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魔界の少女  作者: YossiDragon
第七章:九月~十月 学園祭『新生・変態軍団アスメフコーフェッグVS学園祭実行委員会』編
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第八十七話「図書室の織姫と彦星」・4

「これを見て……百冊よ」


 まるで冗談か何かではないかと、改めてチェックリストを姉の手から奪い取って、震える両手で眼前に近づけて、食い入るように数字を確かめる栞先輩。でも、幾度視線を這わしても同じ数字がそこに刻まれている。


「ひゃ、百冊!? うっそ、台車を使ったとしてもこんな記録……並みの図書委員会でも無理でしょ!?」


「ええ、その通りよ。こんなのきっと史上初だわ」


 図書委員会委員長直々にそんな評価を下され、俺は少々混乱していた。

 というのも。


「え、百冊ってそんなに無茶なスコアだったんですか? 箋枌先輩がさも当然のように口走ってたんで、図書委員会の人であればそれくらい日常茶飯事なのかと」


 そうだ、箋枌先輩の口ぶりでは、百冊くらい返せて当然みたいな雰囲気だったのだ。だから、それくらいは頑張れば出来るのだと思っていた。しかし、蓋を開けてみればそんな事は全然なかったのである。

 そしてその信ぴょう性を更に増しにかかるかのように、織姫先輩が続ける。


「とんでもない。むしろわたしが知る限り、この時間内でこの記録は、それこそまさに偉業中の偉業よ」


「えええええ!? そ、そうだったんですか……」


 まさかこんな形で例の偉業を達成してしまうとは露程も思っておらず、俺は素っ頓狂な声をあげてしまう。


「うふふ、凄いわ神童くん。まさか図書委員会の人間でもないあなたが、これ程の記録を見せてくれるだなんて、今日だけであなたには二回も驚かされたわね。そうだわ、これはご褒美。少ししゃがんでくれる?」


「え? あ、はい……」


 言われるがまま、俺は何をされるのだろうかと戸惑いつつ、身を屈める。

 すると、俺より幾分か背の小さな織姫先輩が、少しつま先立ちになりながら腕を伸ばしてきた。


「ふふ……頑張ったね、えらいえらい♪」


「なッ!?」


 まさか、頭を撫でられるとは思っていなかった俺は、完全に油断しきっていた。

 そのため。


「ぎぃやあああああああああ!? な、な、何をしているんですか織姫さん!」


 堪らず悲鳴をあげてしまっていた――箋枌先輩が。俺はといえば、むしろ声も出ずに硬直してしまっていた。

 その間も箋枌先輩が憤慨するように織姫先輩に物申している。

 しかし、それでも彼女が動じる様子はない。それどころかマイペースに彼の問に答えようとしていた。


「何って、凄い記録を出した神童くんを褒めてあげているのだけど」


「そ、そんな……ぼくだって、ぼくだって九十冊もの本を本棚に仕舞えたというのに……たった十冊の差はこれほどまでに大きかったのか……あの時、盛大にコケ散らかさなければ、織姫さんからのご褒美なでなではぼくの物だったのに……おのれ、神童くん……この恨み、晴らさでおくべきか……ガクッ」


