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魔界の少女  作者: YossiDragon
第五章:七月 過去『封印されし記憶の解放』編
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第六十話「運命の日、なつい事件」・3

「許さん……許さへんぞ、神童響史ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!」


 再び怒り狂った狂次郎は、従姉妹を始末しようとしたのだろう。赤いスイッチが備わっている小型のリモコンを握って親指をあてがった。

 それにいち早く気付いた唯が急いでそれを奪おうとするが、残念ながら身動きが取れず無駄に終わる。唯一出来る事と言えば強く睨み付ける事だけだが、それも無意味に等しい。

 しかし、響史が体を動かした。


「そ、そんなアホな……!? てめぇはもう動けへんはずやのに……」


 響史のありえない行動に、狂次郎もさずがに怯えを見せていた。が、それは唯も私も同じだった。普通もう気絶しているはずだ。まさか、これが最後の気力というやつなのだろうか?

 と思っている矢先、響史が手に握っていた木刀を放った。縦回転しながら木刀は狂次郎の手に命中。リモコンを落としてしまった。


「し、しまった!?」


 と、慌ててリモコンを拾いなおそうとしたその時――。


ドゴォォォォンッ!!!


 と、物凄い音を立てて廃倉庫の入口が壊れた。同時、真っ白な車が瓦礫と砂埃を被って現れる。響史は気力を使い果たしてしまったのか、うつ伏せに倒れていた。


「ごほごほっ!」


 私は、突然の予想外の出来事に何事かと思いながら激しくせき込んだ。同時、慌てて外へ退散する。一応、鏡だけは残しておいた。

 そう言えば、両親を監視(チェック)していたブロックは……って、この車!

 そう、その車に乗っていた人間こそ――。


ガチャ。


「な、何もんやッ!!」


「わしの、大切な孫に……このような仕打ちをしおって。お主、とんでもない事をしでかしてくれたのぅ。この落とし前は、きっちりと払うてもらうから覚悟せぃ……」


「何やとぉ? そっちこそ、ただの老いぼれ如きが調子に乗っとんやないでぇ!!」


「ほっほぅ、老いぼれか……どうやらお主は、標的の顔も分かっておらんようじゃ。全く……呆れたもんじゃわい」


 砂煙で見えないが、あのシルエットは間違いない……バブルドリームカンパニーの、社長だ。


「そのようなうつけ者が……わしの孫に、手を出すなぁあああああああああああッ!!!」


 瞬間、煙が強制的に払われた。と同時、鋭い杖攻撃が炸裂した。杖を持っている腕を、フェンシングの時の様に動かして狂次郎の鳩尾にくらわせる。


「ふぐぉッ!?」


 苦悶の声が洩れ、狂次郎が後ずさる。しかし、攻撃は……終わっていなかった。


「うぉぉぉぉぉ」


 少し離れた位置から掛け声がする。それは段々と大きくなっていき、同時駆け足の音が聞こえてきた。


「俺の娘と息子を――」


 足が止まる。


「返せぇええええええええええええええええええええええ!!」


ドガッ!!


