リボンとパラレル世界
顕微鏡を覗いた俺はどうしたって凍りついてしまう、しかし、それは用意された驚きへ向けての、僅かな疑念にほかならない。それより、友人の見せたものの方が一等新鮮な驚きであり、凍りつきだった。
「これは…部屋があるね!とても不思議だよ…君は少しも驚かなかったが、それは何故だい、これが用意された現実であるかのようだったよ」
「ああ…俺は研究所に行ったんだ」
「??君の研究所に!」
「…いいや。俺はただ連れられてね?しかし、それは今から後になるんだ」
「よくわからないな?ということは、つまり君は一度その研究所へと行ったあとにタイムスリップして現在に後戻りしたってわけか…」
「ああ…信じられんがそういうことだろう?俺はそこでこの、ミクロの密室を見た。君は死体を見たかい?」
「死体…この中にあるのか?」
「ああ…振動でピントがずれたのかな」
俺はもう一度覗き込む。やはり少しピントがずれている。
「ほら、この状態で覗いてみてくれよ」
「…これは…本当だ、これは明らかに死体…しかも誰かに殺されたようだね?」
「君もだんだんと受け入れているようだから不思議だよ。きっとそのとおりでその男は誰かに殺されたんだ、よく見てくれよ、ポケットのあたりに鍵の袋が見えないか?」
「えっ…本当だ!君の袋と同じようなものが…」
「ああ、そうなんだ。信じられん話だよ。俺はパラレル世界のこのあとでそれを見たんだ。そして推論したよ、その部屋の鍵は内鍵で、そしてその鍵を開放するためにはその鍵の袋自体を使えばいいのだと…」
「…この袋は信じられないが見たとおり部屋自体でもある。いわば鍵であり部屋…君はその巨大な方の鍵で、それ自体でもある小さな方の部屋の鍵を開放すればいいと言っているのか?」
「…ああ」
「一体どうやって?」
「さあ…そこまでは結論に至らなかったが、しかし、そう思う他いい案はないような気がしないか?」
「だって…そんなこと無理に決まっているだろう…」
「それと…少し逸れるが、この鍵の袋のリボンがあるだろう?」
「リボンね…頑丈で引きちぎれないリボン…」
「ああ。所がソイツは簡単に解けてしまうのさ。ただ、それをやってしまうといけないね?」
「…何を言っているのかい?もしかしてあの、パンドラの匣の話か」
「その話は混線せずに残ってくれているようだな、ある意ほっとしたよ」
「どういうことだい?」
「このリボンがポイントさ、これを解いたがために俺は、何度かパラレル世界を跨がなきゃならなくなった」
「リボンを解いたせいで?本当かい」
「ああ…きっとそうだ。だからやらないで欲しいよ」
友人はレンズから目を離していた、そしてじっとリボンを見詰めていた…
「不思議な事が次々に起こるもんだな、君はきっとパラレル世界を跨いでいるんだろうよ、そして、君や、僕の対峙する世界を、それがために引っ掻き回している筈だ」
友人と俺はそれから話し合った。
互いの過去を隈なく照らし合わせ、そして最後にリボンを解く、それが手順だった…
「…もう掘り起こす過去は残ってなさそうだな」
「そうだね、いよいよリボンを解くときさ…」
「しかし…君が俺に引き抜かれて知り合ったなんて、やはり信じられないよ」
「僕だって同じだよ、もうそれは何度も話し合ったじゃないか。後は君が解くか僕が解くかだ」
「どっちにしたって同じだと思うがね?しかしこういうのはどうだ…君が右側を、俺が左側を持ち、同じタイミングで解くんだ、別に左右は入れ替わってもいいと思うがね」
「なるほどそれは面白い。やってみようよ」
結局俺が左を、友人が右側を…
…リボンは解かれていった……




