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エフォート



「十五歳になった人間は『覚醒の儀』を執り行うことでスキルを発現する……それがこの世の理じゃ。そこでスキルを得なかった者は『無才』と呼ばれるわけじゃが……この世界には、スキルとは別のもう一つの能力があるんじゃよ」

「それがエフォートだと?」


 僕は唐突に登場した言葉に戸惑いつつ、アウレアの説明を聞く。


「如何にも。スキルが才能ならば、エフォートは努力……一つの物事に並々ならぬ情熱と心血を注いだ者だけが発現する力なのじゃ」

「……えっと、それって単に実力がついたってだけじゃないんですか?」

「否。エフォートはスキル同様、人間の限界を優に超えた能力のこと……例えば、お主のようにモンスターを軽々討伐したりの。普通の人間が剣を振るって到達できる地点ではない。何かしらの能力が発現したと考えるのが道理じゃろう」


 それは僕も薄々感じてはいたけれど、剣術を極めればこれくらいの力は得られるものだと、そう納得していた。

 どうやら、事実は違うらしい。


「エフォートは忘れられた力じゃ。儂が産まれた五百年前ですら、その存在を知る者は少なかった……それもそのはずじゃな。スキルなどという才能がまかり通る世界で、誰が馬鹿正直に努力研鑽を積むのかという話じゃ。当然、人口の半分がスキル持ちとなった今の世の中で、エフォートを知る者などおらん」

「……でも、『無才』であっても力を得られるっていうのは救いのある話じゃないんですか? むしろ流行りそうなものですけれど」

「その力が簡単に得られるならの。言ったじゃろ、並々ならぬ情熱と心血を注ぐ必要があると……儂も詳しくは知らんが、尋常ならざる努力が必要らしい。寝食以外は修行に費やし、その寝食すら時には忘れるほどの努力――気の狂いがの」

「……」

「まさに狂人とでも呼ぶべき人間だけがエフォートを発現できた。普通の人間には無理なんじゃよ。普通の、ただの『無才』にはの……周りは苦労なくスキルを得た者ばかりなのに、何が悲しくて努力をせにゃならんと思うのが自然じゃろう。まして、必ず能力を得られるわけでもない」


 スキルを発現するのに労力はいらない……選ばれるか否か、その二択だけだ。

 対してエフォートは、確証もないのに修行を続ける過酷さを強いられる。

 歴史の中で忘れられたのも当然なのかもしれない。


「こうしてエフォートは歴史から消えていった。国の保存する文献からも消え、口伝も途絶え、今じゃ儂くらいしか存在を知らん……ナイラやゲインには酒の肴に話したことはあるがな」

「……ってことは、ナイラもエフォートのことを知っていたんですか?」

「酔った儂から聞いただけじゃから、話半分じゃったろうがな……それでも少しは疑ったらしい。あまりにもお主が馬鹿げた力をしているもんじゃから、儂の話を思い出したんじゃろうな」


 なるほど……初めてナイラの前で剣を振った時、微妙な反応をしていたのも頷ける。


「エフォートを発現できるのは狂人と言ったが、つまりはそれほどまでに執念を燃やせる人間ということじゃ。お主の場合は剣に対して、常人が追いつくことのできない途轍もない想いを持っているわけじゃな……そんな人間は馬鹿か良い奴か、その両方じゃ」

「まあ、馬鹿については否定しませんよ」


 実際、寝るのも食べるのも忘れて素振りをするなんてざらだった。

 腕が上がらなくなっても剣を離さず、意識を失いながら剣を振った。

 今考えると馬鹿げている。

 とんだ狂人だと笑われても仕方がない。


「スキルのない者はスキルのない生き方を選ぶ。才能なき者は身のほどを弁え、相応の人生を選択する。じゃが、たまに馬鹿が現れる。諦めることを知らない、ただ進むという()()を持った馬鹿がの」


 アウレアはニヤッと笑い。

 僕の頭を棒で叩いた。


「お主こそ、ただ進むという才能を持った大馬鹿じゃ。頂きが高かろうとも、崖が険しかろうとも、沼に沈み海に溺れようとも、息ができず肺が潰れようとも、四肢が折れ心臓が砕けようとも、ただ進む。その先に何が待っているか知らぬくせに、ただ突き進む……世間はお主のことを『無才』と言うが、儂はここに認めよう。ウィグ・レンスリーは、何物にも代えがたい才能を持っているとな」


 「無才」の僕にも才能があると、アウレアは微笑む。

 その言葉は。

 僕の中に欠けていた何かを――埋めてくれる気がした。


「……僕は、誇っていいんでしょうか。自分と、自分の剣のことを」

「それくらいは自分で考えろ。もっともらしく、賢そうな顔をしての」


 言うだけ言って眠くなったのか、アウレアは大きな欠伸をして寝袋に戻っていく。


「……」


 その後ろ背見守ってから。

 僕は、もっともらしく頷いてみたのだった。



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