「ぬぐわぁあぁあああああああああああああああああ!!!?」


 クリティカルヒット! 砂煙の中から突如として姿を現した男に、思わず私は目を疑った。その姿は響史に良く似ていて、まるで彼を成長させた姿のようだったからだ。

 そう、彼こそ響史と唯の父親であり、バブルドリームカンパニーの社長である神童豪佑の息子――神童響祐だ。

 彼は全力疾走で狂次郎との距離を詰めると、拳を高く突き上げて敵の顎を打ち砕いた。

 熊のように巨躯の体を持つ狂次郎は、ものの見事放物線を描いて後方へと倒れた。

 今、あの父親には架空のゴングの勝利の音が聞こえている事だろう。


「響史、無事か響史ッ!!」


「お、お父さん……響ちゃんが、響ちゃんが私を守ろうとして……それで」


 駆け付ける父親に、唯が涙を流しながら状況説明する。すると、彼女の背後に一人の背丈の高い男が現れる。

 格好から察するに、どうやら執事のようだ。


「唯お嬢様……御無事で何よりでございます」


「ありがとう、菅野さん。……ぐすっ、それで、お父さん……響ちゃんは?」


 唯の弱々しく尋ねる声に、響祐はただ静かに首を左右に振るだけだった。


「そ、そんな……!」


 ショックを受け、愕然とした唯はその場に膝をついて口元を手で覆った。そのまま泣き崩れるようにして蹲る。

 その背中を優しく撫でさする人がいた。母親の唯奏だ。


「心配しないで唯? 響史は大丈夫よ、すぐに病院へ連れて行くから」


「ずずっ、本当?」


 母の言葉に、鼻水を啜りながら尋ねると、唯奏は優しくコクリ頷いた。

 それに安心したのか、唯は目尻の涙を人差し指で拭って響史を見下ろす。


「ありがと、響ちゃん……とってもカッコよかったよ?」


 そう呟いた一言が、響史に伝わっているかは分からない。けれど、これで事件は終わりを迎えた。主犯の二人の内、片方は死に、もう片方は倒した。恐らく、一度脱獄をしている狂次郎は二度と出てくる事もないだろう。

 それに、あいつらは何か他に重大な犯罪を犯している感じがする。あくまで予想だが、確かめない訳にはいかないわね。


「親父、病院からの連絡は?」


「今こっちに向かっとるそうじゃ……」


「そんなんじゃ間に合わねぇ!! 直接出向くから、ヘリ用意しろ!!」


「……やれやれ、父親遣いの荒いやつじゃわい。まぁ、しょうがないのぅ……緊急事態じゃしな」


 やや半ギレ状態の響祐に、豪佑は杖を突きながら首を左右に振ると、懐から携帯を取り出した。


「あー、もしもし打節か? 手筈通りに頼む」


「親父?」


「なぁに、お主がそう言うじゃろうと思うて、先にヘリをこちらに向かわせておったのじゃ。どうじゃ? ジジイにしては気が利いとるじゃろぅ?」


 すごい、これがバブルドリームカンパニーの社長の力なのか。でも、あのお爺さんにも何か秘密がありそうなのよね。それに、既に奥さんは亡くなっているみたいだし……。


「こいつはどうすんだ?」


 響祐の質問だ。豪佑は先ほどまでの柔和な笑みを消すと、何時に無い真剣な面持ちで口を開いた。


「警察の方に連絡はいれておる。それに、こやつには色々と聞かなければならぬ事があるしのぅ」


「ま、まさか……こいつもそうなのか!?」


 何の話かしら?


「響祐、今はそれは後回しじゃよ……。それよりも、茜達は何処におる?」


 そうだ、私が鍵を開けてあげたのに、いつまでたっても姿を現さないってどういうこと? まさか、既に中で死んでるとか? それとも逃げてる最中にあいつらの仲間に見つかって――ダメだ、どうしても悪い方向に考えてしまう。

 と、その時、扉が開いて何者かが姿を現した。


「ここにいますわ、お祖父様」


 そう答えたのは、あの茜という少女だった。


「あ、茜!? よかったわい、無事じゃったか……。皆ちゃんとおるな?」


「ええ、無論ですわ。こんな所でくたばってしまったら、元も子もありませんもの!」


 豪佑の問に、巻き髪を手でなびかせながら金髪の少女が答えた。確か、響史の従姉の姫歌とか言ったっけ。


「奈緒たぁ~ん、だいじょぶだったぁ? 怖い思いしなかった? ゴメンねぇ、ママがしっかりついていなかったから……どこか怪我してない?」


「ぐす……うん、大丈夫」


「そう言えば、お主達はどうやって脱出したのじゃ?」


 その問いに一番敏感に反応したのは、私だった。当然だ、だって彼女達を助けたのは私みたいなものなんだから。バレてないわよね?


「それが不思議なんだよね、なんてゆーか、鍵が開いてたんだよ」


 そう答えるのは、同じく響史の従妹である燈だった。

 今と違い、まだ性格が素直な感じだった彼女。やはり響史の後遺症が彼女を変えたのだろうか?


