3年生・2
書き出しはだんな様、奥様。形から入った時候の挨拶。形式的なご機嫌伺い。学業の進捗の報告。次の冬の長休みにも友人の実家にお邪魔することの報告。またお決まりの気遣いの言葉から、結びの挨拶と日付。
丁寧に署名をしてから、たった一枚の便せんに収まってしまった文面を、リベカは不服顔で読み返した。
学費を出してくれている祖父母へ宛てた月に一度の手紙はすっかり定型化してしまい、まるで報告書だ。家族らしいやり取りの糸口になりそうな、数少ない肉親である祖父母を気遣う孫娘らしく思ってもらえそうな話題を頭の中で探すのだが、やみくもに掴み取ろうとしたそれらは全て、形を取らずに消えていく。
そもそも祖父母を気遣う心優しい孫娘は、長期休暇の帰省を避けて友人宅に逃げ込んだりはしない。
リベカは引き取られてから学校の寮に入るまでの一年ほどで見慣れた祖父母の顔を思い浮かべる。見慣れるほどには毎日顔を合わせた。どんな日でも、毎日。
リベカの育った田舎ではまずお目にかかれない上品な居住まいの老婦人は、曖昧な微笑みを形作る寸前といった戸惑ったような表情を浮かべていた。厳格そうな老紳士は眉を顰めて唇を引き結びリベカを見下ろしていた。双方とも笑顔を向けあったことはない。
それでも、十分な配慮と費用をかけて世話をしてくれた。日々の多くの時間を家庭教師と過ごすことになったが、ほったらかしにされていたわけではなく、顔を合わせれば戸惑いがちに何かしら声をかけてくれた。庶子で庶民育ちの孫娘を、体裁だけ重んじて引き取ったのでも、軽んじているわけでもないのだろう。
祖母の名前で届く少ない手紙からは、気難しい時期に引き取るまで会った事もなかった孫娘との距離を計りかねている様子が見て取れる。
リベカの対応も不慣れな環境の中、自分の殻に閉じこもり、ぎごちなかった。今ならもう少し打ち解ける努力ができるような気がする。
友人に相談して「素直な気持ちと知ってほしい出来事を書けばいいのよ」と助言を頂戴したものの、どうやらリベカは素直な気持ちというものを見失っているようなのだ。
祖父母におじい様、おばあ様と、手紙の文面でも呼びかけたことがないのだと打ち明ければ、滅多なことでは動じない友人を束の間絶句させるということに成功した。
「まずはそこからよ! お二人とも、お叱りになどならないわ」
言っては何だがコルネイユ家は地位も領地も財産も十把一絡げの凡百貴族家で、さしたる問題を起こしたこともなければ何かを張り合うような政敵もなく、身分違いの恋人と駆け落ちした息子一家の消息を握っておく価値があるほどの家ではない。世間体を憚るだけであるならば、息子は行方知れずのまま知らぬ存ぜぬを決めこめばよかったのだ。
もしリベカが成人して村の若者の誰かと結婚してでもいれば、あえて新しい家庭に波風を立ててまで手元に引き取ろうとすることもなかっただろう。保護者を失った幼い孫娘への責任を果たそうとする誠意があるからこそ、リベカは今王都で生命の不安のない生活を送ることができている。祖父母は決して情のない人々ではないはずだ。
友人は言葉を選びつつ婉曲にそれらを指摘し、リベカの心情の整理を手伝ってくれた。
その励ましあって、リベカは新しい便箋のだんな様・奥様と書いてきた書き出し箇所におじい様・おばあ様と記入するために多大なためらいと克己心を動員して、いつもより拙い字体でその二言を書き、その下に手紙の文面を書き写す。文中に祖父母への呼びかけはないため、そちらはすらすらと完了した。
いつも実家への手紙を楽しそうに書き上げる友人がペンを走らせる軽やかさを思い出して、ため息を吐いた。
そんな友人は最近、自分の実家の兄とジリアンの実家に連なる誰かとの調整役を務めているらしく、時々自分のものではない手紙をジリアンに渡したり受け取ったりしている。
その度に憂鬱そうだったり情けなさそうな顔をしていたりぷりぷり怒っていたりするので、どうにも不穏な気配を感じるが、リベカがそれについて知る機会は、今のところ巡ってきてはいない。
ある秋の休日を控えた放課後、帰り支度をしていたアンジェリンにジリアンが話しかけた。遠くの空の色の目が熱を孕んで期待に輝いている。
「フェルビースト、明日、一緒に行かないか?」
「ええ、ぜひご一緒いたしましょう。目玉はゾルビーとドルジェビアスの対戦ですけれど、ケアリーとフロリオの対戦も注目ですわ。先週の試合には行けませんでしたが、新聞を読む限り、戦績は抜きつ抜かれつの緊迫の様相を呈していましてよ」
自信ありげな表情に涼やかな流し目――傍からは高慢ちきな見下し顔と言われることもある――をくれながら熱心な紹介口調で告げるには噛み合わない内容だ。
