布石
一夜が明けた。
昨日のせいで、喉がまだ若干痛い。
今日も絆同盟と学校まできたわけだが・・・
今日にはある作戦を実行する。
作戦名「空駆ける天馬」作戦。
ちなみに格好良い名前だな、と思った人。
・・・合唱曲からとった名前だ。
別に僕たちが考えた名前ではない。
そして、作戦自体の内容もまったく「空駆ける天馬」と関係のないことである。
この作戦には第3形態まであるわけだが・・・
まずその第1形態を開始するためにここまでやってきた。
絆同盟の皆は生徒会本部会議室の前に立つ。
いわば「殴りこみ」ということだ。
今や「絆同盟」は「殴りこみ」は大の得意となっていた。
「はい、おやすみなさいです。」
「シュ~」というスプレーの音がきこえる。
・・・いつもながら、見事な手際である。
時津風が竹刀で、生徒会警備部の武器を弾き、ひるんだところに「催眠スプレー」を放つ。
これは問題行動だが・・・
これは考え方の問題である。
今日、我々絆同盟は登校時に監視部につけられ・・・
生徒会室前に来たとたんに、警備部に襲われたのである。
いわば正当防衛といえる。
「・・・なんで襲い掛かってきたのでしょう?話しをするだけなのですが・・・」
「おそらく・・・「ベータ」が発動されたんだろう。」
川中が言う。
「ベータ」。
通称「戦闘態勢」。
生徒会の権限の1つで、緊急警備体制のことをいう。
生徒会が危険度レベル4以上で、なおかつ生徒会が「敵」と認識し、その「敵」が多数いるときに発動されるものである。
これが発動されると、どの公共施設も使用不能となる上に、生徒会監視部の監視が付く。
さらに、生徒会警備部には攻撃の許可がでる。
「追い払う」のではなく、「叩きのめす」ことで、生徒会の権力を象徴する、というのが目的らしい。
「ケッ・・・「戦闘態勢」まで発動してくるとは・・・いよいよ生徒会も本気となったわけだな。」
なんて時津風が苦笑する。
「まぁ、襲ってくれば眠らせればいいだけです。」
中島・・・
簡単にいってくれるが、時津風だって結構大変なんだぞ?
「まぁ、実際ここの警備部を眠らせちまったし、これで2回目だ。生徒会が「ガンマ」を始動するのも、時間の問題だな。」
「ガンマ」。
通称「生徒会の宣戦布告」。
普段は「宣戦布告」と呼ばれている。
生徒会が、「ベータ」で対処できない。
注意したのに、きかない・・・
というときに使う権限。
いわば、生徒会危機レベル「5」。
・・・MAXの危機レベルである。
生徒会そのものが、その組織に対し、宣戦布告することを意味するわけだが・・・
面倒なのは、「治安維持部」が動き出すこと。
「治安維持部」は本来存在していない。
危機レベルMAXで「ガンマ」が発動されたときに、臨時で編成される「部」。
実際には戦闘専用の「部」なので、「部隊」といっても過言ではない。
「治安維持部」は運動部のみで編成されたる、いわば「霧島第3高校生徒会精鋭戦闘部隊」。
生徒会全体から、戦える運動部の連中を片っ端から、「治安維持部」にいれて、編成される「特殊部隊」ともいえる。
そいつらが、「治安維持」の名のもとに、いつどこから襲い掛かってくるかわからない。
「ガンマ」が発動されたとき、「治安維持部」は敵対している組織に何をしてもいいという臨時許可が出される。
代表格は「暴力」である。
唯一許されていないのが「殺人」のみ。
ルール無用の権限。
危険な芽は摘み取る。
邪魔者は力でねじ伏せる。
といった、「帝国主義」がモロにでている。
罪はすべて学校が打ち消すのである。
今まで世間に何度か公表されたことがあるが、すべて学校側の働きにより、被害者の勝手な妄想ということになっているらしい。
今までに「ガンマ」をだされた組織の連中は「フルボッコ」にあうことは確実らしい・・・
「ベータ」はあくまで、警備のために攻撃してくるわけだが・・・
「ガンマ」はあっちから、無差別に攻撃してくる。
生徒会の本気モード炸裂である。
これが皆が生徒会を恐れている真の理由である。
退学よりもずっと恐ろしい権限である。
「怖いですねぇ~。」
いや、中島・・・
スプレー缶を上下に振りながら、微笑むお前のほうが怖いよ・・・
いつ眠らされるかわかったもんじゃない。
「やはり・・・問題なのは、生徒会のそんな勝手な行動を学校が許してるってところだな。」
将軍は言う。
確かにその通りである。
せめて学校が味方についてくれれば、生徒会の動きもだいぶ制限される。
が!!