 あまりのショックに意識を保てなくなったのか、箋枌先輩は物凄い形相でこちらを睨みつけた直後、床に倒れ伏すようにして気絶した。


「あの、めちゃ恨み節を言い遺していったんですけど……俺大丈夫そうですかね?」


 下手をすれば呪われるのではないだろうか? と、そんな不安が脳裏を過るのだが、俺を安心させるように織姫先輩が口元に手をやって小さく笑った。


「ふふ、箋枌くんは優しいからきっと大丈夫よ」


 悲しい哉、その言葉は本人には聞こえていないんだよな……。

 なんて事を考えながら、俺は気絶したままの箋枌先輩を哀れに思いながら見下ろした。

 何はともあれ、こうして俺は許諾証のサインを賭けた勝負に勝ち、無事勝利を収めたのだった。




「……ふんっ、これで満足かい?」


 まるでツンデレめいた反応を見せる箋枌先輩が、鼻を鳴らしながらやや不満そうに、俺に許諾証のプリントを突き付けてくる。


「あ、どうも」


 紙面に彼のサインが入っているのを改めて確認しつつ、俺は軽いお礼を口にする。


「いいかい? 今回はきみに勝ちを譲ってあげるけど、次はそうはいかないからね!」


「あーはい」


 まだツンデレめいた事を言っているよと、俺は思わず呆れ返ってしまう。

 と、そんな俺の反応が癪に障ったのだろう。目元をヒクつかせた先輩が、ずいっと俺に肉薄する。


「なんだい、その気の抜けたような返事は! 男ならばもっとシャキっと返事をしたまえよ!」


 何だか相手をし続けるのも馬鹿らしく感じてきた俺は、くるりと踵を返して織姫先輩に許諾証を渡す。


「あ、織姫先輩もお願いしていいですか?」


「ええ、いいわよ」


 織姫先輩は二つ返事で笑顔を向けながらペンを手に取った。


「盛大に無視とは頂けないッ!」


「箋枌くん、少し静かにしてもらえるかしら? 気が散ってサインが書けないわ」


「はっ!? も、申し訳ありません、失念しておりました……くっ、神童くん! きみのせいで、ぼくが怒られてしまったじゃないか!」


「なんかすみません……」


 正直これに関しては、少しばかりは俺に非がある気がしないではないので、一応形式上は謝っておくことにした。

 だが、その矢先、箋枌先輩が不意に考え込んで何かを思いつく。


「……いや待てよ? むしろあの温厚で他人を温かく包み込んでくれるような包容力溢れる織姫さんからのお叱りの言葉は、ある種ご褒美なのでは? であれば、甘んじて受けるのが筋というもの!」


「……さっきの謝罪撤回出来ませんかね」


「ふっ、知った事か! ぼくは今織姫さんからのお叱りの言葉を脳内で反芻して堪能中なんだ、邪魔しないでくれたまえ!」


「あっはい」


 無視をするなと言ったり邪魔しないでといったり、二転三転する面倒な人だなぁと思った俺は、最早平坦な声の調子で軽く相槌を打って、織姫先輩がサインを書き終わるのを大人しく待つ事にした。