アンジェリンが恐らく学園一の闘技ファンであることは、今や学級中に知れ渡っている。常日頃どの剣闘士が素敵だあの剣闘士がどんなふうに強いといった事を熱く語り倒しているので、最近は興味を持つ学生も現れ始めたとかなんとか。
例えば、教室の一角から、友人とおしゃべりに興じながらも、ちらとこちらを横目で見ている女学生がいる。班組している時にジリアンやブラムに見惚れている女子がいたり、リベカやアンジェリンが妬ましそうに見られることはままあるが、闘技場の話を始めた途端にこちらを気にし始めたあの女子はその例には当てはまるまい。清楚な雰囲気のご令嬢なのに、こんなことに興味を持たせてしまっていいのだろうか。
「ゾルビーとドルジェビアスはただの力比べになりそうで面白くないな。ケアリーとフロリオの方が見応えがありそうだ」
「フロリオが相手では、期待の新人ケアリーでも厳しいかもしれませんね。さすがに年期が違います」
あるいは、ここで真面目な顔をしてこんなことを言い合っているジリアンとブラムとか。
ジリアンはアンジェリンとの話題作りのためにか、時々休日で都合が合えば一緒に観戦に行って、それなりに詳しくなってきたようだ。毎月28日の特別試合が休日なら必ず闘技場に足を運んでいるアンジェリンに向けて、前置きなしに一緒に行かないかという一言で話が通じるくらいには。
リベカなんて友人の口からしょっちゅう聞かされている剣闘士の名前さえ、ロクに覚えられないというのに。花の女学生が新聞片手に黄色い歓声を送る相手が、そんなのでいいのかしらという友人への疑念は変わらない。
「折角ですので、次の社会科の施設見学のレポートの題材をこれにしてしまおうかと思っていますの。趣味と実益を兼ねた社会学習になり、有効な時間の使い方ができますでしょう?」
「ああ、それはいいな」
「同意します」
さすが親友、抜かりがない。
リベカは感心すると同時に、そういえば自分はこの施設レポートをどこにしようかと、限られた課題提出期限までの時間の使い方を模索した。個人的にはかわいい雑貨を置いている小さいお店やあまり繁盛していないちょっとうらぶれた風情の駄菓子屋さんなどが好みなのだが、紙面を埋められるほどの情報を発見できるかどうか自信がないし、なんとかレポート作成したらしたで、さすが平民階級は目の付けどころがみみっちいとかなんとか言われそうではある。
束の間心を漂泊させたリベカは、慣れてきた手袋越しの温かい感触に手を握られて我に返る。
「折角の機会なんだから、リベカも一緒に行きましょうよ。いつもはただのあたくしの趣味だけれど、今回はあなたにも利があってよ?」
友人が長いまつげに縁取られた焦げ茶色の目をぱちぱちと瞬かせて彼女を覗き込んでいた。時折閃く橙色の火花がきれいだ。リベカの掌を両手で包み込んで引き寄せ、至近距離から愛らしく見上げてくる。
迫られているのはあくまで見慣れている同性の自分なので、折角の愛嬌も大した意味を持たないことをリベカはよく知っている。だから誰とは言わないが、そんな羨ましそうな顔で見ないでほしい。
「何度も説明してきたように、あなたが心配しているような、旧時代風の野蛮な娯楽ではないのよ。儀式としての意味を備えていたのも昔のことだわ。今は完全にスポーツの一種になっていて、お忍びで観戦にいらっしゃる貴婦人も珍しくないし、王都の闘技場ではそういう貴賓客を当て込んだ出し物などもあるから、ヴォジュラよりずっと女性や子供向けだと思うわ。それについての感想をまとめればいいだけなのだし、簡単ではなくて?」
小さい子供なら指でも咥えそうな物欲しげな目つきで、長々とかきくどくアンジェリンは、たぶん心から同性の同士が欲しいのだろう。
それに対するリベカも、寛容に誘いに乗る心境になったことは今のところないくらいに、この話題に興味がない。鏡で見たことはないが、自覚した範囲での顔の筋肉の動きやら冷えた語尾やらを思い返すに、顔にも口調にものっぺりとしたその気持ちが表れていることだろう。
「その感想を捻り出すのも、あなたと私では難易度が違いすぎるのよ。主に対象への興味の深さの差で」
「一生には興味もないことにさも興味ありげに臨む演技力を問われる時が来るものよ」
「そんな正論を大真面目に語るべき時が今なの?」
「世の中に出れば嫌でも取り組まねばならないことに数多く直面することになる。今からできないと言って避けていては、社会で機能する大人にはなれないぞ」
口を挟んできたジリアンの言は全くの正論で、ぐうの音も出ない。
