。
そんな霧島第3高校の学年主任とあっさりなってしまった俺は、俺の「理想」を現実化するために、まず味方作りからはじめた。
本来なら親友である教活主任がいれば十分なのだが・・・
この高校は「帝国主義」を貫いているくせに、何か大きなことを教師たちで決めるときは「多数決」。
すなわち「民主主義」制がとらわれるらしい。
厄介なつくりをしているものである。
まぁ、結論としてはいくら俺らが奮闘しても・・・
2人だけでは実現不可能である、ということだ。
俺は叔父さんの書いた本を片手に、1人1人教師たちを説得していった。
運がいいことに、この高校の教師たちは年配者が多く、「伝統」を大切にする人も多かった。
だから、「実は俺もそうしたいと思っていた」とか「同感だな。」とか、意外とあっさり賛成してくれる人もいた。
しかし・・・
やはり20代の教師なりたての若者たちはこれに反対だった。
そのため、毎日のように討論が起こっていた。
「我が校の伝統は昔から「帝国主義」と決まっておる!ゆえにこれを曲げるわけにはいかん!!」
「伝統そのものを否定する気はありません。が、強化するということは生徒たちを抑圧するということに結びつきます。」
その日も、いつものように教師同士の会議で、討論が起こっていた。
この会議には、毎回「校長」「教頭」も参加している。
2人の意見がでれば、どちらが正しいか・・・が決まる。
それは、我々につけば一気に推し進めることができるが、逆に反対派につけば形勢逆転もいいところである。
やはり民主主義の「多数決」にしても、権力の高い者の意見は大きいのだ。
「・・・校長・教頭のお二方はどのように考えられますか?」
1人の教師が、黙って腕を組み我々の討論をにらみつけるかのようにきいていた2人にきいた。
まぁ、勇気のあることである。
この2人のだしていたプレッシャーは相当なものだったのだから。
「ふむ・・・諸君らのお互いの意見は理解した。」
先に声をあげたのは教頭だった。
「だが、この歳になって恥ずかしいのだが、「帝国主義」ということを強化することが正しいのか、または否なのか・・・わしにはわからん。」
彼はため息をつきつつ、静かに言う。
まるで、「どうでもいい」かのような感じである。
「わからないことを決めるというのは難しい。だからわしゃぁ、流れにまかせることにする。」
それはつまり・・・
「中立」ということか。
どちらにもつかない。
したがってどちらの味方でもないし、敵でもない。
ただ決まったほうへ動く・・・
「君たちに決定権は委ねよう。わしはそれで十分じゃ。」
それが教頭の意見だった。
だが・・・
教頭たる人間の意見がこのようなものでいいのだろうか・・・
俺は少し不満を抱いた。
だが、今は個人的感情よりも、この討論を優先するべきである。
せっかく2人の意見がきけそうなのである。
いや、すでに1人は「中立」となった。
残りはもう1人である。
「・・・」
皆が校長に注目する。
「・・・」
だが、彼は口を開かなかった。
沈黙を守り続けていた。
だが・・・
我らとて・・・そして、相手の若い教師たちとて・・・
この会議はできるだけ早急に結論を出したいはずである。
故に我らも、若い教師たちも、今日、この場で決着がつくことを理解しているし、覚悟している。
そして、決着を望んでいる。
だからこそ、ここで校長にも自らの意見を述べてもらわないと困るのだ。
校長が沈黙で通すようなら、我らも沈黙を通す。
校長の意見をきくまでは、沈黙を通し続ける。
いかにもそんな空気だった。
「・・・私は・・・」
どれほどたっただろうか・・・
正確な時間はわからない。
だが、この皆のプレッシャーに勝てなかったのか、やっと校長は口を開いた。
彼の言葉に皆が耳を傾ける。
「・・・私は・・・」
だが、声はだんだんと小さくなっていく。
それに、「私は」までしか言わない。
大事なのは、そのあとである。
校長はキョロキョロとあたりを見渡してから、一息のため息をついた。
「私は・・・教頭先生と同意見です。」
彼は弱弱しく答えた。
つまり、彼も「中立」・・・と?
教頭だけではなく、校長までが「中立」?
