第35話 王都にて
フェルナンド元帥に指揮権を移行されて以降、スライム捜索は困難を極めていた。
それも当然であった。そもそも魔物相手に軍は専守防衛の方針であったため、いなくなった魔物を探すノウハウなどというものは持ち合わせていない。ましてや討伐したことのない地下にいる魔物となればなおさらだ。はっきり言って畑違いなのだ。だが、国に属する組織で他に武力を持ち合わせていないのも事実。動き始めから手詰まり感が漂っていた。
まず捜索の基本として足取りを追うというのがあるが、ゴミ処理槽というスライムにあふれる場所が入り口であり、またスライムが作った出口がトンネル状になっている時点でアウトだ。似たような状況にダンジョン攻略があるが、あれは十分な広さがあったが、人が一人ずつしか入ることができそうにもないということで、どうしても集団の利点が完全に潰されてしまう。地上から捜索するというのは、ゴミ処理槽が地下深くに埋められている時点で頭になかった。
スライムが脱走してから時間が経っている以上、その戦力にどのような変化が起こっているのかわからないために、兵に一人でスライムと接触、戦闘させるわけにはいかなかった。
参謀として軍で働くマチルダは溜息を禁じ得ない。「誰よこんなものを軍に押し付けたのは…」そのショートカットで切り揃えられていたはずの髪もボッサボサで、ストレスにより掻きむしったことで、フケが浮いていた。
国に属する者が行なった改造により処理槽の耐久性が低くなってしまったのだから下手に民間に頼るわけにも行かない。なにせ勇者様方が開発したものなのだ。ことさら愛国者というわけでもないが、国で働くものとして国家の利益を追求し、国家の不利益を避けようとする程度には従順であった。
「やはりWBCが再導入されるまで待たないといけない…?」人でいけないところもスライムなら。
少なくとも倒されないために、今回は従来のものより性能が良くなければならない。となると、どれだけ制作に時間がかかることか。実戦導入されるまでの期間は未知数だ。
「結局待つしかないわね」
結局何もすることがないのだ。他にやることがあればまだマシなのだが、国の治安は警邏隊が対応し、国境などで紛争も起こらず、何もやることがない。やることがあるのに進められないのはストレスがたまる物である。
「もうしばらく暇なら…」料理本を取り出し、勉強を始める。こう見えても新婚さんなのだ。
国王からの依頼を受け、賢者ミレイは新型WBCをどのようなコンセプトにするべきか悩んでいた。
というのも、これまでのものは、暴走しても楽に抑えられて、かつスライムを倒すのに特化したスライム、というのをコンセプトにしたからだ。これ以上ステータスを上げると、脱走、暴走したWBCに子供が殺されかねない。
魔道具などで行動を抑えるのも考えたが、本能自体あまり存在しないスライムには難しく、またできたとしても材料費や、その設置場所の観点からやらないだろう。
そうなると、少数精鋭の物を作るのがより簡単。少数ならば暴走しても目が行き届くだろうという配慮だ。ステータス増強だが、普通ならばレベルアップによる進化を抑えるためにものを大量にスライム発生槽に投下するのだが、今回はしないでおく。いわゆる蠱毒の原理で、淘汰して強くする。スライムキラーとかの称号が付けば、よりスライム討伐に特化してくれるからなお都合がいい。
「いやー、私って天才っ♪ほぼこれまでと同じ設備で増強するなんて♡」
15歳の時に異世界召喚されて、はや15年。この世界にもうまく順応することができ、魔王討伐も果たした。送りだしたあの神のしたり顔は気に食わないが、それを除けば、全てが順風満帆。召喚当初は戸惑った自分の不死特性も、危険を伴う研究の日々で素晴らしいと思えるようになった。
ああ、なんと素晴らしい日々か!!地下空間を使って、本来死ぬような危険な実験も行えるなんて!人体の構成とかも勇者パーティー特権で死刑囚を流用できるし、強力な個体について調べるなら自分の肉体を調べればよい。不死万歳。
スキルも一般に人に身につく魔法系、剣術系などは網羅できた。問題は探知系で、そもそも探知系を持つものは法を犯さないのか、それとも捕まらないのか、探知系で汎用性の高いものをもつものは実験できなかった。勇者は確か持っていたと思うが、まさかこの私があの淫魔に頭を下げる?考えられない!
スライム育成槽の設定をいじり、大量に発生させるようにして、あとは放置。餌のなくなったスライム達は共食いをはじめ、レベルの高い、強力な個体が生まれることだろう。起きてきた時にどのようになるのか楽しみでならない。
賢者はおふとぅんへと特攻する。
賢者のサイコ感出せてるといいなあ・・・




