表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔界の少女  作者: YossiDragon
第五章:七月 過去『封印されし記憶の解放』編
150/271

第六十話「運命の日、なつい事件」・2

「はぁ、はぁ……」


「キヒッ、何やァ……もう息が上がっとんでェ? 疲れたんやないのォ? せやから言うたやん……お前には無理や、諦めェ」


「嫌だッ! 僕は諦めない、絶対に諦めないッ!! 男の子は女の子を守るものだから、姉ちゃんは……僕が守る。姉ちゃんを、悪い奴から守るんだッ!!」


「ぷっ、アッハハハハハハハハ!! あかん、腹筋崩壊やわ!! お前、わいを笑い死にさせよ思とるやろ!! 傑作や、マジで! 今時そないな事言うやつおらんで? あんなァ、女は痛みに強く出来てんねん。何でやと思う?」


「?」


 突然の問いに、あいつはきょとんとして警戒心を少し緩めてしまった。


「赤ん坊産むためや。出産にはものごっつい痛みを伴うかんなァ……せやから、痛みに耐えれるよう最初から痛みにある程度耐えれる体しとるんよ。反対に、男はそないな事あらへん。痛みにごっつい弱い……せやからな? 男は急所をやられてもうたら、終わりやろ?」


 確かにそうだ。実際どうかは知らないけど、かくれんぼの時に、霰から受けたキックですんごく悶えてたもんね。


「だからって……こんな事していいとは思えないよ」


「なんや、えらく出たもんやな。小坊のクセして大人に説教かいな? 気に入らんな……せや、お前は全てが気に入らんねん。その目つき……その真っ直ぐな目が気に食わん」


「そんなの、生まれつきだから仕方ないよ」


 凶哉の無茶苦茶な言い分に、響史は少し困惑顔で言った。


「じゃかぁしいッ!! お前ら何しとんねん!! とっととそいつを殺っちまえ!!」


『おうッ!!』


 凶哉が手を前に突き出すと、残った五人くらいの仲間が響史に飛びかかった。が、ギリギリそれを躱す。標的を見失った敵は、各々ぶつかりあって倒れた。


「お前ら何しとんねん! 遊戯やあらへんぞッ!! チッ、使いもんならんやっちゃな……もうええ、わいが直接やったるわ!!」


 そう言って前に進み出る凶哉。脇をしめ、拳を顔の隣に持ってくる。それから何度かジャブみたいな動きをしてから軽いフットワークでこちらに近づいてきた。


「くっ!」


 響史は木刀を前に振るった。が、前方に会った標的が瞬時に横へ移動したため、攻撃が当てられなかった。的を失った木刀は、空を切ってコンクリの地面を打った。


「な!?」


「キヒィ、隙だらけやァ……」


 目を見開きゆっくり顔を横に向ければ、そこには不気味に嗤う悪魔の笑みがあった。


ドゴッ!!


 凄まじい一撃は、響史の腹部に炸裂した。


「ガハッ!?」


 めり込むようなその威力は、響史の体をくの字に曲げて吹っ飛ばした。後方に倒れた響史は、木刀を杖代わりになんとかその場に立ち上がる。その表情には苦悶の色が見られた。当たり前だ、あんなパンチくらったら普通失神くらいしている。それに耐えるなんて、なかなかの気迫だ。