どこまでやる気がないのだろうか・・・
これでは、「お前らだけでホイホイやっていてくれ」といっているようなものである。
彼らのやる気のなさは苛立ちへとかわっていく。
だが、皆は納得している様子だった。
そんなんでいいのだろうか・・・
しかし、実際この2人が「中立」だとしたら・・・
次はNo,3の教活主任へと皆の目が行く。
「俺はもちろん強化派だ。」
彼は即答で答えた。
ありがたいものである。
だが・・・
教活主任に関しては最初から「強化派」の中心核の1人としてやってきていた。
中心核のやつが意見をのべても、あまり意味はない。
ここはあくまで「中立」の人からこその意見が必要なのである。
すると教頭がこの不器用なやり取りをみていて、あきれ果てたらしく・・・
苦笑しながら言った。
「ふむ・・・なら中立としての意見だが・・・ここは我が高校No,3の教活主任が「強化」といっているのだからいいんじゃないのかね?」
No,1~2は2人とも中立なのだ。
だが、それ以下は「強化派」か「反対派」しかいない。
この討論の終止符を打つため・・・
教頭が「中立」としての意見をいったのだ。
「別にわしは帝国主義を強化したいわけではないが・・・皆だけでは決められないというのであれば、わしはNo,3である彼のいうことをきくべきだと思うがね?」
若い教師たちは下を向いた。
もう勝敗はついたようだった。
「・・・わかりました。それが教頭先生の中立としての意見なら・・・認めるしかないでしょう。」
若い教師たちのリーダー格の人物が頷いた。
ここに、「帝国主義強化」の原案が通ったのだ。
さて、帝国主義といっても・・・
やはり生徒たちは反対する者もいるだろう。
教師たちにですらいたのだから、いるに決まっている。
帝国主義の素晴らしさを知らず、勝手に勘違いをして反対する者たちがいるだろう・・・
まだ学校内で「帝国主義強化」のことは知れ渡っていない。
だが、いつか知れ渡るときがくる。
そうなれば一気に「反帝国主義派」が現れることとなるだろう。
それをどう止める・・・か。
止めるための方法を見つけるべく、俺はこの学校の歴史を調べまくった。
そして・・・
ある日、1つのことの事実を発見した。
「生徒会・・・」
この学校の帝国主義は、元帝国海軍少将殿が残したものだ。
そして彼は、いつか「反対派」が現れることを予測していた。
だから、「生徒会」により大きな権限を与えた。
それは今でも生きている。
だが・・・
今の生徒会は「腐敗」していた。
人数が少なすぎるため、手が回っていない。
その結果、権限そのものの力はあっても、表に出せていないのである。
となれば、「生徒会拡大」を行えばいい。
しかし・・・
この案には、反対する教師が多かった。
「生徒会と学校が同じ立場というのは賛成できない。」
「生徒と学校が同じ立場!?帝国主義は上下関係をしっかりさせるためにある!!そのための「帝国主義」だ!」
「学校が生徒会と同レベルというのは納得できない。」
「それに生徒会を拡大したとしても・・・必ずしも帝国主義強化に同調するとは限らん。」
「下手をすれば敵になることすらある。強化して敵となれば、学校としては脅威となる!!」
それが皆の意見だった。
これはいくら俺でも説得できなかった。
ところが翌年のある日、またしても運命を変える出来事が起こった。
「先生。」
「ん?」
職員室前に1人の男が立っていた。
彼の名前は「三方ヶ原」という男。
2年生にして現在の生徒会会長。
彼は生徒会内から非常に信頼されている男である。
「どうしたんだね?」
「・・・あなたですね?帝国主義強化をさせるための中心にいるのは・・・」
そろそろ広まり始めるころだとは思っていたが・・・
意外に早いものである。
・・・彼がここにきたということは・・・
反対しにきたのだろうか。
「あぁ。・・・広まっているのか?」
「いえ、まだ生徒会内部のみです。」
ということはまだ全体には広がっていない?
・・・だが、ここまできたら広がるのも時間の問題である。
「実は折り入って頼みに参りました。」
「ん?なんだね?」
「・・・生徒会の人員強化の許可が欲しいのです。」
「!!」
生徒会の人員強化・・・
それは俺が諦めかけていたものだった。
「現在、生徒会の人数は少なく、手が回りきっていません。」
その通りである。
人数が少なすぎる・・・
「我ら生徒会は「帝国主義強化」に賛成です。しかし、人数が少なすぎる故に帝国主義強化に尽くしたくても尽くせないのです。」
つまり生徒会の人数を増やせば、「帝国主義強化」は確実に行える!?