「唯、そう言えばあの男はどこに行った?」


「……多分、死んだと思う」


 響祐の問に、少し答えにくそうに唯は答えた。その発言には、この場にいる全員が驚愕を露わにしていた。

 と、それからしばらくして警察のパトカーが到着した。警察の人に事情を説明して、凶哉の死体はまもなく運ばれていった。どうやらあれは事故として処理されるそうだ。轢いた運転手の捜査も行わない方向に運んだ。それが何故かは大体わかる。あまりこの事件を公にしたくないのだろう。少し納得がいかないといえばそうだけど、仕方ない事なのかもしれない。

 狂次郎の方は再度刑務所送り、その後厳密な捜査の末にある事件が浮上して彼は死刑囚となった。それほどまでに重大な事件を引き起こしたのかはよく分からないけど、そこまで詳しい事はさすがの私でも調査出来なかった。

 いや、しなかったという方が正しい。これ以上この一族に関わったらいけない気がしたのだ。だから私はあまり深いところまで探るのは遠慮しておいた。何事も平和に、平穏に暮らすのが望ましい。

 響史のその後は、既に皆が知っているように七日間眠りっぱなし。医師からも例の後遺症が知らされ、彼らは多大なショックを受けた。

 唯はというと、しばらくの間は学校に通えなくなった。響史が目覚めてもショックの大きさが尋常じゃないようで、顔もすっかりやつれてしまっていた。

 実質、彼女が学校に通い始めたのは九月後半からだったみたい。

 こうして神童一族を巻き込んだ「なつい事件」は幕を閉じたのだった。




――☆★☆――




「……分かった? これがあいつに隠された真実……全てよ」


 私は、響史に関する事を全て瑠璃達に教えた。聞いていた彼女達もありえないという顔だったが、やがて冷静になって感想を述べ始めた。


「それじゃあ、響史は私達が現れるまでずっと苦しんでたって事?」


「そうなるわね」


 瑠璃の言葉に次いで双子の妹の麗魅が頷く。


「うむ……よもや響史にそのような過去があったとは」


「驚きだよね、だって今まで一度もそんなこと話してくんなかったし」


 霄が肩に愛刀を立てかけ、霊が尻尾の毛づくろいをしながら思っている事を口にする。

 とそこで、あぐらをかいていた霙が不満気にこう言った。


「そこまであたし達を信じてねぇって事じゃねぇの?」


 その言葉に皆が沈黙する。


「やぁん、響史くんったら信用してないってコト? ひっどいなぁ~、私達はもうそんな離れた関係じゃないのに」


「少なくとも、露以外は信用してもええと思うんやけどな……」


「もうっ、ひどいなぁ、霞お姉ちゃん……おっぱい揉んじゃうぞ♪」


「ふっ、ドタマぶち抜いたろか?」


 妹のあからさまなセクハラ発言に、姉は満面の笑みで銃口を露の額に突き付けた。


「や、やだなぁ~穴なら既に――」


カチッ。


「ひぃっ!? 冗談、冗談だから! ゴメン、ゴメンなさ~いっ!!」


 さすがに撃鉄を起こす音にビビッたのか、露は両手をバンザイして降参の意志を伝えた。顔面蒼白になる妹に、さすがの霞も銃を降ろす。


「ですが、そうなると琴音さんは相当苦労していらっしゃるという事ですよね?」


 霞と露のやり取りを別段意にも介さず口にしたのは、相変わらず無表情の零だった。


「ええ、そうね。二人いる幼馴染の内、一番働いてるのがあの子みたいだし」


「もう一人の子って、病院に来たんだよね?」


「ええ、だって私がそう指示したんだもん」


 さらっとそう口にする私の発言に、皆が一瞬黙りこくる。

 そして――。


『ええええええええええええええええええええええええええええ!?』


 皆が驚愕の声をあげた。


「な、何よ?」


「どういうこと、おばさん!?」


「お、叔母さん言うなっ! あのね……誰があの子に指示を出したと思ってるの? てゆーか、じゃないとあいつは一生目を覚まさなかったわよ」


 私がそう言うのには理由がある。あいつが目を覚ますには四年前の出来事をそっくりそのまま実現させる必要があったから。だからこそ、タイムマシンで過去に赴いた際のビデオをあの医師に渡したんだ。そして、台本をあの子に――めーちゃんとかいう女に渡した。