「いやああ、やめて、響ちゃんに手を出さないでっ!!」


「しゃあしいわッ!!」


 悲鳴をあげて弟を庇おうとする唯に、凶哉は眼光を鋭くさせて叫ぶと、唯の顔面にパンチをくらわせた。


「ぐっ!!」


「姉ちゃん! や、やめろ……うぐっ、姉ちゃんに手を出すな!」


 姉が暴力を振るわれているのを見て、響史は叫んだ。再び木刀を構えて凶哉に向かっていく。


「せからしいやっちゃ……ちぃとは学習せェ!!」


 そう言って思いっきり右ストレートをかました。


「ぐふぉッ!!?」


 めり込むような回転のかかったパンチをくらった響史の小さな体は、軽く吹き飛んで散乱していた段ボール箱を蹴散らした。

 しかし、それが上手い具合にクッションの役目を果たして激しく体を打ち付けるなどという事はなかった。


「何でお前が恨み買っとるか、分かるかァ?」


 真っ赤に腫れた頬に軽く手を添えながら、響史は顔をあげた。


「貴様がわいらの計画を邪魔したからや……全ては順調に進んどった。あの三人から金をせしめて、ある程度の資金調達が完了したら、いよいよ本丸……バブルドリームカンパニーを襲撃する予定やったんや。それやのに、計画目前にしてお前が邪魔しよった。そのせいで、計画は破綻……全ておじゃんや。兄貴も冷たい牢獄ん中……せやから復讐を企てた。神童響史、お前へのな」


「だったら、僕だけを標的にすればよかっただろ? なんで、関係ない姉ちゃんまで巻き込むんだよ!」


「代償や……わいが兄貴を失ったように、お前にも大事なもんを失ってもらお、思てな? やからや……」


「弟だって、いたのに」


 響史の言葉だ。別に姉じゃなくて弟を浚ってくれと言っている訳ではないだろうが、気づけばそんな言葉を口にしていた。


「うっわ、ひっどい兄貴やわ……姉は大切やから攫わんといて、代わりにいらない弟を浚ってくれやなんて……同じ弟の立場からも、これは兄貴にごっつい重い罰を受けてもらわなアカンわ」


 そう言うと、凶哉はあるものを懐から取り出した。それは、リモコンだった。何のリモコンかはよくわからないが、見た感じテレビのそれっぽい。

 すると、どこかに向かって凶哉がリモコンを向けた。そこには、少し障害物の陰になっているテレビがあった。

 センサーに反応して電源が点き映像が映し出したのは四人の少女達。そう、響史の従姉妹達だ。


「あ、茜従姉ちゃん、姫歌従姉ちゃん、燈、奈緒!?」


「キヒィ、わ~ったか? お前の大事なもんは全部こっちが握っとんねん。下手なマネすんなよォ? このスイッチ押したら、一気に部屋もろとも爆発やからなァ……」


「そんなっ!!」


「酷い、あの子達はもっと関係ないでしょ!? それに、あの子達があんた達にどれだけ辛い目に遭わされたと思ってるの!? 友達だって失くしたのよ!?」


 唯の言い分は最もだった。私情如きで友達まで失くされてはたまったものではない。まだ命を奪われていないだけマシだとは思うけれど、それさえも失くしてしまえばそれこそ精神がおかしくなってしまいそうになるだろう。

 響史は完全に放心状態だった。まさか、大切な存在が一気に四人も増えるだなんて思っていなかったから……それも、全員女の子。強い男の使命は弱い女を守る事。だけど、弱い男の場合はどうなるのだ? 強い女に守られればいいのか? 強い女って……誰だ? 姉の事ではないのか? 武術を極めて近所に住む年上の男にも勝ってしまう姉に、勝てる相手なんているはずない……。

 初めて響史に出逢った時、あいつはそのような事を言っていた。けど、実際はどうだろう? 強い相手でも隙を突かれればあっさりと敗北してしまう。そう、全ては真剣だけだとは限らないのだ。

 と、その時、暗がりから一人の大男が姿を現した。しかし、響史は気づいていない。顔を俯かせ、我を忘れているためだろう。

 ダメだ、確実に響史の元へ近づいている。


「響ちゃん、しっかりして! あいつが近づいてるわ!!」


 唯が必死に弟に呼び掛けるが、それさえも聞こえていなかった。

 そして、ついに大男が響史の間合いに入った。見たことない男だ。とてつもない大きさの男……動物に例えるならば間違いなく熊だろう。獰猛な猛禽類の気配を感じる。いや、そんな殺気を放っていると言った方がいいだろうか?

 どちらにせよ敵は間違いなく強い。これだけは間違いない。早く逃げないと、やられちゃうのに……どうしてあいつは逃げないの?