小さな雑貨屋さんや駄菓子屋さんと国営の闘技場では運営規模が違いすぎるので、経済へ与える影響力も大きい闘技場の方が紙面は埋めやすいかもしれない。それならできないこともない。そもそも興味はないが嫌いというわけでもないし、ムキになって抵抗を続けるのも大人げないのではないか。そう己に言い聞かせて、リベカは了承した。
「フェルビーストさん、コルネイユさん、今お話しさせていただいてもよろしくて?」
で、その日の夕刻、寮の入口で一人の女子に捕まった。彼女は人待ち顔で寮の入口前で物陰に立ち尽くしていたが、連れ立って寮に戻ってきたアンジェリンとリベカを見るなり、優雅さを損なわないぎりぎりの速さで足早に近づいてきた。
心持ち声を潜める彼女は、学年で最も有名な女学生だった。一般教養やお作法といった座学で成績の首位をアンジェリンと争い、家格もジリアンに引けを取らない王都で屈指の高位にあたる。そして何より、彼女を有名にしているのはその美貌。まっすぐな美しい黒髪に縁どられた小作りな白い顔の中で、緑にも青にも見える宝石のような瞳はぱっちりと大きく、長く美しくカールした睫毛に縁どられている。女性として理想的な肉付きの体形はなよやかでいながら色香よりも気品を醸し出す。身ごなしはしとやかで立ち姿はすらりと優美。学年一の美少女と名高いデュアー家のご令嬢の声をこれほど間近で聞くのは、リベカにとって初めての体験となる。
リベカの認識では、先程教室内でこちらを気にしていたご令嬢は彼女の取り巻きの一人だった。その令嬢から何か聞き捨てならないことでも聞かされてやって来たのだろうか。取り巻きを一人も連れていないのは向こうも余程の覚悟であろうとリベカは思った。なにしろ、一目見て明らかなほど思い詰めた顔をしている。
「なんでしょう」とアンジェリンが答えると、彼女は歯切れ悪く、時間をかけて切り出した。
「フェルビーストさんは、闘技場が発行している新聞を購読なさっていると……」
「ええ。入学してより毎週欠かさず取り寄せて、保管していますわ」
アンジェリンのゆったりとした話しぶりに促されてか、デュアー令嬢は、束の間ためらいを見せた後、いかにも思い切ったという風に一息に言い切った。
「そ、それを、わたくしにも見せていただけないかしら……!」
「よろしくてよ」
理由も聞かずに即答したアンジェリンは、常にない種類の勇気を振り絞ったと思われるデュアー令嬢を、慈しみさえ窺える眼差しで見守る。
たぶんそれでよかったのだろう。デュアー嬢にかくも思い詰めた顔をさせている原因がどんな理由であれ、彼女は肩透かしをくったような無防備な表情を一瞬だけし、次いで花がほころぶように笑った。それを見たリベカが、今日はとてもいいことをしたと満足して眠れそうだと思ってしまうくらいに、嬉しそうな、透明な笑顔だったのだ。
「それにしても意外だわ」
デュアー嬢がアンジェリンがいくつか見繕った新聞で膨れ上がった袋を抱きしめて嬉しそうに帰っていった――彼女は王都内の自邸から通学している――後、リベカは率直に述べた。
「普段あんなに熱心に私を同好の士に引き込もうとするアンジーのことだもの、闘技観戦に興味ありそうな女の子が現れれば大喜びしそうなものだけど」
「そりゃ、あたくしだって本音は言いたかったわよ。『あたくしたち、明日には闘技場に観戦に参りますの。もしよろしければ、ご一緒にいかが?』って。でも、デュアーさんはお困りになるでしょうから。彼女にとっては、今日のお申し出だけでせいいっぱいだったみたいだし」
肩を竦めながら言うアンジェリンはさして残念そうでなく、冷静だった。
「リベカはその点、あたくしと一緒にお出かけしたって困らないでしょ?」
「そりゃあね」
リベカは苦笑した。
変わり者で知られるアンジェリンのすることだからと黙認されている節があるが、貴族女性の闘技場通いというものはおおむね、はしたないことと見做されている。アンジェリンの言ったように闘技観戦者の中に貴族女性は皆無ではないにしろ、彼女たちのそれはあくまでお忍びなのだ。
典型的な中央の貴族令嬢として評判のデュアー嬢がそんなことをすれば、家族に令嬢らしくないと咎められたり、周りの人々に奇異な目で見られたり、彼女は突然どうしたんだと心配をかけたり、誰ぞに唆されて非行の道に走ったのではと他人に累を及ぼす心配もする羽目になるだろう。
アンジェリンはその辺りも踏まえた友人選びをしているのだと、リベカは友人の冷徹さに呆れる思いだった。お互いに都合のいいところを最大限利用し合う友人関係は、だからこそ遠慮がいらない。リベカはそんな関係を割と気に入っているし、友人の保身と結びついた嗅覚は見習いたいものだと思う。
で、当日。いつもの5人で闘技場に向かった。