それでも、学校がとめられるのは、暴力行為のみ。
それは先生たちが教師として、生徒を注意するのであって・・・
「退学」までは阻止できないが・・・
学校側だって、世間に9人でこの秘密をいわれたらかなわないだろう。
・・・おそらく退学はないが・・・
「チッ・・・厄介な学校にきちまったもんだぜ。」
「ホントだっぺね。」
ったく・・・
まぁ、そのおかげで絆同盟と戦えるんだがな。
やりあうなら全力ってか・・・
「まぁ、家に帰るまでは全員かたまっていこう。」
「そうだな。さて・・・「空駆ける天馬作戦」始動といきますか!!」
これを始動すれば確実に生徒会は「ガンマ」をだしてくるが・・・
なぁに、こっちには剣道のできる「時津風」もいれば、腹黒女までいる。
なんとかなるだろう。
「まぁ、「ガンマ」があがれば、お姫様がなんとかしてくれるだろ・・・」
え?
川中も何ができるのだろうか?
「みんな、川中は空手の黒帯だぜ?下手に触ると、首の骨をへし折られちまう・・・」
「・・・」
川中が時津風をにらむ。
というか・・・
この絆同盟って何気に野蛮だな・・・
こんなに肉食系が多かったんだ・・・
・・・待てよ。
黒帯?
・・・ヤバッ!!
もしかして、時津風が川中を「お姫様」って呼ぶのって・・・
これが怖いからか?
けど、時津風と川中の参戦は思ってた以上に頼りになるぜ。
「まぁ、ガンマが発動されれば・・・全員1つ何か武器を持つのが得策だろうな。」
と桶狭間が言う。
おいおい・・・
マジですか・・・
僕、体育苦手なんですけど?
「んじゃぁ、いきますか!!」
皆の覚悟が決まった。
・・・「空駆ける天馬作戦」第1形態発動である。
生徒会本部会議室のドアを思いっきりあける。
「ガンッ!」という音がする。
「よぉ、朝早くからご苦労なこったな。」
時津風が竹刀を片手に言う。
「お・お前たち!?」
川口は焦る。
「・・・」
そして、天王山がにらみ、生徒会幹部の連中が呆然としている。
「なぁ?ここら辺で「帝国主義」を解除してくれねぇか?」
桶狭間が言う。
「我々生徒会は誇りある組織だ。そんなことはできんな。」
「誇りある?だったら、汚ねぇ真似はしねぇよな?」
時津風が目を細めて言う。
「汚い?」
「あぁ、「ガンマ」だよ。」
「フッ、今まさにその話をしていたところだ。」
天王山は笑みを浮かべて言う。
いやいや・・・怖い人だぜ。
「やはり諸君らはこの学校では危険な存在だな。」
「いや、生徒会にとって・・・だろ?」
時津風が笑みを浮かべて言う。
笑みには笑みを・・・
ってか。
「・・・どうだろうな?学校はこちらについている。」
「おい、お前ら。「ガンマ」を出される前に、諦めろ。」
川口が言う。
「へっ、川口・・・警告サンキューな。けど・・・もう俺たちは道を決めてるっぺ。」
「あぁ、やるときになりゃぁ、やるしかねぇだろう。」
生徒会の連中は目を細める。
やべぇ・・・こいつはマジで「ガンマ」発動されるっぽいな・・・
「なぁ、もう一度きくぜ?・・・帝国主義を捨てないんだな?」
「あぁ。貴様らこそ・・・諦めないんだな?」
なんか・・・
冗談抜きでやめたくなってきたぜ・・・
「諦めてもなんにもならないからな。」
「フッ・・・理解した。」
すると、天王山が笑みを消し、真顔になった。
「全指揮可能部に緊急連絡!!これより「ガンマ」を始動する!!!」
「はい!!」
あちゃ~・・・
幹部たちはいっせいに立ち上がり、部屋から出て行く。
冗談じゃねぇぜ・・・おい。
「生徒会を敵にまわしたこと・・・後悔するといい。」
天王山が自信満々にいう。
「へっ・・・てめぇこそ、絆同盟を敵にまわしたこと・・・いつか後悔させてやるぜ。」
桶狭間・・・