 いや、違う……逃げられないんだ。蛇に見込まれた蛙と言ったところか……。

 巨躯の男は、口の端を吊り上げて真っ白な歯を不気味に光らせると、片足を振り上げた。

 足のつま先は、もろに俯いている響史の鳩尾(みぞおち)にクリティカルヒットし、横倒れになった響史は、耐えれず嘔吐した。


「おっ、おぉうぇええええ!!」


「ギッヒヒヒヒヒヒ、久しいなこの感覚……。よぉ、覚えてるか坊主。いいや、覚えてるわけあらへんよなぁ。なんせ、てめぇはわいの顔見てへんのやから……よくもまぁ、人様をあんなムショに閉じ込めてくれよったな。この落とし前は、きっちりとつけさせてもらうさかい、覚悟せぇ」


 野太いドスの利いた声。重低音の声音は、廃倉庫によく響き私の所にも聞こえてきた。思わず汗がじっとりと滲み、背中に服がべったり張りついて気持ち悪い。


「げほ、ゴホッ!」


「響ちゃん、響ちゃんしっかりして! ちょっと、なんて事するのよ! まだ小六なのよ!?」


「嬢ちゃん、そないなもんは言い訳にはならへんで? こいつはわいをムショなんぞに閉じ込めおった悪がきや……」


「けほっ、悪者がオリに入るのは……当然じゃないか!」


 苦しそうに腹部を押さえながら響史が至極当然の事を口にする。すると、巨躯の男は豪快に笑って言った。


「ほんま正義の塊みたいな男や……せやから性質(たち)が悪い。ええか、この世に正義なんてもんは絶対にあらへん。みな必ず、何か悪事を働いとんねん。小さな事でも、悪事は悪事や……己の胸に手ぇ当てて考えてみぃ。一度でもあらへんか、悪い事したことが」


 ほんと、何を急にこのような質問をしているのだろう? 私は不思議でならなかった。何かの時間稼ぎだろうか? しかし、そのような素振りは見えない。となると……何だろう?


「うっく……」


「絶対にあるはずや、信号無視なんかもそうやで? 車なんて通ってないんやし、通ってもええやろなんて軽ぅ思うとるやろ? それや、それがアカン事やねん。こないな感じで、軽い気持ちで悪事を働く……こりゃ性質が悪いわ」


「そんなの、お前らがやってる事の方がもっと大きいじゃないか!」


「せや、そないな事ごっつい分かっとるがな。言われへんでも自覚しとる……」


 響史の言葉にうんうん頷きながら腕を組む大男に、響史はようやくその場に立ち上がる。


「えらく頑張るやっちゃ……。けんど、もう終了(チェックメイト)やで」


 そう言うと、顎をしゃくって凶哉に指示を出した。凶哉は、やれやれという動きをすると、ややフラフラ状態の響史の背後に回り、腋の下に手を差し込んで羽交い絞めにした。


「なっ、放せ放せぇ~!!」


「キヒィ、兄貴の連打の拳……たっぷり味わうとええ」


 耳元に口を近づけ、妖しい声音で凶哉が言うや否や、あの巨躯の男が突如声を張り上げた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 覚悟せぇ、神童響史……この殴頭狂次郎の重い拳の一撃、しかとその身に味わえやぁッ!!」


 眼光を鋭くさせて上半身を軽くひねる。それから握り拳を作った左手を大きく振るう。鋭く重い左パンチが斜め下から上にかけて繰り出される。


「ぐふぅッ!?」


 響史は身動きが取れず、そのままモロに攻撃を受けてしまった。頭が大きく動き、それからガックリと前に倒れる。

 いけない、このままじゃ遅かれ早かれ響史が死んでしまう! なんとか助けて――ダメだ。こんな時、何も出来ない自分が悔しい……何か手はないのか? そうだ、さっき従姉妹がこの倉庫のどこかに監禁されてるって言ってたわね。そろそろ見つかったんじゃないかしら?