学校までジリアンが馬車で迎えに来てくれ、晴れた休日の大通りを見物しながらのゆるりとした道のりだ。
リベカは窓から見える大通りの観察に、しばし夢中になった。
王都は緑豊かな平原部を北から貫く大河ユーレイの穏やかな波光を見下ろす人工の高台に聳え立つ王城を中心として放射状に広がっている。白を基調とした明るい色合いの石材と煉瓦で整えられた街並みは、晴れた日の光を受けて輝くよう。
馬車が5台以上も並走できそうな幅の道は歩道を含め石畳できれいに舗装され、サヴィア家の馬車の仕立てもよいのだろう、揺れが少ない。
王城から伸びる目抜き通りは東西南北に四本、街の外までまっすぐに続いており、それも目を射るほどに白く輝いて日を照り返すことから、光の道などと大層に称されることもある。大通り沿いには各種役場や大型の商業施設、老舗の高級品店などで、衛兵が入口に立っている建築物も多かった。大きな通りと交わる地点は緑地を多く取った公園になっている。リベカが暮らしている王立高等学校は東目抜き通りの中央寄りに位置している。
大小様々な通りが大通り間を連結し合い交通の便を図っている。細かな道に区切られた小区画毎に汚物を集める貯水槽が地下に埋め込まれており、それを定期的に回収または浄化することで街の景観と衛生は守られているという。
洗練された形の街灯や手入れの行き届いた街路樹の花壇や、やわらかい色合いの煉瓦と石材、木材が調和した立派な佇まいの店が並び、それらも色とりどりの垂れ幕やヴォジュラ領では高級品だという硝子の展示窓など客寄せの工夫が窺える。食事や衣料品などの生活必需品の店舗は大きく華々しい店構え、書籍に霊薬といった嗜好品を取り扱う店も格調高い。リベカは普段学園内の敷地に籠りほとんど外出することがないだけに、道端に商品を並べた露店や屋台すらも垢抜けて魅力的だった。
大通りから一つ別の通りへ入ったところにあるという闘技場へ向かう西目抜き通り沿いからは、組合王都支部や宿場街も近いことから、簡素な武装をした旅人も目につく。行きかう人々は国中から集まった統一性のない外見で、ヴォジュラで見かけたような毛皮の縁取りの外套を暑苦しそうな赤ら顔で小脇に抱えた大柄な北方領の人や、リベカの目に懐かしい前合わせの重ね着にサンダル履きの東方領の人々もいる。人々の多彩さも目を楽しませてくれた。
しかしアンジェリンの故郷のように人間以外の種族の姿は見当たらない。
ヴォジュラでのように舞台を取り巻くすり鉢状の傾斜があるだけのほとんど野外施設だった闘技場と比べ、王都闘技場には、一部の観客向けにだが、風雨を凌ぐ天井と壁があった。上の階層の内壁に沿ってせり出した露台の個室の一つに彼女らは収まった。
四方の壁のうち、吹き抜けになっている桟敷状の舞台を臨む壁面のみ人の腰の高さまでしかなく、舞台を挟んで反対側の壁面の露台がこちらから見えるように、向こう側の露台からも丸見えなので、人力で自由に位置を調節できる大きさの衝立も数種類用意されていた。天井の上には露台が更に続いている。
ヴォジュリスティほど無駄がなく殺伐としてはいないが、リベカにとっては十分に厳めしく映る何もかも大きな吹き抜けの建物の随所に、剣だの槍だのとげとげの付いた球だの怪物の像だので飾り立てられた調度品、錆だか埃だか人体から生成された饐えた何やらともつかない臭い。臭いの方は一階を離れ階段を上ると和らいだが、いい気分のするところではないとリベカは思った。
少年少女のみで構成された見るからに裕福そうな観客というのは、どうしたところで無関係の観客の興味を煽るもので、一般客よりも高い観戦料金を払った客のみが通れる個室席への階段を上ることで追ってきた不躾な視線を遮断されて、リベカは密やかに詰めていた息をほっと吐き出したものだ。
「あたくしは一般席で構わないのだけれど、王都では安全と品位の観点からこうするのが無難だそうなの」
「他に女性がいなくても、習慣ということで、呑んでもらっている」
アンジェリンがリベカにそう囁いて肩を竦め、耳ざとく聞きつけたジリアンが習慣という一語に様々な意味を込めて言う。
「もっと上の階層には、もっと充実した個室があるのだが、学生の余暇で楽しむ分にはそこまでは贅沢だということで意見が一致したんだ。実際観戦するだけなら充分だから、コルネイユ嬢には不便かもしれないが、今日はこれでご容赦いただきたい」
「お気遣いありがとう存じます。とても快適に過ごさせていただいております」
リベカは恐縮する。ジリアンは機嫌よさそうに頷いた。彼の金髪は、今いるところのような影にいると、一際まばゆくきらめいて見える。以前よりも顔の輪郭が鋭角的になって、同じ機嫌の良い時の顔でもかわいらしさより男らしさが増している。