「そこであなたにお願いにまいりました。」
「・・・私も前々に生徒会人員強化の案をだしたのだが・・・通らなかったのだよ。」
「なぜです!?」
彼の目は真剣だった。
「それは生徒会の人員を増やして拡大したとして・・・帝国主義に同調するかどうかわからないからだ。」
「我々は帝国主義を全力で強化していくつもりです。」
「それに・・・生徒会と学校が同じ立場・・・というわけにはいかんのだ。」
すると彼は少し退いた。
それから手を顎にあて、何か考えているようだった。
そして、少ししてから口を開いた。
「ならば、同じ立場、しかし意見が学校と生徒会で異なった場合、学校の意見を優先する・・・というものでどうでしょう?」
それは自ら生徒会の権力を少し捨てる・・・
ということだった。
だが、そこまでして彼は帝国主義を強化したがっている。
つまり彼は「同志」だ。
同志とならば・・・
応援しないわけにはいけない。
「・・・ついてきたまえ。」
「はい?」
「これから皆と交渉しよう。・・・君も生徒会としての意見を言いたまえ。」
「はい。」
そして、それはすぐさま会議となることになった。
「前もいったが我々はそれは賛成できん。」
「だが、彼ら生徒会は帝国主義に同調すると表明しています。そうなれば、我々の目指す「帝国主義強化」は形だけでなく、しっかり内容も含んだ完成版として成り立つのです!」
「ならん!!これは「帝国主義」そのものに違反することになる!生徒と学校が同じ立場など・・・」
頭の固い連中だ。
だが彼らとて、「伝統」を大切にする、同志。
伝統を大切にするが故の考えである。
「我々生徒会と学校とは立場は同じですが・・・仮に意見が異なった場合、学校の意見を優先する・・・というのはどうでしょう?」
すると皆は黙り込んだ。
「これで生徒会より学校のほうが立場が上・・・ということになるはずです。」
三方ヶ原は冷静に一言一言はっきりという。
「しかし・・・」
「帝国主義を強化するためだ。お前らとて「伝統」を強化したいだろう?・・・だがこのままでは形だけで終わるぞ。」
「・・・」
皆は黙り込んだままである。
「・・・放課後に我々のみで会議を行う。それにて判断する。」
「・・・わかった。」
ここは承諾しておいたほうが得策だ。
もし、この放課後の会議で「否」という結論が出たなら、また抗議すればいい。
だがここで抗議すれば・・・
わずかな可能性すら自らで潰すこととなる。
冷静な判断力が必要なのだ。
その日の放課後。
俺は久しぶりに生徒会本部会議室へとやってきた。
「これはこれは・・・先生。」
入ると3名の生徒会生徒がいた。
生徒会会長である「三方ヶ原」。
2年生徒会副会長である「山崎」。
1年生徒会副会長である「天王山」。
生徒会のトップたちが会議していたのだと思われる。
「山崎」という名の男性は俺のことをにこやかに迎えてくれた。
が、「天王山」という名の女性はこちらのことをにらんできている。
あまり好かれていないようである。
「で?会議の結果はでましたか?」
「いや、まだ会議中だ。」
今の生徒会の人数は12名。
これだけの人数でこの学校の生徒たち全員を把握するのは不可能である。
「・・・もし許可がでればどれほど人数を増やすのです?」
山崎は私に問いてきた。
が・・・
それは俺にとてわからないことである。
何しろ、まだ話題にでてないのだから。
「わからんな。だが・・・もしやるとなれば結構増やすんじゃないか?」
なんていっていると・・・
放送が入った。
「会議が終了しました。全教師は職員室へとお戻りください。」
「終わったみたいだな・・・では行ってくる。」
「良い結果を期待しています。」
三方ヶ原はそういって会釈をした。
・・・礼儀というのはこういうものだ。
他の連中も見習って欲しいものである。
さて、職員室につくと、もう皆が集まっていた。