 監視(チェック)に向かわせた十二個のブロックからの報告を確認すると、一件見つかった。この倉庫には地下が存在するらしく、その一室にいた。恐らく、爆破しても仮に助かる場合があるので、その可能性を潰すために地下にしたのだろう。地下にすれば、爆破した際生き埋めになって終わりだからだ。もしかすると助かるかもしれないが、それでも生存率はぐっと下がる。

 私は監視(チェック)に向かわせていたそれらを、全て地下へ向かわせた。そう言えば、書き置きをあいつの家に残していたわね。それも確認したいから、三体だけそっちに向かわせるか……。

 心の中でそう考えた私は、十二個中の三個だけを神童家へ向かわせた。これであいつの両親の動きも監視(チェック)出来る。てゆーか、最初からそうしておけって感じだわ。

 まぁ、自身を責めるのは後回しにしてあいつらの方よ。

 と、私がよそ見している間にも卑怯な攻撃は続いていて、響史の顔はすっかり変わり果てていた。両方の頬は真っ赤に腫れ上がり、まるでお多福風邪状態。しかも左目には青タンが出来、鼻からは鼻血、口の端からもどこか切ったのか血が出ている。

 これらを一言にまとめれば、酷いの一言に尽きた。とても小学六年生同士の喧嘩では出来ないだろう最悪の状態。これが子供と大人の力の差か……。

 なんとも力量差とは恐ろしいものだ。


「ふぅ……ようやく一割くらいはスッキリしたかいな。でも、まだまだや……復讐はこれからやで? てめぇにはたっぷり苦しんで死んでもらうさかい、せいぜい失神せんよう耐える事やな」


 拳を軽く振り、首の関節をボキボキと鳴らす狂次郎。響史の目つきは虚ろで、ほぼ焦点は合っていなかった。恐らく、意識を保たせるのに精いっぱいなのだろう。


「やめてっ! もうやめてよ!! 響ちゃんが悪いのは解ったから! それ以上は響ちゃんが死んじゃうっ!! 私が代わりに受けるから!! 響ちゃんが受けるべき痛みも苦しみも、私が受けるから! だから響ちゃんを許してあげて!!」


 唯は目元を腫らしながら泣いていた。大粒の涙をボロボロと流し、必死に弟を守ろうと、身代わりになろうとしていた。だけど、それでは姉がよくとも弟がよくない。あいつはあんたを守るためにここに来たんだから。お互いに守り、護られる関係……いいじゃない。

 そういうバカみたいな関係……私は好きだわ。

 だからこそ、そんな二人を見ていたい……そのために、生きさせなきゃならない。


「せやからアカン言うとるやろがッ!! 物分かりの悪い嬢ちゃんやな……物事には許容出来るもんと出来ひんもんがあんねん!!! お前の弟が、どれだけの苦労を水の泡にしたと思うとるんや!! こちとら時間があらへんねん!! ここで失敗するわけにはいかん……絶対に成功させなあかんのや!! その邪魔は誰にもさせへん……この都市に存在する財閥――」


「おい、凶哉……ベラベラ喋るな! 誰かに聴かれとったら面倒や……。それに、下手したらわいらまで口封じされかねへん」


「せ、せやな……悪い」


 どういう事? 今何か凄く大事な事を口走っていたような……凶哉が口にしていた都市に存在する財閥って、響史達の祖父の事よね? それってどういう……って、今はそれどころじゃないわ。

 ええと、響史の両親は……あっ、しめた! こっちに向かってるわ! しかも、あのバブルドリームカンパニーの社長も一緒みたいだし、これならあいつらも終わりでしょ! 急いで、速く!!

 私はもう、彼らの到着を待っているしかなかった。なのに……全ては遅すぎた。


「これ以上時間を浪費するわけにはいかん……てめぇらには消えてもらうわ」


「うっ、ね、姉ちゃんには……手を、出す……な」


「じゃかぁしぃッ!! てめぇはさっきからそればっかかいな!! もうええ加減にせぇ!! この世にはな、護れるもんと護れへんもんがある!! てめぇにとっちゃ、それが姉やったと思えばええねん!! どうせてめぇが死んだら、後を追わせたるさかい、二人揃って冥土で再会する事やな!!」


「やめて、響ちゃんじゃなくて私に――」


 そう、唯が今までの中で最大の声を張り上げた刹那――。


「せからしい……言うとんねん。ええ加減学習せぇよ、小娘……ええやろ。そんなに弟守りたいんやったら、先にてめぇから死なせたるわぁあああああああああああああッ!!!」


 目を見開き、猛獣同然の形相で傍に逢った鉄パイプを握りしめる。

 そしてそれを、身動きの出来ない唯に向かって振るった。


ドグァッ!!