リベカはジリアン達が、高すぎず安すぎない席を取ってくれたことにも感謝した。アンジェリンと口論することなく自制を促してくれるジリアンの経済感覚はありがたい。
「ここではサヴィア様が正しいわ、アンジー。王立高等学校の貴族学生がこんなところをうろうろしていては問題しか呼び込まないでしょうから、適切な住み分けは必要だもの」
「王都ではそんなに問題が多いのかしら? あなたの言うところの、身分や経済の格差というもの?」
「問題の根っこがそこであるのは違いないでしょうけれど、大抵は問題を起こす側にとって利があるからよ。お金とか、醜聞とかね。王都ではじゃなくて、ヴォジュリスティの闘技場には、あなたは一般席といってもお家の方と一緒に行くでしょう。ヴォジュリスティでも、あなたが本当に一人きりで行ったりすれば、カーモがギョギョネ背負って『私を捕まえてごらんなさい』って触れて回るようなものよ? 間違いないから」
「あたくし、そこまで無防備ではないつもりだけれど……でも、そうね。あたくしが一人で出かけようとする度に、家の者が供を付けろと口を酸っぱくして言っていたわ。彼らの仕事の落ち度になってはいけないし、家族に迷惑をかけたくもないから、言いつけを破ったことはないけれど」
「それでいいのよ」
ふんぞり返って友人を見下ろすリベカの様子は、お姉さんぶりたいおしゃまな女の子といったふうだった。賢明にも誰も口には出さなかったが。
「なんでそんなえらそーなんだか」
外側から見えないように配置した衝立の陰の椅子に着くなり靴を放り出したエイジアが、灰色の脚を組みつつ言った。彼の素行について誰も何も言わない。彼らは、裸足をこよなく愛するエイジアが個室だから見せる行儀の悪さを、自分たちへの信用の表れと認識している。
リベカは心もち眉を吊り上げて、エイジアに言い返していた。機嫌を損ねても口論だけで済む相手だと理解してから、遠慮の衣の重ね着の枚数は着実に減りつつある。
「友達として、相互理解に行き着くまで話しただけじゃない」
「うん、わかるよ。ブラムもみんなの前では猫を被っているしね」
金色の頭が少し揺れているジリアンは、多分笑いを噛み殺している。
「お立場をご理解いただけませんと、業務に支障が出ますので」
ジリアンの後ろで真っ直ぐ立っているブラムはしれっと答えたが、逸らした目の下が赤い。忠実で卒のない仕事ぶりの従者を気取っている彼にとっては気まずいようだ。とはいえ、陰で主の脛を蹴るさまを目撃したことがあるリベカにしてみれば、気の置けぬ仲でご結構なことで、としか感想がない。
「やるじゃねえか。澄ました顔して黙ってばっかで、つまんねえ奴だと思ってたぜ」
エイジアは椅子の背に付いた肘にこめかみを乗せて斜めに傾いだ顔でにやにやしながらブラムを見上げ、リベカはうんうんと頷いた。
「わかりますわ、バスティード様。その辺りの価値観が乖離しすぎていると、今よりずっと無理をして付き合っていかなければなりませんもの。それは友人ではなく取り巻きというのですわ」
学生生活の中でそれなりに付き合いのある彼らが、比較的自分に近い経済感覚を持っていることを彼女は心から感謝している。学校の中には全く噛み合わない者もいるから、なおさら彼らのような存在がありがたいのだ。身分差がある場合にその傾向は顕著だった。
相手は格下の者が無理に合わせていることには気づいても、なぜなのかは恐らく理解できない。理解しようと努めてくれたとしても、理解できないことが多いのだ。生来の境遇に見合った価値観というものは、それほど覆し難い。
「だからあたくしに遠慮しないでくれるのよね」
喜び方はともかくアンジェリンが嬉しそうにしているのは、リベカとしてもまんざらでもないが、両者が価値観を共有できているとは言い難い。アンジェリンは闘技観戦がお金のかかる娯楽だということを理解し切っていないか、あるいは割り切っているのだろうから。
闘技場とは自分で働いて余暇にかけるお金を稼いでいる大人が非日常の興奮の中で憂さを晴らしに行くもので、未成年の身でそこにいる者は経済的に恵まれているか、対価を得るために剣闘士としている者だけだ。
まあ、ごく稀に、腕試しをしたいという理由で舞台に上がりたがる変わり者も存在するが。
今、彼女たちの前で舞台に上がってきた若者は、そのどちらかに違いない。
リベカの目は、その若い剣闘士に吸い寄せられた。
顔の上部は被り物の目庇で隠されているが、その下部から覗く熟したリブルの実のような灰がかった黄色の肌。弧を描く口元と顎の輪郭。寮の学習室で足音を立てずに歩く、踵が浮いた足運び。リベカはその人の立ち居振る舞いに見覚えがあった。
