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五年間の初日

 朝。

 剥き出しの木造の一室で目を覚ます。

 正方形の間取り、中央にあるベッドにて。


 ベッドのナイトテーブル。

 引き出しを一瞥し、私は無意識に目を逸らす。

 立方体…四方が几帳面な等間隔に並んでいた。

 窓がない代わりにいずれもドアが備え付けられている。

 ここは取り囲まれた、中央の部屋だ。

 それを知ると息が詰まり始める…

 そして樹木の芳香…


 ドアはしっかりと施錠されていて、内部からは開けられない、それを何故かしら知っているのはなぜだろう。

 ぼやけた頭で考える事はそういった取り留めのない、答えの出ない疑問であり、それ以上に眺め渡す樹木のどっしりとした色彩。


 私の思考は併走する。

 これが初めての朝であり、私は起き上がってこれから隈なく部屋を調べ始める…ナイトテーブルの引き出しを除いて。

 もうひとつ。

 私はこの一日を何度も繰り返していて、五年経つ。

 翌朝になればまるで初めてのような心地で同じ一日が始まっていく、サイクルは延々と続いていく。それは淡々と手渡され、私はそれを何度も受け入れている…すべてが当たり前のように。


 それは言うなれば生きていて死んでいるシュレディンガーの猫自体と同じ心境なのだ。

 

 結局私はこの部屋を精査していく運命にあるのだ。

 そのいちいちが不可解であり、併走して懐かしかった。

 取り囲まれた一枚一枚を…柱のひとつひとつを…

 指でなぞったりなぞった指を嗅いでみたり直接嗅いでみたり。拳をつくってコンコンと。あるいは凝視。

 じっと眺めていると、木目の個性に時間を奪われる、ここにいれば時間が貴重であるとは考えなくなる。

 それなのに好奇な眼差しでつぎつぎ眺め渡す私がいるのだ。


 一通りそれが済むと私の行動は段階を上げる。

 ベッドとナイトテーブルと電灯以外に家具はなく、私はそれ以外の間取り自体を調査するのだ。

 基本的に押したり引いたりすることが主である、それで多くは事足りるのだ。四方は全く同じ造りをしているから、目をつぶってグルグルと回ればどれがどの面であるか判らなくなるだろう。ベッドのナイトテーブルを動かさなければそうなることは無いが、しかし正確な位置関係などに取り立てて意味はない。


 部屋中にはありとあらゆる小道具が隠され施されている。板目と板目の隙間から細い糸が現れた、美しい糸であったがそれがどうしたというのだろう?

 それでも私は初めてのように驚くのだ。

 きっと、五年間の毎日で、欠かさず取り続けたリアクションではないだろうか?飽きもせず、むしろそれは日に日に洗練を遂げて行ったに違いないことだ。

 

 探せば探すだけ、探れば探るだけ…この部屋には数え切れない仕掛けが埋蔵されてあるに違いないだろう。

 しかし、私は余り行き過ぎる事はなかった。

 本能がそうしていると思われる、本能?私は疑問に思う。ひょっとすればそれは経験の記憶の顕われなのかもしれない。


 何度も同じ失敗を繰り返し、蓄積された結果に、無意識によるなんらかの忌避が生まれるのだ。

 私は一日の終わりにベッドに戻って、翌朝すべてはリセットされてまた新たな一日が始まっていくのだろう。

 ひょっとすると、私の失敗は、そのリセットを即座に要求するものなのかもしれない。つまり仕掛けによって私は死ぬのであり、一日の中途半端な時間でその短い人生は遮断されてしまうのだ!

 下手をすると本能に逆らって毎日が半ばで、リセットされ続けているのかもしれないし。


 つまりがすべては五年間の集積であるし、初日だった。

 五年間の日々が、初体験されて、懐かしいのだ。 

 その記憶の感覚だけが確かにあった。 

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