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あらゆる可能性の落下

 オンナは艶かしく美しかった。

 このオンナと一緒にいたい…それは私の希望となるに違いない…


「あなた…」


 オンナが呼んでいる…オンナだって私の存在は貴重に違いないだろう…


 そして私は激しくヨガり…喘いだオンナの声を思い出していた…


「オンナとは…美しい花みたいなものですね…」


 私は何から何までどうでもよかった…無論、オンナの無駄話何てなおの事……


「そして美しさは極められ…次の代に咲かせる為にその美しさで引き寄せるのです…世界のすべてを……」


 奇妙なオンナだ…何がなんだかさっぱりだった…


「美しい花…そう、植物にとっての秘部によって…」


「!」


 …私は原因不明のめまいに襲われた…ベッドに並んで座るふたりの男女……


「あなた…もう…お行きなさい」


 ぐるぐると部屋が回転している…オンナの声だけが方向の頼りだ…


「ここを出るのです!」


 オンナが私を追い出そうとしている…どうしてだろう…オンナも…私も…渇望し、飢えているであろうに……


「わたし達は同じ部屋にいることは出来ません」


 ゆったりと…

 回転が収まって私の視線は真っ直ぐにオンナの瞳に結ばれていた…


「わたしとあなたは同じ『わたし』なのですからね」


「!!」

 

 私は拒絶したかった…


「あなたが私と同じ『わたし』ですって?」


「ええ…可能性の一部です…それで同居するわけには行きませんわ…」


「知っていたので?」


「…ええ…」


「じゃあ…なぜ…?あなたは私と交わったのです!」


「……」


 オンナは切ない表情で笑っていた…


「だって…わたしだってオンナですもの…欲望には逆らえませんわ……」


「だったら私は…私は…私自身であるオンナの『わたし』と交わったと!」


「ええ…」


「あり得ない!」


「いいえ…例え誰と誰でも…」


 そう発してオンナ言い淀んでいた。


「誰と誰でも…何です?」


「……。例え、誰と誰が交わろうと同じことです…」


「何が?」


「違うものどおしに思えたとしても…それは世界と世界とが交わっているに過ぎませんわ…それって自分と自分が交わって


いるのと同じことじゃありませんか?」


「…よく解からないな…」


「世界がそうですから同じことです…わたしと…あなたが交わろうと…過ちではなくそれは自然だと思う……」


 オンナは完全に口を閉ざした…

 私はいずれにしてもここを出なければならない…しかし…どこへ行こうとも…安住の地は再び見つかることはあるのだろうか……


「あなたは言いました」


 私は口を閉ざしたオンナに話しかけた…というより…それは壁に向かって延々と話しかけるようなもので…言わば気が触れた兆候だったろう…


「世界と世界が交わっているに過ぎないと…それが世界の全てなのでしょうか…」


 オンナは壁になっている…もう私の目の前に…壁しかないとすら言える…


「それなら世界に終わりがあるのです?すべては自分自身ではありませんか!」


 私は荒げていた!

 そうでありながら、私の視線の先はひとつに定まっていた……


 私はベッドで延々と喋っている…それに併走して…私は視線の先へとカラダを移動させている…意識なのか幻想なのかそ


れとも現実が分離し始めているのだろうか…とうとう意識は分断されて…喋り続ける私はもう私ではなかった…私は移動する…視線の…その先へ……


 …それが答えだった…その答えが私には理由もなく渡されたのだ…答えには意味だけがあるのだった…


 ナイトテーブルの引き出しを引く……


 …それが答えなのであった…乳白色の粘着物を垂らしたツララが何本も垂れ下がっていた…私はもう…それを必要とはしていない…私が必要としているものは……


!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


 私は私の肩幅よりも遥かに小さいナイトテーブルの引き出しに…強引に頭の先からカラダを逆立ちにしながら押し入れていった……

 …内面世界の壁は…肉の壁となっており、弾性を持っていた…肉の壁より大きな私の全身も…少しずつ呑み込まれていくのだった……

 それは初体験であり…懐かしい感覚だった…それは産道の通過のようだった……


 狭い窮屈な穴をようやく行き過ぎて…直ぐに私はすとんと落とされてしまった!

 

 落下!


 風圧が私に押し寄せている…それはあの時…身を投げた渓底への落下に感じた以来の強い風圧だった…しかし……

 …私はようやく本当に死ぬだろう…シュレディンガーの密室世界で…死ぬことの出来ずに延々と繰り返された一日の集合体に別れを告げることが出来るはずだ…ここは目的地なのだ…あの集合体の枝葉であった数々の可能性である『わたし』にとっての唯一の脱出地点なのだ……


「死…」


 落下を続ける私の耳元に囁く声がした……

 空中で声の方へと振り向くと…同じように落下する私と交わったオンナの『わたし』に目が合った……


 その奥には…あらゆる可能性である『わたし』たちの落下する有り様が…まるで銀河系の星々ように広がっているのが絶景だった…… 

はい。観念ミステリ第三弾でした。

今回は着想も早く、だいぶ板について来たような気がします。

次もこの線を追求してみようと思います。

他のノルマが疎かですので週末頑張りたいです、来週は巨人伝説です。

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