いってることは格好良いが、挑発はよくないぜ・・・マジで。
絆同盟は生徒会本部会議室をあとにする。
「やっぱ・・・普通に頼んでもダメだったか。」
「冗談じゃねぇぜ・・・「宣戦布告」始動かよ・・・」
「後に、「治安維持部」の連中が襲い掛かってくるぜ・・・」
・・・やっちまったな・・・こりゃぁ・・・
そんな軽いノリでいえることじゃねぇが・・・
これはマジで怖いぜ。
「さて、「ガンマ始動」がみんなに広まんないうちに第2形態をサクッとこなしちゃおうぜ?」
今、やれることは1つのみ。
味方を増やす!
それだけだ。
「諸君、朝早くだがきいてほしい!!」
教室で桶狭間が大声をだす。
・・・昨日、あんなことがあったのに、よくそんなに大声をだせるもんだ。
僕は喉が痛くて痛くて・・・
「昨日、俺が集会で話したことを覚えているだろうか?」
そう・・・
それは、昨日の奇襲作戦の失敗をいかした作戦。
皆が「生徒会の権限」からの「恐怖」で立ち上がれない。
そういう結論がでた。
なら個別に少しずつ立ち上がらせれば、あとには勝手に立ち上がってくれる人もいるだろう。
みんなでやれば怖くないというやつである。
その第一歩として・・・
わずか2ヶ月だが、共にすごして来たクラスメイトを立ち上がらせることにする。
「・・・」
皆からの反応はやはり冷たい。
「昨日、俺はひとつ間違ったことをいった。それは俺一人が生徒会に宣戦布告するということだ。」
誰も立ち上がれないのなら・・・
仲間がいるということを自覚させればいい。
「俺には頼もしい仲間がいる。それが・・・こいつら、絆同盟だ。」
桶狭間が黒板の前に立っている僕たちを指指す。
「俺たち9人は生徒会に宣戦布告する。この歪んだ「帝国主義」を消し去り、この学校に華を咲かせるためだ。」
というか・・・
仲間がいないと、僕たち・・・
「フルボッコ」にあうんじゃぁ・・・
「先ほど生徒会に確認したが、帝国主義を捨てないときたもんだ!これでいいのか!?」
「俺たちはこんな生徒会の好き勝手にやらされてていいのかよ!?」
やはりダメだ・・・
どいつもこいつも生徒会が怖いらしい。
僕たちだって、怖いさ・・・
現に「ガンマ」が発動されたし・・・
「お前ら!どうか、立ち上がってくれ!!」
・・・しかし、誰一人と言葉を発しなかった。
2時間目終了後。
皆は他クラスの友達を手当たり次第に集めて、各自話をつける。
これが第3形態。
僕と五月雨も友達をつれて、ある会議室を1つ使って話す。
「・・・ということだ。」
「頼む、協力してくれ!!」
「・・・」
が、やはり友達は困っていた。
何しろ、生徒会とやりあうなんて・・・
命知らずもいいところである。
「共に「ひぐらし」で感動した仲じゃないか!!」
「・・・」
いくら小中高と同じの同級生も・・・
こればっかりはダメなのか・・・
そんなこんなであっという間に放課後がきてしまった。
結局、その日、誰一人動こうとはしてくれなかった。
「くっ・・・打つ手なし・・・か。」
関ヶ原が下を向く。
「・・・」
皆も下を向く。
もう明日には「ガンマ」が始動されたこが学校中に知れ渡っていることだろう。
つまり、明日になれば、話すことすら拒絶される可能性がある。
今日だけがチャンスだったってのに・・・
校長と桐山先生も、頑張って多くの先生を説得しているらしいが、あまり成果はでていないらしい。
そう・・・桐山先生からきいた。
やることなすこと、八方塞。
どこもかしこも、恐怖による洗脳。
どいつもこいつも、立ち上がろうとしない。
「・・・」
暗い空気となる。
昨日、校長と桐山先生がついたときの明るさとは裏腹である。
・・・こんなんじゃぁ・・・お得意のプラス思考も働かない。
どう・・・プラスに考えろというんだ?