今年5年生の、バージル・ヘクト先輩ではなかろうか。
(去年の実習の時には、弓を携えていらしたけれど……)
今日構えているのは、一般的な長剣だ。あの先輩、リベカが思っていたより多才だ。いや、本当にヘクト先輩ならだが。別人だとしたら、随分と似ている。
リベカが何度も首を捻っていると、アンジェリンが小さな声で解説してくれた。
「リベカ、あの方が気になるの? 彼がケアリーよ。二年前から彗星の如くこの王都闘技場に現れた、新進気鋭の若手ね。あの若さと洗練された動作から、剣闘士界の貴公子と呼ばれていて、ご婦人からの人気が高いの」
「へえ……」
確かに、今日一日でリベカが見ただけでも、むくつけき中年男性が大半を占めるであろうこの業界では、彼の存在は異彩を放っている。女性受け的な意味で。
「謎の多い人なの。あの通り正体は不明、今、様々な方面が引き抜きを狙っているという噂なのだけれど、いずこも成功したという話は聞かないの。どうやら闘技場側でも彼に便宜を図っているようね」
あの人がヘクト先輩だとして、先輩には先輩なりの理由があるのだろうが、詮索したいとは思わない。
つくづく、世の中には自分の尺度では測れない人がたくさんいるものだ。
剣闘士ケアリーの試合は、脂の乗った剣闘士フロリオ相手に若いケアリーが善戦するも惜敗という形に終わり、観客を大いに楽しませた。リベカには彼らの戦いの凄さや良し悪しはわからなかったが、剣闘士勢の中でケアリーは一際すらりとして優雅に見え、女性ファンが多くいるのも納得した。
改めてよく観察すれば、舞台をよく見下ろせる上階の個室の手すりの向こうには、ちらほらと人影が見える。カーテンが引かれ衝立を並べた隙間から観戦している人物の存在も窺え、裕福な人々の中に剣闘試合観戦が好きな者は確かにそれなりにいるようだった。
リベカが予てより心配していた、血がしぶいたり一方的な暴力行為に発展したりといった凄惨な光景にならぬよう、闘技場の方で配慮もしているらしい。もっとも、それは女性客の誘致にも力を入れている表の番組でのことだと、アンジェリンがさらりと呟いた時にはどうしようかと思い、ここは自分が触れるには重すぎると判断して聞かなかったことにした。
その後も続く試合を歓声を上げて見守る友人たちを後から眺めつつ、リベカはレポートのための覚え書きを黙々と増やしていった。先程友人たちとの会話で感じたことを、元平民ならではの切り口からまとめてみようと思っていた。
ブラムも主人の許しを得て時々手帳に何やら書きつけていたが、時を知らせる鐘の音が響くと、おもむろに口を開いた。顔を上げる動きに合わせて硬質な艶の黒髪が小さく揺れ、その影から浮き上がるように露わになった青い目が日の下に取り出された宝石のように光を弾いた。ジリアンのものより、濃い青だ。
「ジリアン様、お飲物などお持ちいたしましょうか」
「ああ、そうだね。僕はいつものを頼むよ。みんなはどうだい?」
「ありがとう存じます。お茶をいただきます。舎利別をつけてくださいな。リベカは何にする?」
慣れた様子でジリアンが応じ、アンジェリンもこれまた慣れた調子で答えた。
「誰の払いなんだ? 後で法外な料金請求されたりするんじゃなければ、水くれるか」
エイジアがかったるそうに訊いたので、リベカもこくこくと頷く。
「僕に決まっているじゃないか。当然のことだから、気にしないでくつろいでくれ。この施設でどういったサービスをしているか知るのも、レポート作成の一助になるだろうしね」
さも当然のように声を上げるジリアンの鷹揚さに甘えることにし、リベカは先程までの自分の考えに修正を加えた。太っ腹な経済感覚をお持ちの方々が維持に腐心する体面も、時には権威や人徳という形を取って驚くべき威力を発揮することもあるということを。
「わたくしもお手伝いをいたしましょう」
リベカはローナ先輩の人当たりの良い微笑みを思い出しながら、立ち上がろうとした。
「お気遣いいただきありがとうございます、コルネイユ嬢。お気持ちだけで充分です。自分の役目でもあり修業でもありますので、どうぞそのままで」
「あら、それならわたくしもですわ。わたくし、将来は侍女か女官を目指しておりますの。これも絶好の修業の機会ですわ」
リベカの希望進路を始めて聞いた男子勢は「へえ」という顔をし、ブラムはそういうことでしたら、と謝絶を撤回し、二人は一緒に個室を出た。
「バスティード様の修行と仰るのは、サヴィア様の部下としての、ですの?」