「お前にしては遅かったじゃねぇか・・・」
今回の会議に参加していない教師は俺だけでない。
・・・ここでも俺に同意してくれた親友・・・
教活主任が行った。
「・・・結果は?」
「知らねぇ~よ。俺もまだ教えてもらってねぇんだ。」
彼を中心に会議に参加できなかった教師も少しいる。
彼らは皆、俺と同意見の者たちだ。
「皆そろったようだのう・・・」
教頭が一番前に立つ。
「では今回の会議の結果を報告しよう。」
すると教頭は1枚の半紙を出した。
なにやら習字で何か書かれているようだ。
ここからではよく見えない。
すると彼はその半紙を真上へと掲げた。
その半紙には・・・
「許可」
とでかでかと書いてあった。
つまり・・・
「案が通った?」
「・・・みたいだな。」
意見が通ったのである。
無理だと内心少し思っていたが・・・
「生徒会拡大」という案は通った。
やはり「学校と生徒会の意見が異なった場合、学校の意見を優先する」というのが効いたのだろう。
同意見も教師たちの歓喜のなか、俺は颯爽と生徒会へと報告しにいく。
そしてその後・・・
「三方ヶ原」が会長と勤める2年間に帝国主義は非常に大きなものへと強化された。
すでに校内ではでかでかと「伝統」をいえるレベルまで進化したのだ。
・・・しかし、「学校と生徒会の意見が異なった場合」については翌年・・・
「三方ヶ原」が生徒会を引退される少し前に見直されることとなる。
結果、「学校と生徒会は同じ立場」という、昔と同じものに戻ったわけだ。
これには「三方ヶ原」や「山崎」などが見直しを要求したためである。
これにはさすがに俺も驚いた・・・
が!!
今までに生徒会は大きな役割を果たしてきていた。
そう・・・それは学校そのもの以上に帝国主義に貢献していた。
学校そのものが帝国主義に貢献するには限りがあるため・・・
より生徒会が大きな役割を果たしたといえる。
それを盾に・・・
生徒会は「見直さないと、今後協力しない」と言ってきたのだ。
これに関しては俺や教活主任も含め、ほぼ全員参加の会議が何度も繰り返し行われ・・・
結果、「認める」という結果になったのだ。
まぁ、生徒会の反抗は予想外だったが・・・
それでも帝国主義強化は順調に進んでいた。
三方ヶ原が引退して少ししてから現校長が退職をした。
そのため、次の新たな校長がやってきた。
だが、新たな校長も最初は帝国主義に反対したが・・・
今では何も言わなくなった。
そう・・・
ここに私の夢がついに実現したのだ。
教師としての生活・・・
気づけば残り3年となった。
時間というものは意外と早くまわっている。
だが・・・
次に入ってくる生徒たちは俺のなかでは異例だ。
なぜかというと・・・
それはついこの間のこと。
教活主任にうまいことまるめられたのである。
内容は・・・
「最後の3年ぐらい色に縛られてみないか?」
というものだった。
教活主任いわく、「最後ぐらい、3年教え込んできた生徒たちを卒業させて、感動と同時に引退という道をとったらどうだ?」
とか・・・
「3年間教え込んできた生徒たちの卒業という感動をお前にも知って欲しい」
とかそういう感じである。
俺は2年を教える必要があるわけだが・・・
2年を教えつつ、基本は次の1年担当となる。
ということになる。
だからいうならば1年担当だけど、プラスで2年も教える・・・ということだ。
しかし1年には教えられる教科がない。
だから特別に1年でも日本史を教えられることとなった。
もちろん2年生でも教える。
つまり今年の生徒で歴史が嫌いな生徒は不運なことだ。
本来1年でいい、日本史Aを2年続けてやることになるのだから。
しかしここは文型高校。
なかなか嫌い・・・なんて人はいないだろう。
具体的に日本史Aをやる時間は「ロングホームルーム」という時間。
この時間はいらないのではないか?