「書けたわ、これでよかったかしら?」


「あ、ありがとうございます……ええと、はい、大丈夫です!」


 サインを確認して問題ないと判断した俺が、彼女にお礼を言う。

 そんな俺の働きぶりを見てだろうか、織姫先輩が感心したように頷いた。


「ふふ、学園祭実行委員会代理にしては随分と板についているようね。まるで本当に学園祭実行委員会にいるみたい」


「い、いやそんな……それに、それは紙啼先輩に申し訳ないというか」


 あくまで代理の立場でしかない俺が、そこまでの評価を生徒会側の人間から下されるのは、正直畏れ多いというか、むず痒く感じた。


「こーへーくんも草葉の陰から見守ってくれてるよ」


 栞先輩が冗談かそうでないかなんとも判断に困るトーンで言う。


「殺すな殺すな! あの人は今も入院してるだけですから」


 と、そう口にする俺に、思い出したように栞先輩が声をあげる。


「あ、それなんだけど、この間聞いた話じゃあ、学園祭には退院出来そうだって!」


「あ、そうなんですか? それはよかったです……あ、それと、織姫先輩台車ありがとうございました。これのおかげで勝てましたよ」


 そう言って、彼女の前に台車を運ぶ。


「あら、お礼を言うのはむしろわたしの方だわ。お陰様で、大量にあった返却本があっという間に片付ける事が出来たもの。手間が省けて助かったわ」


「それであの勝負内容だったってワケか~、姫おねーちゃんってばちゃっかりしてるなぁ」


 織姫先輩が突発的に決めたあの勝負内容の理由がそこにあったのだと分かり、栞先輩が感嘆の声を漏らす。


「うふふ、ごめんなさいね、神童くん。利用する形になってしまって」


 一応先輩としても罪悪感はあったようで、眉尻を下げて軽く頭を下げてくる。


「あ、いえ……それはいいんですけど、一冊だけこの学園の本じゃない物が混ざってたようで……誰かの所有物でしょうか。ブックカバーと栞も挟んであったんですけど……えぇと確か作者は……よ、よるひめ、れん? こいですかね?」


 そう、勝負中に見つけてずっと気になっていた謎の書籍。よくある文庫本サイズの代物だが、えらく大事そうにされている辺り、もしかすると誰かの私物かもしれないと考えていたのだ。

 と、俺がその書籍の作者の読み方に悪戦苦闘していると。正式な読み方に気付いたらしい織姫先輩が口を開いた。


「あぁ、それは夜姫(よひめ)(ラブ)先生ね」


「いやぁああああああ!?」


「ど、どどどうしたんですか、栞先輩いきなり叫び出して」


 突如栞先輩が悲鳴なんかあげるもんだから、思わず俺も肩をビクッと震わせてビビリみたいな反応をしてしまった。逸る心臓を抑えるように胸に手を当てる俺に、指摘された栞先輩が素っ頓狂な声をあげて明らかに動揺しまくったような反応をする。


「へ!? あ、いや、あのその……」


 そんな彼女の反応を他所に、織姫先輩が続ける。


「それはわたしの私物よ。きっとあの時、梯子から落ちた際に落として返却本と混ざってしまったようね。見つけてくれてありがとう、失くすと大変な事になるところだったわ――栞ちゃんが」


「え、何で栞先輩が? 困るのは織姫先輩なんじゃ……」


「作者当人としては、赤の他人に見られるのは恥ずかしいらしくて……わたしはとてもいいと思うのだけれど」


 と、織姫先輩の発言に、俺は更に驚きの声をあげた。


「さ、作者当人!? し、栞先輩って出版してたんですか!?」


 まさかの新情報を耳にして、俺は驚きに声が裏返ってしまう。

 一方で、栞先輩もまさか実の姉にバラされた事に驚きを禁じ得ないらしく、堪らず声を荒げて文句を言った。


「姫おねーちゃん、何でバラしたの!? てゆーか何度も言ってるじゃん、その本は学園に持って来ないでって!」


「だって、学園にある本は全て目を通したし、もう読むものがないのだから仕方ないじゃない」


「全然仕方なくないっ!」


「ちなみに、中身までは読んでなかったんですけど、ジャンルは何なんです?」


「ふふ、恋愛小説よ」


「恋愛小説!?」


「どんどんバラすじゃん! バラさないでってば!」


 ちょっとした俺の興味本位にすかさず情報を明かしていく織姫先輩に、栞先輩は制止するどころか頭を抱える事しか出来ない。

 どんどん顔を青ざめさせていく彼女の反応に、織姫先輩はただただ不思議でしかないようで首を傾げながら問うた。


「何をそんなに恥ずかしがる事があるのかしら、とてもいい話よ? 特にメインとなる片想いの主人公の男子生徒と、想い人である女子生徒の話なんて凄くリアリティがあっていいと思うのだけれど」