 金属の棒が鈍い音を立てた。飛び散る真っ赤な鮮血は、放射状を描いてコンクリの地面を汚した。


『いやぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!』


 目の前に広がる惨劇に、()人の悲鳴が木霊した。

 だが、おかしい。確かに殴られたのは唯のはずだ。だが、彼女は悲鳴をあげている。では、殴られたのは一体……一気に体が冷えて行く感覚を感じた。

 そして、理解する。

 何で? 何であいつがあそこにいるの? 何で、響史が鉄パイプで後頭部を殴られてるの? どうしてあいつが姉を庇っているの? どうして、どうして……どう、して…………。

 何もかもが分からなくなった。そうか、あいつは最後の最期で姉を……護りきったんだ。

 そう確信した瞬間、私はツーッと頬から一筋の涙を流していた。


「おい、凶哉! なに小僧を放してんねん!!」


 青筋をビキビキと立てて狂次郎が怒り狂う。しかし、凶哉はというと左手から血を流していた。


「あ、アカン……兄貴、そいつ人間の動きやあらへん。えらい、バケモンの目ェしとった」


「は? お前、何言うとん――」


「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!? く、来んな……こっち来んなやァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 突然狂ったように叫びだす凶哉に、先程まで怒り心頭だった狂次郎もいよいよその熱を冷ましていく。


「どないしたん……一体、あの小僧に何を怯えて」


 ふと響史の方に視線を向ける狂次郎だが、そこにあるのは姉を守る勇ましい勇士の背中のみ。後頭部から真っ赤な血を流し、姉の体に覆い被さるようになっている彼を見ても、狂次郎は別段恐怖などは感じなかった。

 だからこそ、尚の事弟の豹変っぷりの方が堪えた。


「おい、凶哉。どういう事か説明――」


 と、再び弟の方に視線を戻した時には、既に彼は走り出していた。

 私は、逃がすものかと追跡用の鏡を飛ばす。そして、先程地下に向かわせていたブロックを変形(トランス)させる。それから、今がチャンスとばかりに懐から一枚のカードを取り出した。それを前方にかざし、瞑目する。すると、カードが眩く光って等身大の鏡になる。

 鏡の行先は無論、地下に向かわせたブロックと繋げる(リンク)してある。

 私は地下へ向かって響史の従姉妹が監禁されている扉の鍵を開けた。音がした事で、彼女達にも脱出できる事が伝わったはずだ。

 そして、私は急いで元いた場所へ戻る。同時、追跡用の鏡を閲覧(レビュー)した。

 そこには、驚くべき事態が巻き起こっていた。

 廃倉庫から逃げ出した凶哉は、完全に冷静さを欠いた状態にあった。まるで、人間でないものに追いかけられているかのように逃げ、途中何度もコケていた。しかし、それでも這うようにして何とか廃倉庫から逃げると、そのまま河川敷の方に向かおうと階段をあがっていた。

 と、その時だった。河川敷近くの道路を、一台のトラックが走っていた。

 運転手はどうやら凶哉の存在に気付いていないらしい。そしてそのまま――。


 キィィィィィィィィィ、ドォンッ!!!


 急停止のブレーキ音が鳴り響き、それが鏡と廃倉庫の外の二か所から聞こえた。

 それが狂次郎にも聞こえたのだろう。


「ま、まさか……」


 嫌な予感はまさに的中していた。私は思わず目を背けたくなるような惨状を目にしてしまった。

 凶哉は即死だった。トラックと衝突し、後方へ吹っ飛ばされた彼の体は、坂を転げるようにして転がって行き、頭部をコンクリの地面に激突、そのまま折れて真っ赤な血を円形状に広げていた。

 あれは間違いなく死んでいる。全て、手遅れだった。

 というわけで、一人死んじゃいました。悪い事をしたら天罰が下るといいますが、これは天罰どころの騒ぎじゃありませんね。これで響史達が不満をぶつける相手がどうのこうの言っていた理由が分かったかと。ちなみに凶哉が見たという響史のアレですが、その内明らかになります。てなわけで、三部に続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