プロローグ9
キョトンとして小さく呟く真子。
「どう?ダメかな?」
「いや、ダメと言うより学校嫌いのあなたからそんな提案が出るとは思わなかったから。」
「あてがどうあっても、これは関係ないでしょう。」
「まあね。でも・・・。」
(心配なのは詠が他の学生と上手くやっていけるかなんだけど。一人浮いたり、溶け込めなくてぼっち飯なんてなったらかわいそう。それだったら私の元に置いておけば安心・・・。)
言葉のみならず思考まで『・・・』で終わってしまい、今一つ踏ん切りがつかないでいた。
と、その時突然別の声が部屋に響く。
『詠様に学校に通っていただくのは良い案だと思います。詠様が今後この社会で生活を送られるのであればそうすべきです。学舎でご学友との交流は詠様の人間性の向上にも繋がるでしょう。マスターにしてはグッドアイデアです。」
アドの言葉を聞いてうてなは小さくそっと握り拳で親指を立ててグッドサインを送った。
(少し気になる箇所はあるけど、ナイスフォローだ。アド。)
確かにアドのアドバイスは効果的だったようである。
「そうね。詠の身体能力は元々高いし、ここで知識も向上したけど、社会性に於いてはまだまだ未熟だわ。社会に溶け込ませるには学校に通わせるのは良いかもしれないわね。」
と、すぐに真子から同意の意見を引き出すに至った。
『では、早速必要書類を作成して編入手続きを行います。学校は諸事情を考慮して本局から最も近いWOR学園神宮西が良いと考えます。寮も在りますので。』
「学校はそこでいいわ。私の娘も通っているし。同学年になるかしら?でも、寮はいらないわ。私の家から通わせるから。」
「えっ!」
うてなは思わず声を上げた。
(何考えてるの。真子は。常識でアウトでしょ。)
そこはすかさずアドがツッコミを入れた。
『来栖局長。今の発言は少々問題があります。先程、来栖局長が言われたように自宅にはお嬢様がお見えになります。来栖局長は責任上ご帰宅が遅くなるのはしばしば、時には帰宅出来ない事も有ります。その場合、所謂年頃の男女がひとつ屋根の下という俗物が妄想を掻き立てるようシチュエーションが発生する恐れがあります。まあ、俗世間で言う間違いは私が阻止しますが。」
(おい、おい。サラッととんでもない事言ってませんか、アドさん)
うてなの思いを他所に真子が返答するが、これまたとんでもない内容である。
「そう、そうよね。やっぱり他人様の目もあるし、他人の口には戸は立てられぬとも言うしね。何しろ詠が私以外といい関係になるなんて許せないわ。いいでしょう。寮生活を満喫させてあげて。」
真子は勢いに任せて決定を下す。
(おい、おい。こっちも本音ダダ漏れですか。真子さん。)
呆れながらも真子のボソッと言った一言を聞き逃さなかった。
「あーあ、ヨミくんエナジーが足りなくなるかも。」
(また、訳の分からない事言ってるし。)
『分かります。来栖局長。私もこれからは週1回送られてくる詠様の学園生活の映像を反芻してヨミさまエナジーを補給します。』
(えっ!アド、分かるの?アドも変な事言ってるし。)
2人がおかしな事を言っていると思いつつも、うてなはそれをツッコむ勇気がなかった。というか、言える雰囲気ではなかった。
「いいな。私にもそれ、ちょうだい。」
『詠様に関する全てのデータは一度三識姫が精査した後、認証されたデータのみアクセス、閲覧が可能となりますので、暫しお待ち下さい。』
「うーっ。分かったわ。三識姫が関わっているなら仕方ないわね。でも、なるべく早くお願いね。」
『了解しました。』
(何か上手く共闘組んでない?でも、詠君をWOR学園神宮西に通わせる事が出来て良かった。)
うてなの計画にとってあの学園に通わせるのは必須だった。
WOR学園神宮西は防犯と言うより監視と言うべき程到る所にカメラが設置されている。それは職員、生徒に承諾書を書かせる程に特別な場所以外はカメラに依る撮影録画が行われている。ただし、そのデータはネットワークと一切繋がっていない。週に一度データが記録されたデバイスは三識姫の元に届けられ不審要素をチェックされる。
もちろん、コピーや持ち出しは不可能である。が、うてなは与えられる詠に関するデータだけでは飽き足らず策を講じて自らの手でデータを得る為に詠をWOR学園神宮西入学を持ち掛けた。
(皆に喜んで貰えたようであても嬉しいわあ。)
と思いつつ、
(20年前の学生が20年後に再び学生となる。確かに非日常は日常で覆い隠した方が良いかもね。)
とも考えて、自嘲した。
ワールド オブ ルーム 〜二十年目の帰還者〜のプロローグは終了です。
お読みいただきありがとうございました。
まだ、ワールド オブ ルーム 〜二十年目の帰還者〜は続きます。
今度は学園物?
新たなキャラ登場。
また、よろしくお願いします。