「いっ!?」


 もっと追求してほしくないところを突かれたのだろう、栞先輩が一層顔面蒼白になる。

 だが、そこに作者よりも強い反応を示す人物がもう一人。


「あ、やっぱり織姫さんもそう思いますか!?」


 それは、箋枌文太先輩だった。これには栞先輩も驚くしかない。


「ぶ、ぶんくん!? え、ちょっと待って、その口ぶり……まさか」


 嫌な予感が彼女に脂汗を滲ませるが、悪い予感は当たるもので、箋枌先輩はバレてしまって気まずくするどころかむしろイキイキし始めた。


「ふっふっふ、何を隠そうぼくがバイブルとして所有する愛読本がこれなのだよ!」


「いや身内に読者多いな!」


「うそでしょ!? まって、あの本ってそんな増版されてる訳でもないのに、何でこんな身近に所有者がいるのよ!」


 どうやら栞先輩自身知り得なかった情報らしく、両手で頭を抱えてその場に蹲ってしまった。

そんな妹の疑問に、織姫先輩は不可思議そうに首を傾げて説明をくれた。


「何言ってるの? 初版本が出た時に、栞ちゃんが嬉しそうに飛び跳ねながらわたしにサイン本をくれたじゃない」


「いやぁああああああ!? まさかの入手ルートだったんだけど! てゆーかそれあの時の本だったの!?」


 栞先輩もすっかり忘れていた事だったようで、それを思い出して余計にその場で悶絶を繰り返す。

 だが、彼女の反応で俺が一番引っ掛かったのは別の部分だった。


「あの、その言い方だとまるで別の本があるようなんですけど……」


「当然じゃないか、先生の出している恋愛小説は既にシリーズ化して十巻まで出ているのだ。既に読者諸氏からは早くも次巻を首を長くして待っているなどの感想がどしどし送られていると聞く。斯く言うぼくも感想メールを送った一人だよ」


「結構熱心な読者だったんですね。ていうか、思ったよりも本出してた事にびっくりなんですけど」


「あたしはこんなに知られてた事にびっくりだったよ……」


「それで先生、新作の進捗如何かしら?」


 ついには実の妹を先生呼びまでし始める始末である。

 一方で、先生――もとい、栞先輩はまるで恐怖に彩られたように顔色を真っ青にして目に涙を浮かべて悲鳴をあげた。


「ひぃいいいいい!? やめて、進捗なんてワード、聞きたくないっ! それあたしNGだから!」


「そんな事務所NGみたいな……」


「やっぱり締め切りに追われ続けるのは作家あるあるなんですね。とりあえずこれで合点がいきました、あの時せっせと何かを認めていたりネタ帳云々の話は、これだったんですね」


 あの時の疑問が綺麗に解消されてスッキリした俺は満足そうに頷く。だが、話はそれだけでは終わらない。


「神童くん!」


「な、何ですか?」


 突然強い語気で名を呼ばれるものだから、ついつい曲がりそうになっていた背筋が伸びる。


「あたしの事をここまで知られてしまったからには、神童くんも運命共同体だよ?」


「た、大層な言いようですけど、何が言いたいんですか?」


 何だかまた嫌な面倒事に巻き込まれそうな臭いがして、俺はあからさまにいやそうな表情を浮かべる。


「あたしの事、誰かにバラしたらどうなるか……解ってるよね?」


「あ、はい」


 今までに見た事ないような栞先輩の鋭い眼光で睨まれ、俺は縮こまった子犬のように二つ返事を返すしかなかった。


「よろしい……」


 その俺の態度を見て、栞先輩も一応は納得してくれたようで、ひとまずの殺気は引っ込めてくれた。


「あら、そんなにバラされたくなかったのね……ごめんなさいね、栞ちゃん。わたしも何か詫びを入れた方がいいかしら」


「姫おねーちゃん達はいーよ、十分恩恵は受けてるから……」


「そう? ならいいけど」


「恩恵って、もしかして――」


「神童くん!」


「はいッ!」


「ちょっとこっち来て!」


「……はい」


 咄嗟に俺が口を滑らせる前に制止にかかった栞先輩が、俺を半ば強引に引きずる形で、図書館内の入り組んだ本棚の死角に入り込む。

 それから本棚を背にするように俺を押しやると、その俺の顔の左右に何かが突き出された。


「うっ……!」


 それは、言わずもがな栞先輩の両手である。まさかこんな至近距離で年上の女子の先輩から壁ドンみたいな事をされるとは思いにも寄らなかった。


「……何を知ったのか、話してもらおっか?」


「……え? ぁ、いやぁ~……何も」


「嘘だね」


 先ほどまでの真摯な面持ちから一気に満面の笑みに変わる栞先輩だが、その笑顔には何故か影が落ち、表面上では笑っているように見えるものの、内面ではといった含みを持たせるような表情で鋭い一言を発した。