と前々から我が校が問題視されていた時間である。
週に1回だけだが・・・
1年生にも日本史Aを教えられるというのはありがたい。
ちなみにこの学年を担当するわけだが・・・
3年は日本史B(選択科目)を教えることになりそうである。
そんなわけで残りはわずか3年となってしまった。
4月、俺は初めて1年生の授業を教えた。
この学校は表向きにはまだ「帝国主義」を公表していないどころか・・・
現校長が、「一人一人がしっかり意見をもてる高校」という目標を立ててしまっているせいで、そちらばかりが目立つ。
結果、まだ我が校が「帝国主義」を貫いているなんて知らない。
だが・・・
それでもさすがは我が国のトップレベルの文型高校。
それなりに静かで授業も結構はかどる。
1年生の日本史Aでは、いきなり「太平洋戦争」のことについて教えていくことにした。
何しろ、2年生でも日本史Aがあるわけだから、「太平洋戦争」以外のことは2年で教えればいいのだ。
1年生のなかで・・・
一番授業態度が悪いので・・・
ここ1年B組。
「いいですか?日本は好き好んで戦争を始めたわけではありません。米英の石油輸出禁止により追い詰められ・・・」
いつものように授業を教える。
このクラスは基本はおとなしいクラスである。
が、このクラスには厄介者がいる。
「おい、長篠・・・きいてるのか?」
「・・・」
彼は無視したまま、下を向いている。
よく見てみれば、ゲームをしていた。
わが国トップクラスの高校にはこんなレベルの低いヤツ、いないと思っていたが・・・
どこにでも例外というのはいるようである。
「おい、きいているのか?」
念を押してみる。
すると彼は面倒そうに顔を上げた。
「きいてませ~ん。俺、今、携帯やってるんで話かけないでもらえますか?」
「なっ!?」
わが国トップレベルというのは・・・
反抗までトップレベルなのだろうか・・・
これは前代未聞である。
「なにぃ~?」
すると彼はこちらを鋭い目つきでにらんでくる。
だが、俺にはそんなの効かない。
「なんだ、その目つきは!やる気がないなら出て行け!」
「は~い、じゃぁ、でていきま~す。」
すると彼は席を立ち、後ろのドアから出て行ってしまった。
彼はいったい何のためにこの高校にきているのやら・・・
やる気のない者は不要である。
とまぁ、こんな感じでB組には目をつけていた。
それからさらに5月の初期では、授業妨害まで発生した。
まぁ、その後に彼らは彼らの意見を述べ、考えていたから良いのだが・・・
やはりB組というのは問題なクラスである。
そして、約1ヵ月後。
「嵐」は突然吹き荒れた。
1人の生徒が体育館の壇上で堂々と我が校の誇るべき伝統である帝国主義を否定したのだ。
その彼の名前は「桶狭間」という名の男。
またしてもB組である。
B組といえば・・・
担任は「桐山」先生。
前々に「帝国主義強化」について、若い先生方と討論したが・・・
彼自身も若いため、あの時、彼は「反対派」にいた。
・・・結果は「賛成派」が教頭の中立としての意見のおかげで勝ったが・・・
そのことについて逆恨みしているのだろうか・・・
いや、だったらもっと前々に行っていたはず。
となると桐山先生が悪いわけではない。
B組の生徒たちに問題があるのだ。
すぐさまに校長に頼み込み、校長室へ彼を連行させた。
ここで話をつけるためだ。
従わないのならば「退学」という手をとるしかない。
校長室には、校長と俺・・・
それに生徒会1年副会長・・・
そして問題児。
校長室のなかは静かだった。
いや、静かな空気に保たれている。
ここは洗礼された場所なのだ。
第一、その「洗礼された場所」にこのような「問題児」がいることが「問題」なのである。
まぁ、しかしここにつれてこさせるように校長にいったのは俺だ。
この押しつぶされるような空気は、いつしか「罪悪感」へとかわっていくのだ。
この空気が自分が何をしたか、と教えてこんでくれるのだ。
だが・・・
問題児はいつまでたってもしゃべらない。
表情ひとつかえない。
それは俺には「大きな意思の現れ」のように見えた。
・・・それからさらに待つもやはり彼は態度をかえない。
もういい!
だが・・・せめて1言あるだろう?
それさえいえば何もいわずに「退学」にさせてやる。
この「大きな意思」は帝国主義破滅の脅威となる。
もう少しで実現しきれそうなのだ・・・
苦労を積み重ねてやってきたことをこんなところで塵に変えてなるものか。
「危ない芽はつんでおく」といういいまわしが正しいだろう。
だが彼には折れない心がある。
・・・となれば厄介だ。
これは俺の教師生活としての最後の山場だとそのとき、俺は確信した。
たとえ誰が相手でも・・・
決して負けるものか!!
帝国主義は絶対的に完璧なのだ。
そのことを皆に自覚させるため・・・
我が人生の全身全霊・全力をかけようじゃないか。
俺の教師としての最後の山を越えるため、覚悟を決めるのだった。
「実現(Ⅰ)」 完