 ホント、不気味な女だったわね……私よりもすごく身長高かったし。そしてあの魅惑的な声……不思議と引き込まれるような、惹きつけられるような幼い声。そのくせ容姿はしっかり発達してるんだからやんなっちゃうわね。特に麗魅には教えてあげられないわ。


「な、何?」


 無意識に麗魅の方を向いていたのか、怪しい人を見る目で麗魅がこちらを睨んでいた。


「な、何でもないわ。とにかく、これで分かったでしょ?」


「うん……まぁ」


「けれど、四年経てば元に戻るんですわよね? だったら心配する事ないんじゃありません?」


 霰の意見だ。確かにそうだけど厳密的には少し違う。


「この後遺症は少し厄介な仕組みなのよ。四年経てば元に戻る……正確に言えば、四年経つ少し前に記憶を復元させる必要があるの。だから、あいつの記憶に関わる人間が重大な出来事なんかを全て教えなければならない。今あいつの家族がやっているのがそれよ」


「なるほど、そうすれば記憶が戻るんだね?」


 霖が納得とばかりに大きく首を動かす。


「ええ、そのはずよ。ただ、体育祭の時のあれが少し心配だけどね。上手い具合に復活してくれればいいんだけど……」


 そうすれば、私の事も少しは思い出してくれるのかしら?

 ふと、そんな叶いもしない願いを想ってしまう。

 と、その時、不意にガチャリと扉が開いた。


「え?」


 私は拍子抜けの様な声をあげた。他の皆も開く扉の方をただ不思議そうに見ているだけ。

 そりゃそうだろう、だって一階で昔話をしているはずなのに二階の扉が開くはずがない。

 開く可能性があるとすれば、昔話が終わってそれを知らせるために響史が伝えに来た場合くらいだけど、実は考えたくない場合がもう一つある。

 それは――。


「だ、誰だ……君達は!?」


 そう、両親が二階の人気(ひとけ)を察知してやってきた場合だ。最悪な事に、後者の方になってしまったワケだが、これはマズイ状況だ。

 あいつは私達の存在を姉以外に伝えていないと言っていた。確かに一部の護衛役の子が燈って子と会ったみたいだけど、それだけじゃ確証じゃないし。

 何よりも一番の問題は私達の正体に気付かれる事だ。


「と、父さんこいつらは、その……」


「響史、どういう事なのか説明してもらえるんだろうな?」


「あ、ああ……」


 どうやら父親は少々ぷんぷんモードのようだ。無理もない、知らぬ間に他人があがりこんでいるのだから……それも無断で。怒りもするだろう。叱られるのも当然の道理だと言える。でも、どうしてバレたんだろう? それが不思議でならない。とにかく、なんとか上手い具合に説明しなければならない。

 私は息を飲んだ。響史がこの状況をどう解決してくれるのかは分からないけど、下手な発言はしない方がいい。ちょっといい具合になったところで軽く相槌やフォローを入れればなんとかなると思う。




 ルナーは気づいていなかった。まさか響史の両親にバレた理由がとても単純であった事に……。

というわけで、とうとう両親にバレてしまいました。あーあ、果たして響史達はどうなってしまうのか? 居候生活を送っていた魔界の少女勢の娘達はホームレスになってしまうのか? 

 てなわけで次回予告。四年前より以前の話を軽くやってから時間軸が両親にバレるトコに戻ります。何度も時間を行ったり来たりして大変申し訳ありませんが、視点移動しまくりな過去編なのでご了承ください。ちなみに、次回で一旦過去編は終了です!

 その次からは、いよいよ夏休みですよ? お楽しみに!

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