「……すみませんでした」


 これは観念するしかない。俺は堪らず謝罪した。


「それで? 何に気付いたのかな?」


 首を傾げて再度俺を問い質す。

 これ以上誤魔化しても致し方あるまいと、俺は慎重に言葉を選びつつ話し始めた。


「た、多分ですけど……件の恋愛小説の登場人物の元になっているのは……あ、あの二人なんじゃないかなぁ……と」


「……根拠は?」


 少しの間を置いて、栞先輩が問う。


「……す、推測ですけど、二人に関してやたら熱心にネタ帳に認めていたのと、リアリティがあるって話と、やたら関係者に読まれたくなさそうにしていたので。実体験という可能性も考慮しましたけど、栞先輩は恋愛した事ないようなので」


「最後にすんごい失礼な事言われたのはこの際、恩情で許してあげるとして……なかなかの観察眼だね。ご推察通り、あれはあの二人を題材にしてるの。ぜっっっっっったい、バラしたらダメだからね!? もしバラしたら……」


 ただでさえ暗く顔に落ちていた影の濃さが増したような気がして、俺は生唾を呑んで焦ったように首を振る。


「だ、大丈夫ですって話しませんから! は、墓場まで持っていきますよ!」


「墓場で話したら、神童くんの墓場暴いてやるんだから!」


「とんでもない墓荒らし!? 絶対にそんな事しませんから、冗談でも墓荒らしなんてしないでください……」


「約束だからね?」


 上目遣いでそんな事を言われれば、誰だって呑むしかない。それは俺とて同じ事だった。


「わ、分かりました……でも、もし二人自身が真実に気づいたらどうするんですか?」


 ふとした疑問。だが、そんな仮の可能性を聞いて、栞先輩は冗談じゃないとばかりに激しく首を振り乱した。


「恐ろしい事言わないでよ! 絶対そんな事阻止しないと!」


「ていうか、十巻も出ててよくあれこれ自分の事じゃね? ってなりませんね……」


 その質問に、あぁと言わんばかりに嘆息した栞先輩が答える。


「あの二人、こと恋愛に関しては嘘みたいに天然力を発揮してて……今までもバレそうになった事は度々あったんだけど」


「バレなかったと……」


「うん……」


 と、過去の記憶に想いを馳せていた栞先輩が苦笑しながら頷く。


「そういえば箋枌先輩、その本をバイブルにしてるって言ってましたけど、題材が先輩自身なんだとしたら、役立たずなのでは?」


「う、うん……まぁ、確かに客観的にみればその通りなんだけども、よくもまぁ著者を前にしてズバリ役立たずなんて言えるね?」


「あ、すみません」


 言葉を選んでいるつもりが、無意識の内に栞先輩を刺してしまっていたらしい。反射的に俺は頭を下げる。

 だが、栞先輩も自覚はあるようで、バツが悪そうに頬をかく。


「まぁ、事実その通りなのはそうなんだけど……だってしょーがないじゃん、ぶんくんが奥手で恋愛下手のナヨナヨ野郎なんだもん」


「散々な言われようですね……」


 気持ちはわからんでもないが、いくら何でも同級生に対するコメントとは思えない。

 と、少し愚痴を零した事で歯止めが利かなくなったか、更に栞先輩は続ける。


「あたしだって、執筆作業しながら何度はよ告れや! と思ったことか」


「いや、そう思うのであれば、そう書けばいいじゃないですか。そしたら、むしろそこから教訓を得て現実世界でも織姫先輩に告白するのでは?」


「そんなのダメ! そんなのぶんくんじゃない! 解釈違いもいーとこだよ!」


「いやめんどくせぇなおい!」


 まさかの解釈違いときたもんだ。クリエイターというものは、やはり各々に謎のこだわりというか、譲れない部分というものがあるのだろうか。栞先輩の場合はこれがまさにそうなのだろう。


