霊と肉
水先案内人、ディノの熱中するモニタを一瞥し…
「ディノさんは成果があったのでしょうかね?それと、和尚、あなたの推理も聞いてみたいものですが…?」
「う~む…ワタシの意見は…」
和尚が語り始める…
「う~む…ワタシの意見は…」
耳を傾ける一同。
「禅は個に宿ると申しました」
「……」
「矛盾するようですが、諸行無常とは全体を個に反映させる思想であり、一見すると個を宇宙へと反映させる禅の思想の対局にあるようです」
「……」
「しかし、それらは同じルーツに派生しています。よって、背中合わせではあるが同じ精神であると言える」
「……」
「ワタシは自然であれ鉱物であれ…皆、生命であると思うし、それらの目的や思想は似通っています」
「……」
「つまり生きるためには他を殺生しそれに生かされる…」
「!」
「それは生命の世界のルールであるようだけれども、実はもっと大きく、宇宙全体の仕組みです。星や…もっと…銀河や…宇宙の最大規模に至るまで…」
「……」
「死は生の足掛かりでありそれは永遠に連鎖して…ひとつのシンプルな構造へと還元してしまう…」
「……」
「それがこの世の全てです。ワタシは、ここに閉ざされた人々以上に…この建造物全体に…ひとつの魂を見た」
「!」
畠はその瞬間に和尚を凝視した。
「ひとつの魂であり意識であり思想を…」
「さすがは和尚です、感服します」
畠がいう。
「そうでしたか。しかしワタシは直観に任せてお話しするばかりですよ」
ふぅ~、一同溜息。
「そこに繋がれた人々はひとつの生命を建造物とした場合、その器官となる…極端な話になりますがね…」
「いいえ…シンプルで美しいと思いますね」
「畠さんは、和尚に同意されているのですね」
と水先案内人。
「ええ。今のところは」
「そうですか。次をお話します。宗教には肉体と精神があります。どの宗教も、共通認識があって…」
「……」
「やはり、霊が肉に上位する…これは万国共通の認識であり真理です。それに到達するため、宗教家や信者たちは日々、生活を送っている…宗教と一致した…それぞれの生活を…」
「……」
「ここでいうのは、少し飛躍的であり、宗教家が率先して述べるべきではないのかもしれませんが…」
「??」
「あえて断言しましょう!この建造物、つまりひとつの生命体は、霊なる高次の段階へ向けて、ついに思想を持った!」
「!」
「それどころか、その思想は究極に向かっていき、遂に解脱したのではないか!それがワタシの結論!」
「!!」
「霊は涅槃を過ぎ…永遠不滅の世界へと飛び去っていきます…」
一同息を飲む。
「そして肉は…やがて朽ちて…土へと…つまりは宇宙へと還元するのです……」
「……」
「ここでいう肉は、かつての人々であり死体ですね…つまり、この建造物は、人々という肉を通り越して、遂に精神世界へと突き抜けたのだ、というのがワタシの意見です」
「!!!!!」
「和尚!とても面白い…同意いたしますよ…」
「畠さん!和尚の推理に全面降伏ですか?」
「いえ…案内人!」
和尚が畠を見詰める。
「その精神には感服しました。しかし、ここは現実世界、その点においては、私はやはりまだディノさんに軍配があると言わざるを得ない……」
和尚が遠い目をしている……
「では畠さん、ディノさんの進展が悪ければどうなのでしょうか…」
水先案内人は、皆が発揮しうる口撃のデッドヒートに調子づいた!
そして矛先は久しぶりにディノへと振られる……
「ところでディノさん?進展はありましたか…?」
「……」
ディノ、無言。
「……」
一同、沈黙。
「……」
この予想外のリアクションに、調子を上げていた水先案内人さえも、調子を狂わさずには置けなかった。
…すると…
「ええ…」
ディノ、開口。
「皆さん、お待ちどうさまです……」
「!!!」
「先程からとうとう発見していたところです。しかし、これがなんであるのか、という推理には至っていません…よろしければ、皆さんの知恵をお貸しください……」
皆の表情に緊張感が走っている…
水先案内人は、不敵な笑みをひた隠しにしていた……