やはり相手は「生徒会」。
所詮、僕たちのいっていることは実現不可能だったのだろうか・・・
「諦めるには また早すぎる~♪」
「!?」
すると、この暗い空気のなか、中島が歌を歌い始める。
これは・・・「Northen Lights」か。
「私の知っている曲の歌詞にこういうものがあります。」
「・・・」
皆は「だからなに?」という顔をしている。
「ホントに、諦めるにはまだ早すぎますよ・・・まだすべての手段が遮断されたわけじゃないですか。」
「・・・」
「それに・・・少なくても私たちはまだ退学していません。これだけのことをしでかしておいて、退学させられていないというのは、むしろ皆に勇気を与えているはずです。」
・・・たしかにそうだが・・・
「私たちは「絆同盟」。単なる同盟とは違います。・・・最後の最後まで奮闘しましょうよ。」
中島がにこやかにいう。
「奮闘・・・か。」
一騎当千・・・ってか。
1人1人が弱くても、9人もいれば大丈夫ってか・・・
9人だからこそ、強い力が出せる・・・
「一撃ヒットがダメなら連打あるのみ・・・って前に教えてくれた人がいます。」
「!」
・・・咲良が顔を上げた。
・・・こいつか、教えたの。
「連打攻撃なら、いくら頑丈な相手でもダメージが少しずつ蓄積していきます。」
「・・・」
「戦い続けることが、皆の勇気となるんですよ?」
一撃ヒットがダメなら・・・
連打あるのみ・・・か。
たしかにそうだな。
前原圭一。
お前も・・・そういってたな。
「私たちは退学覚悟済みです。それにいつ退学になるかわかりません。・・・なら、退学になるまでの間、連打攻撃を少しでもして、相手にダメージを与えませんか?」
「・・・はぁ・・・」
五月雨がため息をつく。
「まぁ、そうだな。何もしないよりは格段にマシだろう・・・な?みんな。」
そう五月雨が言う。
「・・・たしかにそうだな。」
「連打攻撃・・・か。まぁ、退屈よりはマシだろ。」
なんて皆が言い出す。
まぁ・・・せめてものやる気だしか。
「だな。それに「宣戦布告」がだされちまった以上・・・あとにはひけないだろ。」
すると足音が聞こえた。
皆の目つきがかわる。
「・・・おいでなさったか・・・」
「治安維持部」。
生徒会・・・
そんな暴力で、絆同盟は絶対にくじけない。
そうわかっているだろう・・・
わかっているのに、なぜ「治安維持部」を動かす?
生徒会本部会議室・・・
「・・・もうこの高校には一般生徒はいないだろうな?」
「確認済みです。」
「治安維持部」のリーダー。
1年にして、剣道部エース・・・
「陽炎」が言う。
「これ以上・・・生徒会の立場を危うくしてはならない!」
天王山は目を細める。
「治安維持部、全チーム、予定配置場所につきました。」
「これより、「闇討ち」を開始する。」
「布石」 完
なんか、暴力的になってきてしまいました・・・
・・・どうしましょ?(苦笑