「そのとおりです。執事というほどのものではありませんが、あるじの様々な補佐を務められるようにならねばなりません。ジリアン様はいずれ役職にもよりますが副官や護衛をお持ちになります。呼び方は色々とあるものの、サヴィア家ではそれを一人で賄える目付役を、歳の近い縁戚の子息から選んで任せることになっているのです」
「バスティード様とサヴィア様は御親戚なんですの? 不勉強なもので、存じ上げませんでしたわ」
リベカは自分の声を聞いて、言わなくてよかったことが口を衝いたと気付いた。貴族名鑑の網羅は教養の一つだが、彼女はその成績は芳しくないのだ。恥じ入って言葉が尻すぼみになる。今までなら黙っているようなことなのに、出先で浮かれているのか、いつもより自分の口が軽くなっていると今更ながら感じたのだ。
「サヴィア家は王国成立以前より、王家側仕えの筆頭武官を歴任して参られたお家柄、家臣にも武官が多かったのです。我がバスティード家の祖先も元々はサヴィア家に仕える無名の一兵士でした。たまたま戦の種に事欠かない時代に勲功を多く得て貴族位にまで取り立てられた者がここまで続いてきたというだけで、歴史は浅い方なのですよ」
歴史が浅い、という一言に、気苦労めいた含みを感じたリベカは、思わず出かかっていた武勲を称える言葉を引っ込めた。彼がそんなおべっかを求めていないことがわかってしまったので、代わりに当たり障りのない感想を漏らしてしまう。
「中央の大貴族ともなりますと、大変ですのねえ……」
リベカの家は取り立てて特徴のない小貴族だ。何もないというのは、悪いこともないということで、むしろそれがいいことではないかという気がしてくる。
「サヴィア家の嫡男ではない男子がバスティード家の娘と婚姻して家に入られたり、歴代当主とサヴィア家の姫が何度か娶されていますから、今は親戚筋の中でも有力でして。私の父方の祖母もジリアン様の大叔母にあたる方です。その分、分家間の勢力争いからも無縁ではいられません。私のような腕っぷししか取り柄のない者にとっては過ごしづらい時勢です」
小声で話しながら――最後の方はブラムの愚痴をただ聞くだけになっていたが――個室の扉の連なる廊下を突き当たりまで歩いて行くと、複数の飲み物と食器の載った棚が据え付けられ給仕を担当する係員が待機している場所が設えられていた。
ブラムが慣れた様子で注文を告げ、飲み物を用意してもらう。何やら伝票のやり取りを交わすだけで、支払いについてはそれで終わりのようだった。考えてみれば、闘技場に入場した時にも、ブラムが窓口役を請け負って二言三言交わしただけで、お金のやり取りはなかった。後でまとめてサヴィア家に請求書が届くのだろう。
ブラムは係員の同行と給仕を断り、用意された品々を載せた台車を押して引き返し始める。
この間、リベカは見学だけで、特にすることもなかった。だが、いずれ働くことになればこういったやり取りは自分もすることになるのだから無駄にはなるまいと、目を皿のようにしてブラムの一挙手一投足を見守り心の手帳に書き付けた。
「コルネイユ嬢は、侍女か女官を目指していらっしゃるということですが、目標は王宮ですか」
「就職そのものが目標ですので、王都にも職種にもこだわりはございませんの。ただ、コルネイユの家の当主が認める範囲内の仕事を見つけたいと思っております」
つまり、早くお見合い結婚をしろと言われる隙のない、箔が付く良い職場をだ。リベカが勤めを認めてもらえそうな一番の進路が王宮勤めだろうという打算の成り行きだ。そのためには学業成績をもっと伸ばさねばならない。生活態度は真面目だけが取り柄なので、あとはとにかく成績なのだった。
「よいお勤め先が見つかるとよろしいですね。私もジリアン様も、ゆくゆくは王宮騎士団に迎えられることになると思います。コルネイユ嬢が王宮にお勤めになれば、シェイファー言うところの『腐れ縁』の続行となりますね」
「まだ3年生なのに、もうお勤め先が内定していらっしゃるんですの!? ……こほん、失礼いたしました。前途有望でお羨ましい限りですわ」
思わず声が裏返ってしまったリベカの感情の振れ幅の未熟はともかく、驚きそのものについては悪くないと思う。世の中はまったく不平等だ。表情を落ちつける代わりに握った拳を震わせる。
「ここがもっと高級な個室の階層であれば、呼び鈴を振るだけで係員が来て飲み物くらい用意してくれます。王宮勤めで随伴するような方々であれば、むしろそういった形式の施設を利用されることの方が多いかと思います」
ブラムは否定することもなく控えめを装った笑みを浮かべ、束の間ためらうような沈黙を挟んだが、ややして、アンジェリンの進路についてさりげなく尋ねた。