「とにかく、あたしの小説は二人の関係性を元に書き綴ってるから、現実の方で進展がない限り小説でも進展させちゃダメなの! あくまで小説→現実じゃなくて現実→小説っていう順番が大事なんだから! もしその順番を侵したら、それはもう二次創作なんだよ!」


「いや、この恋愛小説も実質二次創作では?」


 よもや自身の作品を一次創作だと思っていたのだろうか。もしそうであれば、最早それは創造主であり、物語を作り導く語り手――ストーリーテラーである。


「うぐ、痛いとこ突いてくるなぁ。ともかく、あの二人はあくまで自然体であり続けてほしいの。天然ものの恋愛ネタだからいいのであって、あたし達が何か手を加えたり誘導したりしたら、それはもう養殖なんだから!」


「魚か何かですか……」


 俺に指摘されて呻いた栞先輩が持論を述べるのに対し、俺は呆れたようにツッコむ。


「栞先輩の想いは分かりました。俺も口を出すような事はしないので、安心してください。それに、元々二人に近づいたのだってこの許諾証を手に入れるのが目的だったわけですし」


「そうだね、よかった。神童くんが良き理解者で」


「……理解者と言われると、ちょっと御幣があるような気もしますが……」


 形はどうあれ栞先輩の別の一面を垣間見たどころか知ってしまった以上、それは理解者というより共犯者というか、今後何かがある度巻き込まれる事になりそうで、今から胃がキリキリする思いである。

 何はともあれ、理解者を得られた安心感からか、そこでようやく栞先輩が壁ドン状態から解放してくれた。


「それじゃあ戻ろっか、ずっとあの二人をそのまま放置してる訳にもいかないし」


「ですね」


 栞先輩の先導の下、俺達は図書委員会の二人のところへ戻った。

 軽く世間話みたいな事をした後、学園祭実行委員長である栞先輩が口を開く。


「じゃあ、二人ともサインありがとね? 学園祭のしおり作りよろしくね!」


 そう言って笑顔で手を振った栞先輩が踵を返して図書館の出入り口へ向かう。


「ええ、任せて頂戴」


 妹に手を振り返しながら織姫先輩が例の本を胸に抱える。


「ぼく達図書委員会にかかればこれくらい、お茶の子さいさい屁の河童だとも!」


 自信満々に自身の胸を叩いてみせる箋枌先輩。

 そんな二人の姿を後目に、俺達は図書館を後にするのだった……。

というわけで、今回は図書委員会の話をやりました。ちょいちょいそんな予感はさせていましたが、栞の姉と同級生です。栞と文彦は中等部からの知り合いのため、栞は彼をあだ名で呼んでいます。

今後のフラグめいた事は響史が言っていますが、どっかで彼らの深堀をする話がある……かもしれません(あくまで予定)

何気に眼鏡をかけたキャラが少ない方なので、レアな二人でもあります。

という訳で、無事図書委員会からもサインをもらってこの日は終了。

次回予告、栞と共に美化委員会を訪れる事に。美化委員会の二人といえば、そう随分と前に登場して以来ちっとも出番がなかった二人です。そんな二人からサインをもらうためには、この学園にある旧校舎へ訪れる事になり……

久々に魔界の少女勢から、同じ委員会に所属する麗魅も出ます。(タイトル詐欺ではってくらい、ここ最近彼女達の出番が殆どないのはご容赦を。学園祭本番になったら十二分に暴れ回ってもらいましょう)

更新予定はまた少し空くかもしれませんが、一応今月目指し

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