なるほど、こちらが本命かとリベカは納得し、友人との会話の中で口外してもいいだろうと判断した範囲で話すことにした。
「彼女は、卒業したら実家に帰って、お体のお弱い叔母君の魔法関係のお仕事を引き継ぐそうですわ。ご家族内の総意と、本人の希望だそうです。兄君と同じで王都に来る暇もなくなるでしょうから、卒業後の社交界でいくら評判を落とそうが痛くも痒くもない、などと笑っておりました」
なんでも彼女の叔母は一族随一の魔術師で、ヴォジュラ領が担う魔境境界線防衛に関して重要な任を負う立場なのだそうだ。忙しくなるというアンジェリンの言葉は嘘や誇張ではないだろう。
少し考えて、リベカは付け加えた。その理由として、後に、ジリアンに少し同情したのかもしれないと振り返る。
「フェルビースト一族は、代々嫡子以外は結婚をせず家業に参加するのが慣例だそうです」
この学校の意義の一つに、貴族子女の交流の輪を広げること、転じて将来の伴侶を身繕うというのがある。
友人はそれを丸ごと放棄しているのだ。この高等学校という舞台で他人が巻き起こす恋愛劇は、彼女にとって全て他人事でしかない。道理で恋話への食い付きが悪いわけだ。初恋の話を聞き出すだけでもかなり苦労したのだから。
フェルビースト家の女は生まれ付き子供を授からない体質なのだと、だからというわけではないが他家に嫁すこともなく家業に専念できるのだと、当たり前のような口調で説明されたことまで口にするには、さすがに憚られた。
朗らかに将来を見据えるアンジェリンの言葉に、一抹の寂しさを覚えたのは事実だ。『ぜひヴォジュラに遊びに来て。その時だけは何としても時間を作るから』続けてそう言ってくれた時に感じたのは嬉しさだけではなかったけれど、それでもやっぱり、一度突き落とされた気がした気持ちが引き上げられたのは確かだった。
「やはりそうですか」
ブラムは小さく言った。
「やはり?」
リベカはさっと彼を見上げたが、さてこそと頷いた。ごく自然に、サヴィア家からフェルビースト家への婚約打診にあたって調べたのかもしれないと考えたのだが。
「今では一部の貴族しか知らぬことだそうですが、フェルビースト家の女性は、未婚の権利を王国に守られているのです」
「はあ?」
リベカはぽかんと口を開けた。
「未婚を定められているというわけではなく、例え王家であろうとも、フェルビーストの姫に意に染まぬ婚姻を強いてはならないという取り決めです……未婚の権利というよりは、自由婚の権利と言いましょうか」
ブラムは素早く廊下の人通りのないことを確かめると、少し屈んで、手短に、声を低めて説明した。耳を寄せて聞いていたリベカは、呆気に取られながらも正しく理解し、囁きを返した。
「……つまり、サヴィア様がアンジーの心を射止められなければ、お家同士の約束どころか、その話し合いの段階にも漕ぎ着けられないというわけですのね」
「そういうことです」
「……お気の毒に、サヴィア様……もう詰んでいらっしゃる」
「まだ、そうと決まったわけではありません」
端から憐れみムードのリベカの態度に、ムッとした様子でブラムは反駁した。
個室に戻ると、エイジアが樹になり切っていた。衝立を翳した椅子に座ったまま微動だにせず、一言も発さず、可能な限り気配を殺して、入室してきたリベカ達に一瞥もくれない。
ちょうどジリアンがこんなことを言っていたところだった。
「僕も、もっと鍛えて力を着けたいところだ。体格も欲しい」
……彼は、まだ、剛毛に憧れているのだろうか。ちら、と横目でブラムを見遣ると、彼は渋面で首を横に振った。毛生え薬は諦めた……はずである。
アンジェリンが顔を上げてリベカに微笑み、ありがとう、と告げた。それから、ジリアンに向き直って彼との話を続けた。
「サヴィア様はお強くなられましたわ。武芸の授業でも目覚ましい飛躍を見せていらっしゃいます」
「それでも君にはまだ敵わない。君が強いと認める水準に届いてすらいない」
アンジェリンとジリアンはしばし静かな目で見つめ合い、見えない火花を散らしたようだった。
なんとなく憚られて、リベカは後ずさり口を噤む。武人の卵に相通じる精神はリベカの想像の埒外で、互いの距離が縮まって仲良くなりました、ではすまない面倒くささだけは感じ取れた。
例えば実はアンジェリンはジリアンの淡い恋心に気づいていて、穏便に心隔てようと試みているのではないか、とか。
思ったことを満面に浮かべていたらしいリベカは、青い目に非難を浮かべて見下ろしてきたブラムと視線が合い、しれっと顔を逸らして飲み物の用意を宣言した。
王立高等学校3年生の将来は、本人たちがいかに希望していようとも、未だ不透明である。